みそ文

扇の要返し(中編)

承前。

まず、「要返し」の解説。日本舞踊経験者にとっては日常用語である「要返し」だが、日本舞踊とあまり接点のない方たちにとっては馴染みのない単語かもしれない、ということに気づいたから。読み仮名は「かなめがえし」。扇の要の部分を回転させなが上下に動かすことで、扇全体がふわふわくるくると大きく舞い踊るように見える芸のひとつ。

では、本題開始。

姪っ子のみみがーが、日本舞踊を習い始めて以来、私が広島に帰省すると、義妹のゆなさんが「おねえさん。みみがーの踊りの録画、見てくれてですか?」と言う。私は「もちろん。見る見る。見せて見せて」と頼む。するとゆなさんが手際良くテレビ上映を準備してくれ、居間の大きなテレビで、みみがーの舞台が始まる。テレビの中のみみがーは、小さな子どものサイズの華やかで艶やかな着物をきちんときれいに着つけてもらい、髪の毛も丁寧に結いあげて、立派な踊り手さんのいでたちだ。

ちんとんしゃん、てて、つんてんてん。踊りの曲が始まって、みみがーは動き出す。生真面目な表情で真剣なのはとてもよくわかる。けれど、その真剣過ぎる表情は、やもすると少し不機嫌に見えるほどで、「きみ、きみ! 舞の喜びを感じてるかー!」と問いただしたくなってくる。踊るときにはぜったいにへらへらと笑ったりはしないけれど、特別に笑みを作ることもないけれど、曲の内容や歌詞の意味に応じて、表情を緩めたり緊張を漂わせてみたり、目を伏せたり、目線をぐっと強くしたり、という表現を盛り込む。けれど、みみがーのまばたきは、人体が自動で行う眼球保湿のための動きのみ。

本人なりにがんばっているのは、とてもとてもよくわかる。お稽古の時には身につけない重さの帯と髪飾りとで、思うように動けないのだろうな、とも思う。もう少し体もこころも大きくなったら、そういう装具の重さに振り回されることも少なくなり、普段の稽古で積み重ねた動きを再現しやすくなるのだろう。

みみがーの踊りが終わり、会場から、「ほう」「ぱちぱち」と安堵の声と拍手が上がる。私もテレビの外から、「ほう」「ぱちぱち」と安堵の息と拍手をする。隣にいる妹が「ね。ねえちゃん。みみがーの踊り、見とるほうが息が止まるじゃろ。ねえちゃんも息が止まっとったじゃろ」と言う。

「ああ。そういえば、そうかも。でも、みみがーなりに、ようがんばっとるのはようわかるよ」
「みみがーは小さいけん、老人ホームの慰問の舞台のときなんかでも、みみがーが出てきたら、それだけで、まあまあこんなに小さい子がきれいな着物を着せてもろうてからに、っていうかんじで、わああ、いうて喜ばれるんじゃけど、いざ踊り始めたら、みんなもう、この子はちゃんと最後まで踊りきれるんじゃろうか、振りをちゃんとおぼえとるんじゃろうか、いうのが気がかりで気がかりで、しーん、と息が止まったみたいに静かになるんよ。あんたあねえ、老人の慰問に来とるのに、年寄りの息を止めさせてから、寿命縮めちゃあいけんじゃろう、いうかんじなんじゃけん」
「でも、舞台の回を重ねるたんびに、だんだん上手になりようるが。大きくなったらもっと楽に動けるようになるじゃろう」

小学校一年生のときから日本舞踊を習い始め、現在は名取りとしての精進を重ねる妹にとっては、小学生当時の自分がすでにできていたと記憶しているつもりのことを、みみがーができない、あるいは、やろうとしないように見えることが、少々はがゆく不満に思えたりするのだろう。

あれ、おかしいな。今日が後編にになるはずだったのに、なかなか本来の本題に辿り着けないぞ。仕方がないので、今日の話は「中編」として、また後日後編につづく(予定)。     押し葉

 | HOME | 

文字サイズの変更

プロフィール

どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

ときどき、思い出したように、いただいたメッセージへのお礼やお返事をリンク先の「みそ語り」に書いています。よろしければ、いつでも、どうぞ、どなたでも、ご覧ください。「みそ語り」では、メッセージをくださった方のお名前は書いておりませんので、内容から、これは自分宛かしら、と推理推察しながら読んでいただければうれしいです。手の形の拍手ボタンからメッセージをくださる場合は五百文字以内、文字の方の押し葉ボタンからメッセージをくださる場合は千文字以内となっております。文字数制限なくお便りくださる場合には、下のメールフォームをご利用ください。

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク

最新記事

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (0)
暮らし (110)
仕事 (161)
家族 (301)
想 (23)
友 (47)
学習 (79)
旅 (16)
心身 (8)

FC2カウンター

検索フォーム

FC2Ad

Template by たけやん