みそ文

ちぇりちゃんの単独任務

職場で売り場の整理整頓作業をしていたところに、親子連れのお客様が「すみません。トイレ貸してください」と声をかけてくださる。上のお子さんは自分で歩いてトイレを目指し、下のお子さんはきっとまだ一才くらいで、お店の幼児用椅子付きのカートに乗った状態。カートの上には買い物かごが置いてあり、中にはいくつかのお買い上げ予定商品が入っている。

「はい。どうぞ。扉の中の、トイレマークのところです」
「はい。あの、商品は、ここに置いたままでいいですか」
「はい。もちろん。貴重品だけは、お持ちくださいね」
「はい。わかりました。行ってきます。じゃ、ちぇりちゃん(カートに乗ってる一才くらいのお客様の名前)、カゴの中のもの、見ててね」

お客様は、そう言うと素早く、トイレへと駆けてゆかれる。売り場に残された私と、カートと品物と、一才のちぇりちゃん。私とカートと品物はともかく、お子様まで置いていかれるとは、予想していなかったから、内心「ええええええ?」と思いつつも、ちぇりちゃんには落ち着いて微笑みかける。「では、ここで、少しの間、一緒に待っていましょうね」と静かに声もかけておく。

そうしていたら、バックヤードから、新人二年目くんが店内に入ってきて、そこに私がいるのはともかく、お客様のお買いもの道具があるのもともかく、あまりにも小さい人がおもむろにそこにいることにひどくおどろく。

「うわあっ。びっくりしたー。な、な、なんで、こんな赤ちゃんが一人でいるんですか」
「今、トイレに入っていらっしゃるお客様のお子様なんです。お母さんが上のお子様をトイレに連れてゆかれて、こちらの小さなお客様は、それを待っていらっしゃるんです」
「そうなんですか。でも、この人(一才の人)、むっちゃ、暇そうじゃないですか?」
「それが、こんなに小さいのに、カートのカゴの中の商品を見ておくように、お母さんから言われてるんですよ。だから、このかた、こう見えて、実は、大忙しなんです。すごいでしょ」
「そんな、それはすごいけど、でも、見ておいて、って、言われても、この子はカゴの商品を見て、何をすればいいんでしょう」
「それは、うちのお母さんはこれ買うんだなあ、とか、大切なものなのかなあ、とか、わしにどないせいっちゅうねんっ、とか、そういういろいろ思いつつ待つ、ってことなんじゃないですかね」
「ええええ。そうでしょうか。どうやら先生が一緒にいらっしゃるから、まあまだ、ですけど、この人、一人でここにいたら危ないですよね」

というような話をしていたら、トイレからお客様が戻ってこられて、「すみません。やっぱりこの子も連れて行きます。上の子、トイレに入れてきたんで。カートと品物だけ、ここに置かせておいてください」とおっしゃる。「はい。ごゆっくりどうぞ。そのほうが安心ですよね」とお応えして再び見送る。

それから新人二年目くんと、顔を見合わせて安堵する。

「よかったですね、これで一安心ですね」
「一才の子が品物を見張っていなくても大丈夫なくらいには、うちのお店、治安がよくてよかったですね」
「いや、でも、プロの窃盗団が巡回万引きに来ることはあるんですから、小さな人は一人でいないほうがいいですよ。何かの拍子でカートから落ちても危ないし」
「ですよね。でも、まあ、お客様も複数の小さな人を連れて、緊急トイレのお世話をしながら、さらに小さい人のお世話もするのは、大慌てでうひゃあ、になることが、きっと、あるんですよ」
「そうなんでしょうねえ、きっと」

とりあえず、いろいろと無事でよかった。
    押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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