みそ文

修学旅行のストラップ

職場の休憩室で休憩をとっていたら、そのときたまたま同じ時間帯に休憩室にいたアルバイトの男子高校生が、「どうやらさん。これ見てください。かわいくないですか?」と、携帯電話を私の目の前に置いた。どこがかわいいのかな、と思って、「んん?」と首を傾げる私に、アルバイトくんは、「これですよ。ストラップ。かわいいでしょう」と言う。「えーと、このピンク色の、針金のですよね。これは何の形なんだろう」と言いながら考えていたら、「ピンクパンサーですよー。かわいいでしょー」とアルバイトくんは教えてくれる。

「あ、ほんとだ。ピンクパンサーの形だ。アルバイトくんって、ピンクパンサーファンだったんですか?」
「いや、別に、ファンってことはないんですけど。妹が小学校の修学旅行のお土産に買ってきてくれたんですよ」
「ピンクパンサーのストラップを売ってる修学旅行先って、どこなんですか?」
「ユニバーサル(ユニバーサルスタジオジャパン)です」
「あ、そうか。USJなら、ピンクパンサーいますね」
「めっちゃ、かわいいでしょう? このストラップ」
「そうですねえ。ストラップもかわいいかもしれないですけれど、お兄ちゃんのことを考えて、限られた修学旅行の時間の中で、一生懸命お土産を選んで買ってきてくれた、妹さんがかわいいですねえ」
「そうですよね! そうなんですよ! めっちゃかわいいんですよ!」

そうかあ。アルバイトくんは、妹さんが、大好きなんだなあ、かわいくて仕方がないんだなあ。


その数日前には、別の同僚女性が、お昼過ぎ頃に、「今日は子どもが修学旅行に出発で、朝五時起きで見送ってきたから、もう、仕事の電池が切れそう。こんな時間帯に疲れるって、私どこか悪いんやろうか」と言うので、「朝五時起きで活動したら、八時間後の午後一時には疲れるのが正しいですよ。今日は早めにゆっくり寝るようにしてください」と話した。

翌日になると、その同僚が、「どうしたんやろう。うちのおにいちゃん(上の男の子)が一晩いないだけなのに、ちゃんとご飯食べたやろうか、ちゃんとお風呂入ったやろうか、って気になって気になって、昨日の夜は寝れなくて、今日は朝から仕事の電池がないんです」と言う。その日の夜には、修学旅行から帰ってくる息子を、バスの帰着場所まで迎えに行くのだそうだ。

そして、さらに翌日。バックヤードでその同僚に、「息子さん、修学旅行から、無事帰ってこられましたか?」と訊くと、「はい。帰ってきて、大興奮で、だああああああっと喋って、こてっと電池が切れて寝ました」と教えてくれる。

「よかったですね。これでもう安心して眠れますね」
「そうなんですよ。昨夜は私もぐっすりでした」
「最近は、小学校の修学旅行では、どんなものがお土産になるんですか?」
「家族みんなには、京都の八つ橋(和菓子)でした。私には、携帯ストラップだったんですよ。それがすっごくかわいいんですよ」

私は、その同僚から、「ストラップがかわいい」という言葉が出てきたことに、少しばかり驚いた。

「どうやら先生。本当に、かわいいんですって。奈良公園の鹿の形で」

私は、その同僚から、「鹿の形がかわいい」という言葉が出てきたことに、さらに驚いた。なぜなら、その同僚は、お店で販売する商品に、おまけとして添付されてくるいろんな販促品の類を、いつも「邪魔」扱いするから。小さなぬいぐるみも、ストラップも、小さな鏡も、その他もろもろも、彼女にとっては余計なもので、「こんなものが付いていたら、商品の幅が広くなって、棚の場所を余分に取って、この棚の他の商品が棚割(本部で作成される商品配置図)どおりに棚に入らなくなるし」だとか、「こんなもん、誰もほしくないやろう」などと言っては、よほど必須のものでなく、取り外し困難なものでなければ、さっくりさっくり外して、ざざあっと捨てたりする。私が「うわ、捨てるんですか」と訊くと、「お薬のほうで、お客様に差し上げて喜ばれそうなら、使ってもらっていいですよ」と気前よく全部くれることもある。だから、その同僚が、鹿の形のストラップを「かわいい」と言うのは、なんだかとても意外だった。

「あ、どうやら先生、鹿なんて、たいしてかわいくないと思ってるでしょ?」
「いやいや、鹿は鹿なりにかわいいと思いますし、それなりに料理したらおいしいなあ、とも思いますよ」
「奈良公園の鹿は食べたら駄目なんですよ。でも、本当に、かわいいんですって。ただのストラップじゃないんですよ。鹿が金色にキラキラしてるんですよ。変わってるでしょ」
「金色の鹿ですか。めでたげですねー。よかったですねー。もう携帯に付けてるんですか?」
「もちろんですよ。すぐ付けました。一日に何回も見てます」

そうなのかあ。同僚にとっては、とにかく息子さんがかわいくて、その息子さんが買ってきてくれたものならば、携帯ストラップでも、奈良公園の鹿でも、金色でも何色でも、かわいくて仕方ないんだろうなあ。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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