みそ文

りららちゃんの弟

職場の同僚のお孫さんは、三歳女児の「りららちゃん」と、その弟(生後数カ月)の「るうとくん」。そのるうとくんが急な病気で入院治療することになった。零歳児で母乳育児中だから、りららちゃんとるうとくんのお母さんは、るうとくんの病室に泊まり込みで付き添い中。

同僚は、連日の泊まり込みで疲れているお嫁さん(りららちゃんとるうとくんの母)に、せめて食べるものだけでも、と、お弁当を作って届ける。小児病棟で付き添いする大人用には病院食は支給されず、院内売店か院外にあるコンビニで適当なものを購入して食べるしかない。ずっとそれではおっぱいの出がよくないことになるであろう、いいおっぱいを飲んでこそ、るうとくんの回復も促されることであろう、と、同僚は弁当づくりに励む。

同僚には、二人の息子さんがいらっしゃって、二人ともすでに成人している。そのうちの一人が、りららちゃんとるうとくんのお父さんだ。

りららちゃんのお世話は、入院付き添い中のお嫁さんに代わって、主に同僚が行っている。朝夕と保育園の送迎をし、出勤して仕事をこなし、帰宅後は三歳時をお風呂に入れ、食事を与え、遊び相手をし、話をし、寝就くまで相手をする。朝は早くに起きて、夫のぶんと、息子二人のと、自分のぶんと、そしてお嫁さん用には少し豪華に栄養のことも考えて、お弁当を五つ作る。

りららちゃんは、お母さんがいないことが大きなストレスになっているらしく、お父さんの抱っこもいや、おじいちゃんの抱っこもいや、おじちゃん(りららちゃんのお父さんの弟)の抱っこもいや、おばあちゃんは抱っこはいいけど顔の洗い方(りららちゃんの入浴時に洗髪や洗顔をしてやる)が気に入らない、と、ひよーんひよーんと泣くのだそうだ。

るうとくんが生まれるときにお母さんが出産でいない間、りららちゃんは頑張っていい子でお留守番していたけれど、お母さんとるうとくんが帰ってきて、安心したばかりだったのに、また、お母さんと離ればなれでいることが、りららちゃんは悲しくて、そのままならなさに打ちひしがれる。

同僚は「るうともあんなにちっちゃいのに、血を抜いて検査を受けたり、たくさん点滴を受けたりで、かわいそうだし、りららもまだまだ小さいのに、さみしい気持ちのストレスを受け容れなくちゃならなくて、ほんとうにかわいそうだ」と言う。そして「でも、今は、家族みんなのがんばりどころで、なんでも、りららの思い通りにしてやるわけにはいかないけれど、あの子が笑ってないと、やっぱり、家族みんながつらいというか」と話す。

「なんだか、たくさん、お疲れ様でございます。とにかく、まずは、しっかり食べて、ぐっすり眠ってくださいね。るうとくん、回復して元気になったら、またひとまわり丈夫さが増すんでしょうし、今は、りららちゃんも、さみしくてかなしくて、いっぱい泣くかもしれないですけど、ままならなさの体験は、きっと確実に精神的な丈夫さを強化して成長の力になってるはず」と、私はなんとなく断言する。

同僚は「そうでしょうか。そうですよね。そうだ、そうだ、きっとそうだ」と、なにやら背筋がしゃんと伸び、「そういえば、なんですけどね、これまでも今も、だんなや息子たちにいくらお弁当を作っても、おいしかった、も、ありがとう、も、聞いたことがないんですけど、お嫁さんは、毎回必ず、電話やメールで、おかあさん、おいしかったです、ごちそうさまでした、ありがとうございます、って言ってきてくれるのが、すごく嬉しくて、いいなあ、女の子っていいなあ、かわいいなあ、って思うんですよ」とうれしそうに言う。

「ああ、それは、だんなさんと息子さんたちは、ちゃんとご馳走さま言いなさいパンチ、ですけど、息子さんはいいお嫁さんを見つけてきてお手柄、ですね」
「ああ、そうかも。だから、いま、いろいろきついのはきついんですけど、ほら、職場も、それぞれの事情での欠勤が続いてて人手不足でつらいんですけど、お嫁さんが、おかあさんありがとう、って言ってくれるたびに、よかったなあ、大丈夫、わたし、がんばれるなあ、って思うんです」
「ああ、ほんとうに、人手、ってたいせつですよねえ。なんか、わたしたち、みんな、最近、毎日、いっぱいいっぱいで、ピーンチ、なかんじですもんねえ。それでも、まだ、りららちゃんの面倒見ながら、お嫁さんのサポートしながら、出勤してくださってるから、本当に心強いです。ありがとうございます」
「いえいえ、そんな、それはこちらこそですよ」
「いいえ、そうです。だって、わたしには、孫もお嫁さんもいませんもん。世話もサポートもないですもん」
「ああ、そうかあ。じゃあ、わたし、けっこう、がんばってるってことですかね」
「けっこう、なんてもんじゃないですよ。かなりがんばってはるはずですから、そのつもりで、ご自身の手入れもメンテナンスもねぎらいも、しっかり丁寧にしてくださいね」
「あ、そうか、そうですよね。わたし、実は、えらいなあ、がんばってるなあ、なんだ」
「実は、じゃなくて、明らかに、です。というわけで、わたしの実家の父が畑で作ったピーマン、誰かにもらってもらえないかなあ、と思って持ってきたんですけど、よかったら持って帰ってもらえませんか?」
「え? ピーマン? お父さん、畑作ってらっしゃるんですか?」
「そうなんです。豊作だといろいろ送ってきてくれるんですけど、わたしが最近ピーマン食べられなくなって」
「ええ? なんでですか? おいしいのに。栄養いっぱいなのに」
「おいしいのは知ってます。わたし、もともと、ピーマンが野菜の中では一番大好きなくらい好きでしたもん。あんまり好き過ぎて食べ過ぎたんでしょうか。一生分食べ終えたんでしょうか。今はピーマンを食べると、歯茎が腫れて、頭が痛くなるから、食べるのやめてるんです。ネギやニンニクやタマネギもそうなんですけどね」
「あらあ、それは、るうともりららもかわいそうだけど、どうやら先生もかわいそうだわ。そういうことなら、ありがたくいただきます。今年は暑すぎて雨が少なくて、うちの庭の夏野菜は全然実がならなくて、全部買ってるから助かります」
「ああ、よかった。ありがとうございます。わたしもピーマンの行く末が安心できて助かります。お弁当のおかずにでも使ってもらえたら嬉しいです」
「そうします。うちの家族はみんなピーマン大好きですし。きっといっきに使っちゃいます」

広島のピーマンたち、どうか、りららちゃんと、るうとくんと、同僚とその家族みんなの、健康のことを、よろしくね。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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