みそ文

一族の豆ご飯

私の特徴のひとつとして、特筆すべきものをあげるときに、「豆ご飯をこよなく愛している」という一点は外せない。豆全般が好きではある。豆料理各種全般を好む傾向はある。しかし、中でも、ご飯と一緒に炊き上げたグリンピースや空豆は、豆だけで食べるときとはまた異なるおいしさがあり、白米とともに咀嚼することで得られる快楽をまとっているぶん、存在感が特別だ。

普段の私は、それほど大量の白米は食べない。食べられない、というほうが正しいかもしれない。発芽玄米や雑穀を混ぜて炊くと私好みになり、白米だけのときよりは、たのしく多く食べられるようになるけれど、それでも普段はせいぜいがんばって半合、これから仕事で力仕事を張り切るぞ、というときで一合弱(ただし食後少し気持ちがわるくなる)。けれど、それが、豆ご飯なら、一合は平気、頑張れば二合もいける、制止がなければ三合いっきに食べられるかもしれない。実際は二合前後の峠あたりで、家族からの制止が入るから、三合制覇を成し遂げたことはないのだけれども、豆ご飯はそれほどに、私の「適切な食事量」に関する「たが」をあっけなく外す。我が家では、夫婦ともに、豆ご飯を愛している。夫は私のように「たが」が外れることはないけれど、「おいしいなあ」と言いながら、ぱくぱくと食べる。同じものを一緒に「おいしいね」と言い合いながら食べる食事は、さらにおいしさが高まる。

私が子どもの頃には、私が豆ご飯だと大喜びをするから、母は定期的に豆ご飯を炊いてくれていた。祖母も豆ご飯は好物で、豆ご飯の日は、「おお! 豆ご飯じゃ。それじゃあ、お酒を一杯飲もうかのう」と、うれしそうに言う。祖母にとって好物のものや、祖母にとってお酒と相性がよいと認定されているもののときに、祖母はお猪口に一杯の日本酒をおいしそうに口にする。

豆ご飯はおいしいなあ、と、耽溺気味に食べながら、ふと、そういえば、母が豆ご飯を炊いてくれるのは、父が外食の時が多かったり、父がいるときには、なぜか別に白いご飯が炊いてあったりするなあ、と気づいて、母に、「とうちゃんは、豆ご飯が好きじゃないん?」と訊いてみた。すると、母は、「そうなんよ。苦手なんじゃって。それならそうと、最初に豆ご飯を炊いたときに、そう言うてくれればいいのにねえ。結婚してから、もう何回豆ご飯を炊いたかわからんくらい何回も炊いた頃になって、突然、おまえは嫌がらせをしようるんか、いうて言うんじゃけん。なんのことかと思ったら、豆ご飯は好きじゃないのに、何回も作って食べさせる、って。苦手なら苦手で、食べんとか、残すとかでもしてくれりゃあ、それもわかるけど、何も言わずに全部食べて、ごちそうさま、いうて言うけんねえ、豆ご飯もそれなりにおいしいんじゃね、と思うとったよ。けど、まあ、苦手なのがわかったんじゃったら、無理に食べんでもいいけんね、とうちゃんには豆ご飯は作らんのんよ」と説明してくれた。

すると、祖母が、「ありゃあ。おじいちゃんと同じじゃが。おじいちゃんもわしと結婚してから、ずうっと黙って豆ご飯食べようたのに、だいぶん経ってから、おまえはわしに嫌がらせをしょうるんか、いうて突然言うけん、なんのことか思うたら、豆ご飯は食べとうない、いうて。食べとうないなら、最初にそう言やあええのにねえ。おとうちゃん(私の父)も、へんなところで、おじいちゃん(私の祖父。父の父)に似たもんじゃ」と、おかしそうに笑いながら言う。

祖母と母は、それぞれ、各自の夫とともに、豆ご飯のおいしさを喜び合うことはできなかったかもしれないけれど、祖母と母が果たせなかった(というほど大袈裟なものではないけれど)思いは、私が今生で成就したから、一族の遺伝子たちは、安心するとよいと思う。豆ご飯が好きな人は食べ、豆ご飯が苦手な人は苦手であることを早期に表明し、自分の妻に「嫌がらせ」の嫌疑をかけたりする被害妄想は手放して、安らかな食生活を営むのがいいと思うよ。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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