みそ文

夫婦の温度

「アイドルは要求する」で、私の「蚊界のアイドル」ぶりを書いたところ、「体温が高いからではないか」という予想と指摘を何件かいただいた。また「自分の配偶者も(あるいはこどもたちが)たいそう蚊に好かれている」という情報もいただき、アイドル人口とライバルの意外な多さも知った。

体温に関しては、私の腋下での体温計測数値は、そんなにいうほど高いわけではない。低温期と高温期とで若干の差はあるものの、だいたい三十五度台後半から三十六度台半ばくらいで推移する。

体温計で計測できる数値としてはだいたいその程度でも、自分の体の特定の部位から、独特の熱気のようなものが放出されている自覚はある。その放出は、湯気にも似てはいるものの、見た目に分かるほどの水蒸気は伴っておらず、けれど、ゆらり、と空気の揺れが見えるような、少なくともそこに手をかざすと、もわああっとしたなんらかのエネルギーの流動を感じるものだ。その部位の外側も内側も両方ともにかなり熱い。世の中の気温や湿度の高さとは別の事情、自分のその部位の熱さで、自分でも身の持って行き場のない感覚を覚えることがちょくちょくある。

私の体から熱気を発する部位とは、上から順に、頭頂部の両脇、首、背中の第五頸椎あたり(肩甲骨と肩甲骨の間のへん)、太ももの内側、足の裏、となっている。どれくらい熱いかというと、たとえば、手のひらを凍ったアイスノンに押し付けると、手形のように、みょわーっと、低反発素材がその部分だけ沈むように、私の手の形で凍った部分がいっきに解けるくらい。

蚊たちは、私のその熱気に吸い寄せらせてくるのだろうか。少なくとも私のほうは、蚊たちの襲来を望んでいない。望んでいるのは、夫とのスキンシップだ。けれど、こちらは、私が熱くなれば熱くなるほど、世の中の気温と湿度が高くなれば高くなるほど、夫は私から距離をとる。抱きついて首と太ももを絡めて、私の足の裏を夫のふくらはぎか脛につけて、手のひら全体を夫の二の腕にあてて、完全な納涼態勢、ではなくて、スキンシップ態勢を整えるのであるが、夫は「やめてくれー」「おれは抱き枕じゃないー」「みそきちの熱でおれの細胞が壊れるー」などと訴えながら、体をほどいて逃げる。夫もいろいろ学習したらしく、私が夏場に夫に近付くと、すいーっと逃げる技を各種開発している。それでも私が「仲良しなのにー」「夫婦のスキンシップは大切なのにー」と訴えると、「ほら。ここに仲良く並んで、エアコンの風を一緒に浴びよう。涼しいよ」と私をいざなう。私はおとなしく夫の隣に並んで立ってみるけれど、しばらくすると、「どうやらくん。顔や胸や胴体は冷やくなるけど、私の熱気のポイントは、エアコンの前に立っても熱いままだよ。特に足の裏は、立ってるから、ずっと熱いよ」と訴える。夫は「それは仕方がないよ。それだけ足の裏が熱かったら、人間として生きていくのも大変じゃろう」と私をねぎらってくれる。「うん。わたし、けっこうがんばって生きてると思う」と応える。夫は「こうやって、みそきちの熱さに近寄れなくなってくると、今年もまた夏がきたなあ、ってかんじがするよなあ」と感慨深げだ。夫にとっての夏の季語は「あついみそ」なのかもしれない。夫はさらに、「みそきちの熱を、何か、発電とか、手かざし治療かなんかに有効利用できたらいいのになあ」とも言う。それは私もそう思う。

私としては「蚊界のアイドル」の座に対するこだわりも執着もまったくない。むしろアイドルの座からの引退を強く希望している。順調で円満なアイドルからの引退と同時に、順調で円満な夫婦のスキンシップを目指したい。自分の体が快適ですこやかでありつつも、蚊の襲来とは一線を画して暮らしていける、そんな体づくりの各種研究を重ねてみよう。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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