みそ文

遺影の写真

日本舞踊をしなくなってからずいぶん経ち、最近では、もう、めったに、着物を着ることがなくなった。けれど、着物姿を見るのは好きだし、反物や帯を見るのも、帯締めや色襟などの着物関連小物を見るのも大好き。だから、職場の同僚の誰かが、着物を着たり、子の成人式に振袖を着せたり、孫の七五三で着物を着せたり、という機会があるときには、ぜひともその写真を見せてほしいとねだっておく。すると、しばらくした頃に、同僚が、「写真できたんで、見てもらえますか」と、わざわざ持ってきてくれる。「やったー、やったー」と喜んで、休憩時間にじっくりと見せてもらう。

先日は、姪御さんの結婚式に出席した同僚が、この機会にと家族写真を撮影したものを見せてくれた。同僚は留め袖を、娘さん二人は振袖を、ご主人は礼服に白いネクタイで、家族四人で写真館(ブライダル屋さんの写真部門)で撮影したもの。色鮮やかな振袖も、二十代の娘さんたちのぴちぴちとした若さも、もちろん華やかなのだけど、その写真に写る同僚の姿があまりにも美しくて、私は感嘆の声をあげる。「なんでこんなにきれいなんですか」と問い詰める私に、同僚は「そりゃあ、前の日の晩、顔のマッサージ、すっごく頑張りましたもん」と、えへん、のポーズをする。

「ああ。たしかに、マッサージ効果は素晴らしいですねえ。血色もきれいだし。でも、なんていうんでしょう、このきれいさは、神々しい、に近いような、菩薩様のようなマリア様のような、すっごくいいお顔」
「んもう。どうやら先生ってばー、何かあげなきゃいけないじゃないですか。でも制服のポケット探っても、あげられるものは、今週のチラシくらいしかないですねえ」
「それは要りません。私も同じの持ってますから。いや、でも、本当に、この写真、すっごくいいです。二十代の娘さんたちよりも、誰よりも一番きれい。そうだ。縁起でもないですけど、この写真、遺影写真の候補にどうですか」
「あ、それ、いいですねえ。そういえば、最近は、そうやって、本人が気に入った写真を遺影用に準備しておくんですよね。私も自分の遺影の写真、これだったら、機嫌良く逝けそうな気がする」
「とはいっても、今の写真では、実際おばあさんになって死んだ時には、子や孫たちが、ちょっと、おばあちゃん、いくらなんでも、この写真は若い時すぎるやろう、って、葬式がツッコミ大会になるでしょうねえ」
「じゃあ、十年前後以内で死んだ時にはこの写真をこのまま使うようにして、それよりも長生きしたときには、また新しく気に入る写真を撮って、遺影候補を更新しておくか、この写真をベースに年を重ねた感じに加工してもらうかします」
「なるほど。更新もいいし、加工もいいですね。その写真ができあがったときには、また、私にも見せてください」

そのあとは、娘さんたちの振袖姿のスナップ写真をたくさん見せてもらう。着物が好きだからという私のために、私のリクエストに応えて、前から、後ろから、右から、左から、帯や帯締めや色襟がよく見える近さから、襟元や髪形や髪飾りがよく見える形で、草履や鞄もよく見えるように、と、いろんな写真を撮ってくれているから、うわうわ言いながらうっとりと写真をめくる。振袖を着た娘さんたちを、おじいちゃんおばあちゃん(同僚にとってはご両親)の家に連れて行って、祖父母と孫娘が並んだ状態で撮影された写真も感慨深い。他人の私ですらこんなに感慨深さを感じるのだから、おじいちゃんやおばあちゃんは、こんなに娘さんらしくきれいにあでやかな姿になった孫娘の、小さいときからこの日までのいくつもの時が思い返されて、さぞかしうっとりなことだろうなあ。

ああ。満足。

    押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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