みそ文

幻の前夜祭

五月二十三日は結婚記念日(のはず)。だんだんと数を数えることのたしかさもあやふやになり、指折り確認してようやく、たぶんきっと結婚して十六年が経っていて、今回の記念日は結婚十六周年で、これから結婚十七年目を迎えるんだよね、そうだよね、ということにする。

土曜日の夜、「前夜祭」と私が勝手に銘打ち、祝祭ディナーとして焼き鳥屋さんへ赴く。焼き鳥屋さんでは、せせり、ぽんじり、皮、ハラミ(横隔膜)、豚バラ、馬刺し、生キャベツを注文。おいしいね、おいしいね、と食べているとき、夫が、「あれ? ちょっとメニュー見せて」と言うので、私の右側に置いてあるメニューを取って夫に渡す。夫は、メニューの中のドリンクページをしげしげと眺めた後、「やっぱり間違ってる」と言う。

「間違ってる、って、なにが?」
「このお酒の名前読んでみて」
「えーと、幻の宰相(まぼろしのさいしょう)、小松帯刀(こまつたてわき)。宰相は、さいしょうで合ってる、よね?」
「うん。宰相は、さいしょう。で、あそこの壁の手書きのポスター見てみて」
「あ。幻の宰相が、幼の宰相、になってる」
「じゃろ。幼い宰相って、宰相として、いかんやろう」
「どうやらくん。気にしない、気にしない。この手のことはよくあることよ」
「よくあるかあ?」
「お店の人に教えてあげてもいいかもしれんけど、ここのお店の人たちの他の手書きのいろいろを見る感じでは、そのあたり(誤字脱字等)へのこだわりは、そんなになさそうじゃもん」
「それでええんじゃろうか」
「形が似てる漢字を間違えたり、意味が似ている漢字を間違えてあるのって、よくあるじゃん」
「たとえば?」
「ほら。沖縄の伊江島で、お店の扉に貼ってある紙の、氷、の文字が、永遠の、永、の字だったこともあるし、私の職場の鼻腔拡張テープの、本部作成POPの文字が、鼻膣拡張テープだったこともあるよ。それにほら。どうやらくんが、今年の年賀状に書いたコメントで、送ってくれてありがとう、のつもりで、届ってくれてありがとう、って書いてたの、私が気づいて教えてあげたこともあるし」
「はいはい。もうよし。それ以上、記憶の引き出し開けなくていいから。よからぬものが芋づる式に出てきちゃいけんけん。はい、おしまい」

普段なら、焼き鳥屋さんでは、このあと何か、炭水化物にあたるものを注文することが多いのだけど、今宵は前夜祭だからね、はしごしよう、と、はりきって、セルフの讃岐うどん屋さんへ。うどんと一緒に食べる揚げ物は、夫は、「かしわ天」が一番好きだと言う。でも、焼き鳥屋さんの後では、かしわ(鶏肉ささみ)欲が湧かないらしく、夫も私と同じく「ちくわ天」を選ぶ。夫は、葱と、天かすと、七味と、すりごまを、加える。私は、七味と、すりごまだけで。普段あまり手を出さない「ちくわ天」を一口食べた夫が、「あ、ここのちくわ天、おいしい」と言う。「ちくわ天は、おいしいよ。わたし、好きよ」と言うと、「でもコストパフォーマンスは、ささみのほうが圧倒的に優れてる」と夫は言う。コストパフォーマンスというものは、大切な場面では大切なのかもしれないけれど、讃岐うどん屋さんで食事をするときには、食べたいものを食べるのがいいように思うなあ。

結婚記念日当日は、元旦にする挨拶のように、お互いに向き合って、「おめでとうございます」と頭を下げる。そうして、「また一年間、よろしくお願いしますね」と続けて、双方の婚姻継続の意思を確かめる。ということで、めでたし、めでたし。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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