みそ文

がんばるおじさん

十代の最後か二十代になって間もない頃かに、テレビを見ていたら、各地の「がんばるおじさん」たちにインタビューする番組が放映されていた。その日取り上げられていた地域は、同級生の友人の故郷の住所と同じで(その頃私たちは各自の故郷から離れた地域の大学に集っていた)、その「がんばるおじさん」の名前が、友人と同じ名字であることに気づく。その友人の名字はたいへんに珍しくて、その名字を持つ人を、私は、彼女の家族親族以外に知らない。その友人が以前見せてくれたことがあるような記憶の中の家族写真のお父さんに、その「がんばるおじさん」はなんとなく似ている気もする。

後日、学校で、その友人に会ったときに「ねえねえ。このまえ、テレビに出とっちゃったの、お父さん?」と話しかけると、友人は「えええええっ。どうしようっ。うちのお父さん、何で、何で捕まったん?」と真顔で訊いてくる。私の方が驚いて「ちがうよ、ちがうよ。がんばるおじさんとしてインタビューを受けようちゃったんよ。地域で活躍しようてん人を取り上げる番組じゃったんよ」と言うと、友人は「あああああ。よかったあ。うちのお父さん、何しでかすかわからんけん」と、ほんとうに大きく胸をなでおろす。

後日、その友人が「みそさん。ほんとじゃった。うちのお父さん、テレビの取材受けたんだって。みそさんが見たって言っとったのが、その日だったらしいわ。よかった。お父さんが捕まってなくて。お母さんも、大丈夫よ、お父さん捕まってないよ、って電話で言いようたけん、ほんとうに大丈夫と思う」と、確認事項を教えてくれる。

ある種の、地域や町の名士的な存在として活躍を成す人というのは、どこか「何をしでかすかわからない」ような部分が、その活動と活躍の原動力になっているものなのかもしれないなあ、と、乙女心に、あのときに、ちょびっと小さく、確信した。


本日の広島弁講座。
「何何しとっちゃった」「何何しようちゃった」は、両方とも「何何していらっしゃった」を表す敬語表現である。「しとっちゃった」のほうは過去完了の意味合いがやや強く、「しようちゃった」のほうは過去進行のイメージを伴う、か。
現在形で敬意を表す場合は、「何何しとって」「何何しようて」と言い、動詞の活用の後に「て」をつけることで敬語とし、「何何していらっしゃる」の意味を持たせる。ただし、同じ「何何しとって」「何何しようて」でも、敬語ではなく、自分が「何何していて」と理由やいきさつを表す場合もあるが、それは登場人物の格や前後の文脈で判断する。
敬語の「て」の前の部分の「しとる」「しようる」は、敬語ではない一般表現として自分や目下の人や親しい人の行動を表す場合に用いる。「しとる」「しようる」どちらとも現在進行のようではあるものの、「しとる」のほうは広義の「何何している」であり、対象として捉える時制の期間がやや広く長めな場合が若干多いだろうか。一方「しようる」のほうは、「何何している」という意味を表現しつつも「今まさに何かをしつつある」ことの躍動感や刻一刻と変化する様子を伴ったイメージを想起させる面がある、か。
関西地方で用いる「何何してはる」の「はる」によって、広く、場合によっては浅く、敬意を表現する言語文化に比べると、広島弁における「しとっちゃった」「しようちゃった」「しとって」「しようて」は敬語としての厳格性が高く、目上の人(身内ではない場合が多い)の行動に限定して用いる。     押し葉

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Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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