みそ文

愛しの記念写真

夫は近々、通勤用の車を買い換える予定だ。夫が乗る軽自動車は、熊本に住んでいた頃購入したものだ。熊本から福井への転勤が決まり、福井での通勤には自家用車が必須だと知った夫は、自分専用の車を購入することにした。それ以来、その軽自動車は、ずいぶんと長い期間、夫の通勤を支えてくれた。雨の日も風の日も、雪の日も晴れの日も。この軽自動車に対して、私が何より感謝しているのは、夫の車の運転力を、普通以上にしてくれたことだ。

自動車通勤するようになるまでは、夫は車に関しては、いわゆるペーパードライバーだった。運転免許は持っていたし、自動二輪に関しては限定解除の免許保持者で、バイクならばいつでも気軽に自由自在に運転できていたけれど、車の運転に関しては、非常に危険な人であった。だから、大阪や熊本から広島へ帰省をするときも、運転するのは私の仕事で、夫は助手席でナビと睡眠を担当していた。私があまりに疲れたときには、交代してもらってみたりもしたのだけれど、運転する夫も、助手席に座る私も、あまりに過度に緊張して、全くドライブを楽しめず、二人とも息も絶え絶えになり、やはり車の運転は私がするね、うんそうしよう、ということになる。

当時一人で長距離を運転していた私は、目的地に到着すると、精も根も尽き果てたような状態になっていた。夫の実家では義母が、「みそさんはえらいねえ。よう遠くから、ずっと運転してくるねえ」と感心してくれ、「なんもせんでええけん、座っときんさい。寝ときんさい」と、英気を養わせてくれていた。それでも、長距離運転疲労のあまり、私は夜中に何度も、びくっと痙攣するような衝撃で目を覚ますことがあった。

それが今では、どこへ行くにも、二人で乗る普通自動車は、かわり番こで運転できる。目的地でも安眠だ。毎日通勤で車を運転するようになった夫は、車の運転が格段に上手になった。今では、半分ずつどころではなく、場合によっては、道中の大半を、夫が運転してくれて、私は助手席で歌をうたって上半身だけ踊ることだってできるし、安心しておにぎりを食べたりお茶を飲んだりもできるし、座席を倒して本気で寝ることもできようになった。本当にすばらしい。だから私は、「熊本で買った軽自動車くんありがとう」「福井転勤ありがとう」と、何度も天を仰いでは、心の底から手を合わせる。一人で運転して疲れ果て、夜中の痙攣で息を飲んでいた、当時の私に教えてあげたい。「だいじょうぶだよ。もうじき、車の運転は交替でできるようになるからね。夢みたいに快適だよ」と。

そして、その軽自動車を、近々買い換える予定の夫は、長年お世話になった記念に、写真を撮っておく、という。今日、二人で食材の買出しに出たときに、夫はいつも旅に連れてゆくカメラを手に持っていた。駐車場にいる軽自動車の傍に寄り、少しばかり腰をかがめて、いとおしそうに、シャッターを押す。対象物をきちんと撮影できたとき、このカメラは、ちょっと威勢良く「シャクン!」という音を奏でるのだけど、今日の音は違っていた。「シャウン」というような「ショウン」というような、「すんません、仕事できなくて」というかんじの、なんとなく申し訳なさげな音だった。

夫は、「あれ? あれ?」と言いながら、カメラを観察してみて、「あ、フィルムが入ってなかった。がっくし」と言う。フィルムが入っていなかったり、入っていても既にすべて使い終えていたりして、夫が写真を撮り損ねるのは、今回が初めてではない(みそ記「首里城」参照)。「どうやらくん、すごいねー。過去の学習が全然役に立ってないねー」と、私は心底感心した。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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