みそ文

義姉の毛布

何年か前のお正月に、実家で過ごしていたとき。居間に皆が集まって、飲んだり食べたり喋ったり。午後の日差しはうららかで、部屋の中はいつにない人の多さで、少しむせかえるような空気。新鮮な空気命の私としては、換気せずにはいられなくなり、「ちょっと寒くなるけど、窓開けて、空気入れ替えるね」と家族たちに声をかけて、居間のサッシも窓も大きく開け放つ。すうーっと外の空気が、部屋の中を通り抜ける。呼吸がふうっと深くなる。乾いて冷たい空気なのに、お日様にちゃんと温められた匂いがする。そうそう、広島の冬の匂いはこんなだった、と思い出しながら、日向にじっと正座して、うつむいて風の動きに身を委ねる。

「ううっ、さむいっ」と真っ先に声を出したのは義弟(妹の夫)だ。「あ、もう、寒くなった? もうちょっと待ってね。部屋のすみっこの空気まで入れ替えてしまうけんね。あとちょっとじゃけん」と言いながら、ソファのところに置いてある小さな毛布をとってきて、義弟の肩に、ふうわりと、かける。

義弟は、なぜだか、その、ふうわり毛布、に、ずいぶんと感激して、「みそちゃん、やさしい! 俺、やぎちゃん(妹)とじゃなくて、みそちゃんと結婚するべきじゃったかもしれん」と言い出す。隣にいた妹が、「もっきゅん(義弟)、よう考えんさいよ。今、もっきゅんが寒い思いをしょうるのは、ねえちゃんが、真冬にこうやって、窓を開けたりするけんじゃろ」と、覚醒を促す口調で言う。けれど、義弟は、もう、だいぶんお酒を飲んで酔っているせいもあるのか、「でも、やぎちゃんは、俺が寒くても、毛布かけてくれたりせんじゃん。放っとくじゃん。みそちゃんは、毛布かけてくれるけん、やさしいじゃん」と主張する。

妹が、「もっきゅんに毛布かけたりしたら、そこから動かんようになるじゃん。何かせんといけんことがあっても、動かんようになるじゃん。それにもっきゅんは、真冬に窓を開け放った部屋で寝る寒さを知らんじゃろう。寒いけん窓を閉めようとしたら、ねえちゃんに、ぴしっと、閉めちゃだめっ、息苦しいんじゃけんっ、て言われて、仕方なく、そのまま、お布団の中にもぐりこんだことがないけん、そんなこと言うんよ」と語りだす。すると、夫がいきなり、「そう、そう、そのとおり。吹雪の夜に隙間風の中で眠る寒さを、もっきゅんは知らんじゃろう。新鮮な空気ってそんなに重要か? 人間、一晩くらい、部屋の中にある空気で十分呼吸できるはずじゃろう」と同調をし始める。

だけど、義弟は、あいかわらず、「でも、みそちゃんは、毛布をかけてくれた。やぎちゃんはかけてくれん」と言い続ける。酔っ払い相手なのだから、妹も、適当に、わかったわかった、今度は毛布をかけてあげるけん、くらい言えばいいのに、と、思いながら、そのまま風を浴びていたら、妹がふいに「わかった! もっきゅん、ひとりだけ太っとるけん、そんなに、寒い寒い、言うんよ。他の人らを見てみんさい。みんな別に太ってないけん、ねえちゃんが窓を開けて、室内温度が下がっても、今はまだ昼間じゃし、そんなに寒がってないじゃん。もっきゅんだけよ、そんな、寒い寒い、言うのは。たぶん、皮下脂肪が多いのが、蓄冷になって寒いんよ。やっぱりダイエットしたほうがいいってことなんよ」と言い出す。

そして、今年のお正月に、実家で再会したときには、義弟は秋の南米下痢旅行で、すっかりスリムになっていて、南米のお土産話を熱心に話して聞かせてくれた。特に、夫が「お土産に持って帰ってきてほしい」と頼んでいた「現地のコイン」入手に至る経緯については、「国境沿いの売店で、お店の人たちが協力して、いろんな国のコインを集めてくれたのだ」と、詳しく話してくれて、夫も愉しそうに聞いていた。そのときに、私は、居間のサッシを開けて空気を入れ替えたりしたけれど、彼らは何も気づいてないみたいに、南米話に夢中だった。

数年前に、妹が、義弟は太っているからそんなに寒がるのだという説を唱えたときには、えらく無理やりこじつけた理屈でダイエットを促すなあ、と、少しばかりあきれながら思っていたのだけれども、こうしてみると、実はあの説は、あながち間違っていなかったのかもしれない、ということと、南米はダイエットに適した旅先であるらしい、ということに、密かに感心した、新春。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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