みそ文

異国の地にてヨクイニン

先週か、先々週か、事務所でなにかの作業をしていたら、薬剤師呼び出しチャイムの音が聞こえた。はいはいはい、と、売り場に出てみると、登録販売者の男性社員が「すみません。外国のお客様で、よくわからないのでお願いしてもいいですか」と言いながら私を誘導する。誘導された先には、白色人種と思われる容貌の男性が立っていて、「これ、なおし、たい」と言って、彼の手の指にできているイボと、「疣贅(ゆうぜい)」の説明が日本語で書いてある紙を、私に見せてくださる。

その男性のお客様は、簡単な部分は日本語で、少し複雑な部分は英語でお話してくださるから、私も、簡単な部分は英語で、少し複雑な部分は日本語で、説明と対応をしてみる。実際お話してみると、日本語を話すことには少々難があるけれど、日本語を聞くほうは話すほうよりもずいぶんラクにできるようだ。私の英語や韓国語や熊本弁とおなじだね、と思うと同時に、言葉が十分に通じない土地で体調がすぐれないときの心細さや不安な気持ちを思い出し、慣れない土地で健康管理にあたるときの緊張やいろんな心中を察する。だけど、そういう境遇をある程度選んでいる人は、そういうときに対処する力もある人なのだから、だいじょうぶだいじょうぶ、と、安堵と信頼も強く持つ。

「疣贅(ゆうぜい)」つまりイボの対応としては、足のようなかたい部分であれば、市販のイボコロリなどサリチル酸系薬剤を使う場合もある。けれども、足よりも上の柔らかい皮膚の部分にこの薬剤を用いると、その部分が火傷の痕のようになって、皮膚が変色したり盛り上がったりすることがあるから、おすすめはしない。(おすすめはしないけれど、年輩の豪胆な男性の場合には「ええんや、痕が残るくらい。もうおっさんやし。病院に行くのが面倒くさいんや。病院に行かずに何かしたいんや」とおっしゃって、強引に購入なさる場合もある。)だから、痕が残りにくい治療方法のひとつとして、皮膚科で処置を受ける選択肢をご紹介する。

そのお客様は「皮膚科にはもう行ったのだ。行って、このイボの治療方法の説明は聞いた。けれど、その治療方法は、自分にとってはあまりにも長い期間がかかることと、何度も通院しなくてはならないことがわかった。だから、皮膚科ではなく、市販のもので対応したくてここに来た」という意味のことを話してくださる。

そういうことでしたら、と、外科的な処置ではなくなるけれど、「ヨクイニン」という名前の生薬エキス(ハトムギという植物の実の皮を取り去ったものを煎じて得られるもの)を飲むことでイボや肌荒れをひかせる方法があることと、その場合に用いる薬はこれで、一日三回食前に六錠ずつ飲むのです、と、実物をお見せする。

お客様は「一回に六錠も?」と、やや難色を示されるので、「とても小さな錠剤ですから飲むのは簡単ですけれど、もしも錠剤が苦手であれば顆粒のものもありますよ」と、別の箱を手に取る。私の英語での「顆粒」の発音が伝わりにくかったのか、彼の用語の中では「顆粒」が日常的な存在ではなかったのか、「顆粒とはなんぞや?」と訊かれるから、「粉ではなくて、錠剤でもなくて、カプセルでもなくて、粉末よりも粒子が大きいお薬で、少々お待ちください」と言ってから、別の売り場で顆粒状の甘味料(透明な袋に入っている)を取って持ってきてお見せしながら「顆粒はこんなかんじです」と説明する。

お客様が「顆粒の場合は、一回どれだけ飲むのか?」と訊かれるから、「箱の中に小さな袋がいくつか入っています。そのうちの一袋を一回に飲みます。一日三回食前なのは同じです」と説明する。お客様は少し考えてから、「錠剤なら飲めるからこちらにする」と、最初に紹介したヨクイニン錠を選んで、「どのくらいで効果が現れるのか」と質問される。「個人差はありますが、早ければ一週間程度で、あるいは二週間以上たってから、というあたりが目安でしょうか」とお応えする。

お客様は、もう一度、そしてもう一回、さらに再度、「朝昼夕、六六六、でいいのだな?」「朝六、昼六、夕六だな?」「六六六?」と、念を押して確認なさるから、「そのとおりです。一回六錠、一日十八錠、朝昼夕、六六六です。食前のほうが効果的ですが、食前に飲み忘れた時には食後になってもかまいませんから、六六六、で飲んでください」と念を押してお応えする。「わかった。ありがとう」と日本語言ってレジに向かわれるお客様に、「ありがとうございました。おだいじにどうぞ」言いながら、お辞儀をしてお見送りする。

縁あって、日本に来られて、たまたま出会った、ハトムギという名の植物の生薬エキスのヨクイニンが、あのお客様にとって、「ああ、ほんとだ。イボにこんなふうに効く、こんな薬もあるのだなあ」と、腑に落ちるものになってくれるとよいなあ。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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