みそ文

扇の要返し(前編)

広島で子どもとして生活をしていたころ、実家では、家族全員で日本舞踊を習っていた。もともとは、祖母の片腕と肩の動きが一時期不自由になったことの治療とリハビリを目的として、父と母が日本舞踊の先生を探して見つけてきたように記憶している。祖母は、明治生まれの昔の人で、女学生のときだったか卒業後だかに三味線や日本舞踊を習っていた時期があるらしく、懐かしさと馴染みのある日本舞踊での腕のリハビリには相当積極的であった。

日本舞踊の先生は、当時二十代前半の小柄な女性で、けれども一度踊りだすや、その小柄な体が空間いっぱいに雄大に拡がる不思議な存在感を持つ人で、お若いけれど、いや、きっとお若いからこそ、当時小学生だった私や弟や妹にも、父や母や祖母にも、びしりとした丁寧さと厳しさをもって指導してくださる方だった。

祖母一人が習うのであれば、先生のご自宅まで、祖母一人が通わねばならない。そうなると、数キロは離れた場所だから、父か母が運転して送迎する必要がある。けれど、だいたい三人以上くらいがまとまって一か所で習う場合には、先生がその場所まで出向いてくださるシステムがあった。だから、両親は、それなら、うちの家族六人全員で習えば、先生に来てもらえるね、という算段をしたらしく、ある日小学校から帰ってきたら、いきなり「今日から毎週一回夜に一人三十分ずつ日本舞踊を習うことになったから」という決定事項が告げられた。

それから毎週その曜日になると、家族全員が日本舞踊の準備をする。自分の順番になる数十分前には和服に着替える。夏は浴衣に、冬はウールの着物に。そして自分の順番になるまで、和室の隅に正座をして、先生の指導と家族の踊りを見学する。練習が始まる前には、先生の正面に正座して、「よろしくお願いいたします」と手をついて頭を下げる。練習が終わると、また先生の前に正座して、両手をついて頭を下げて「ご指導ありがとうございました」と挨拶をする。小さなうちは、練習が済むと、子どもたちは順次寝支度をする。お風呂に入ったり、次の日の学校の準備をしたり。

そうやって、何年か経過したころ父は仕事が忙しくなり日本舞踊をやめた。弟は十年近く習ってから大学進学を機にやめたような気がする。いや、もっと前の高校進学時にやめたのだったろうか。私は十七年近く続けたことになるだろうか、二十八になる少し前に結婚して家を出ると同時にやめた。祖母は亡くなる数年前に「新しい振付をおぼえられなくなった」と言ってやめた。祖母が亡くなる前後に母もやめた。今は妹だけが、自分で先生のご自宅まで通って習い続けている。

そして数年前、姪っ子のみみがー(弟の娘)が、小学校に入る前後ごろ、同じ先生のところで日本舞踊を習い始めた。先生のご自宅までの送迎は、ゆなさん(みみがーの母。弟の妻)がしてくれている。

後日後半へつづく(予定)。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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