みそ文

おくりびと

実家の母から電話がかかる。「どうやらのお父さんとお母さん(私の夫の両親)から、お歳暮をいただいたけん、また、よろしゅう伝えておいて」という内容。夫の実家周辺では、地元で採れた農産物で作った味噌やお餅やきな粉や干し柿など、少しずつの詰め合わせセットを、ふるさと商品として販売しているらしい。昨冬だったか、義母が初めて、その商品を選んで、私の実家の両親に贈ってくれたときに、私の母が「ちょびっとずつなのか嬉しい。いろいろ試せるのが嬉しい」とたいそう喜んでいた話を、義母にした。だからなのか、今年も同じシリーズの今年版を、選んで贈ってくれたようだ。

それとは、別件での、母からの連絡事項は、父がお気に入りの九州の温泉宿に出かけて、いつもの焼き物の新しいバージョンを買ってきて、「みそにも、要りゃあ、送っちゃれえや」言うんじゃけど、配達時間はいつもどおり、夜8時以降でええかね、ということであった。
「ちょっと、待って、かあちゃん。あと三週間もしたら、そっちに帰省するんじゃけん、わざわざ送ってくれんでも、帰ったときにもらって、車に乗せて持って帰るよ。」
「ああ、そうか、それもそうじゃね。」
「それにね、以前にももらったのがいろいろあるけん、それととは違うぶんじゃったらほしいけど、同じような似とるぶんじゃったら、要らんと思う。見てから、決めたい。あと、前にも、とうちゃんが、私に、これはみそは持っとらんじゃろう、要りゃあ持って帰れや、言うて見せてくれたお皿が、既にとうちゃんが私に送ってくれとったやつそのもじゃったことがあるけん。やっぱり見てからもらいたい。」
「そうじゃね、そうしんさい。見てから、ほしいのを、もろうて帰りんさい。それがええわ。あ、でもね、一個だけ、なんか新しく四角いお皿があるのは、私も初めて見るぶんじゃけん、みそは持ってないと思うわ。でも、このお皿は、うちの分以外は、一枚しかないけん、早い者勝ちなんよ。」
「はい。はい。じゃあ、それはください。みそ、いうて、張り紙しといて。」
「わかった。大きく書いて貼っとくわ。」

というやり取りを終えて電話を切り、夕食の準備にとりかかる。煮込み作業に少し時間がかかるのを利用して、どうやらの母(義母)にあてて、携帯でメッセージを書く。「どてら(私の旧姓)にいろいろ詰め合わせをおくってくださったそうで、ありがとうございます。母がたいへん喜び、よろしく伝えてくれと言っていました。年末は30日に帰ります。」

数年前に帰省したときに、義母には、携帯電話でのSMS(古い呼び名はスカイメール)(電話番号宛に送信する短いメッセージ)およびeメール(アドレス宛てに送信するメール)の送り方「大特訓大会」を開催した。夫も甥っ子たちも、ひとつひとつ練習しようとする義母の携帯を、すぐに横取りしたり、手を出したりして、気短に、「ここをこうしてこうしてこうしたら、ええんよ」と教える、というよりは、先に先にやってしまう。私は、「だーっ。あんたらの教え方は、全然、なっとらん。まだできん人に教える、いうのは、どういうふうにするものなんか、ちゃんと見てなさい」と、偉そうさ全開で言いながら、携帯電話を義母に渡す。私がひとつひとつ丁寧に順を追って説明する。義母がつまづく箇所では、そのステップを紙に書き出しておく。何回か繰り返すうちに、義母がスムーズにできる部分と、必ず戸惑うポイントとが明確になってくる。義母にノートを一冊もらい、使用手順をフローチャートにして書き出す。義母がスムーズにできるところは、そのままの文字で書き、つまづくところには、赤鉛筆でアンダーラインを引く。さらに何度もつまづくところには、星印もつける。「おかあさん。ここに書いた手順どおりにしちゃったら、できるはず。赤線のところと、星印のところは、おかあさんがどうするか忘れてのところじゃけん、どうするんじゃったか、見て思い出して、落ち着いて、次の作業をしちゃったらええですよ。何回もしようたら、そのうちこれを見んでも、できるようになります」と言って、書いたノートを手渡す。義母は「ありゃ。これなら私もできるかもしれん」と、順調に前進し、練習メッセージを打ち込み始める。義母があまりにスムーズにメール操作をするのを見て、義父も興味深そうに覗き込む。義母が初めて作成したSMSを、私に送ってくる。内容は「はい」。私は「わあ。おかあさん。上手上手。届きましたよ。じゃあ、返事を出しますね。届いたら、受信メールを見る、のところのボタンですよ」と言いながら、返信する。義母は「わかった。ありゃ。ほんまじゃ。みそさんから、来た来た」と嬉しそうに、私が送った文章を読み上げてくれる。「そこから、そのまま、このメールに返信、のところを押してもろうたら、私宛にメールを書けますよ」と言うと、「書くのは、今度は、何じゃいうて、書こうか。わかりました、いうて書いて送ってみるわ」と言いながら、「わわわわわ、は、ここじゃね、かかかかか、は、ここか、ららりりりり」という調子で、打ち終わり、送信。「わかりました」の六文字が、燦然と私の携帯に届く。義母は、「わあ。できた、できた。これだけできりゃあ、何かの災害で、電話が通じんようになったときでも、文字で連絡し合えるけん、安心じゃ」と喜ぶ。その後も私からの「いいかんじです。また送ってください。」に対して、義母が「ありがとう」と返してきて、練習は順調に進む。「はあ、できた、できた。たるる(甥っ子)(義母にとっては孫)の携帯も同じ会社のじゃけん、同じ方法で、電話番号宛に送れるんじゃね」「そうです。やってみましょう」とまた練習。それも無事順調に終了。「これだけ、できりゃあ、安心じゃ。十分じゃ」という母に、鬼教官の私は、「じゃあ、次は、じめいさん(夫)の携帯宛てに、何か送ってみてください」と言う。義母は「ええーっ。じめいに、って、何を書けばええんじゃろうか、何にも書く用事がないが」と躊躇する。それでも、登録電話番号を選んでメッセージ作成画面にいくところまで誘導し、「はい、打ち込んでください」と私が言うと、義母は、「えーと、えーと、まあ、練習じゃけんね、用事はなくても、ええわいね。じゃあ、もんく、いうて書くわ。まみむめももももも、わをんんんん、かきくくくく」と言いながら文字を打ち込む。さっきまで、嫁の私に対しては、「わかりました」「ありがとう」「よろしく」と殊勝な内容ばかりだったのに、息子相手だと、何故いきなり「文句」になるのか、不思議だ。けれど、そうやって特訓を重ねた結果、本当にスムーズに、メッセージの送受信ができるようになった。それ以来、帰省から無事に帰宅した連絡など、ちょっとしたやりとりを、携帯メッセージで送るようにすると、義母からも「わかつたよかつたおやすみ(わかった。よかった。おやすみ。)」と返信がくる。夫も「たまにこうして練習してたら、ボケ防止にもなるじゃろうし、ええんじゃない」とにこやかだ。

それが、いつ頃からだろう、少し前から、私が何かで、義母宛に携帯でメッセージを送ると、送信してすぐに義母から電話がかかってくるようになった。内容としては、私が送信したメッセージが届いたよ、ということと、よかったよかった、まあ、寒いし(暑いし、季節の変わり目じゃし、など)、体には気をつけんさいよ、ということではあるのだが、夫とも「最近、おかあさん、私からのスカイメールに対して、スカイメールじゃなく、電話で返してきてんようになったねえ」と話していた。

そして、昨日、私の母が、お歳暮のお礼をと言うので、先に書いた内容のメッセージを送って、煮込み終えたカレーうどんを丼に移す作業に入ったところで、携帯電話の着信音が鳴る。「どうやらくん。出て。お母さんじゃけん。私の、携帯、出て。カレーうどんで手が離せんけん」と頼んで出てもらう。私からのメッセージを見て、私に電話をかけたつもりの義母は、夫が電話に出たことで、少し驚いた様子で、そそくさと電話を切ろうとする。夫が「かあさん、最近、携帯にメール送っても、メールで返してこんと、電話かけてくるじゃろ」と言うと、義母は「それなら、これから、書いて送ろうか」と言う。「ええわいね。もう用事は済んだんじゃけん。でも、あんまりずっとやらんかったら、やり方、忘れるで」と言う夫に、「ほうじゃね。ちいたあ、せんにゃあいけんねえ」と一応言うだけは言う義母。

夕食を終えてから、私があらためて、義母に電話をかける。
「おかあさん、さっきは、ごめんなさい。せっかく電話をかけてきてくれちゃったのに、うどんを器にうつしようたところじゃったけん、代わりに出てもろうたんです。」
「ええわいね。それよりも、みそさんのお父さんとお母さんが、また、おいしいハムを贈ってきてくれちゃったんよ。お礼の電話はするのはしたんじゃけど、また、みそさんからも、よろしゅう言うといてよ。」
「はい。ありがとうございます。それはよかったです。どてらの母も、おかあさんが贈ってくれちゃったいろいろセット、気に入って喜んどるんですよ。」
「ほうねえ。それなら、よかったわ。でも、なんか、変わり映えがせんのんよねえ。また、ちょっとなんか、かわったものを、贈ってあげられたらええんじゃけどねえ。」
「ええんですよ。ちょびっとずつ、いろいろと、自分ではわざわざ買わんようなものが入っとるのが、嬉しいんじゃ思いますよ。」
「それなら、ええんじゃけど。あ、そうじゃ。それなら、みそさんにも、予備にもう一個買うて置いてあるのがあるけん、それを送ってあげようか。」
「いや、おかあさん、もうじき月末には、そっちに帰るんじゃけん、わざわざ送ってくれてんなくても、帰ったときに、もらいますよ。」
「いや、でも、早う食べたほうがええもんじゃったら、ちいとでも早いほうがえかろう。」
「そんな、腐るような、傷むようなものが入っとるんですか。」
「どうなんじゃろうか。ちょっと待ってよ。見てみるけん。確認してみるけん。いっぺん、電話切るわ。見てから、またかけるけん。」
「はい。お願いします。じゃ、電話、いったん切ります。」
(しばしののち)
「みそさん。腐るもんはなかったわ。」
「それなら、やっぱり、そのまま置いといてください。帰ったときにもらいます。」
「わかった。それじゃあ、とっとくけん、車に乗せて持って帰りんさいね。」
「はい。ありがとうございます。大きな字で、みその分、いうて、書いといてください。」
「わかったわかった。みそさんの、いうて、書いとくけん。」
「あ、でも、私が帰るまでに、おかあさんが、使ってみたり食べてみたりしたくなるものがあったら、遠慮せずに使うてくださいよ。」
「それは、ない、思うわ。こっちにあるもんばっかりじゃけん。」
「じゃあ、年末、たのしみにしてますね。」
「うん。気をつけて帰ってきんさいよ。運転、遠いんじゃし。寒いしね、体にも気をつけんにゃあね。」
「おかあさんも、おとうさんも、ぬくうしてくださいね。」
「ほんまよ。こっちも寒いけん、ぬくうせんにゃあいけん。」
「じゃ、おやすみなさい。」
「おやすみ。ありがと。」

そうして電話を切ってから、夫に問いかける。「どてらの父や母も、どうやらのお母さんも、私らもうじき帰省するって言うとるのに、なんで、腐るわけじゃないものを、送ろう送ろうとするんじゃろうか。老い先短いと、なんでもすぐに送っとかんにゃあ、心残りになりそうな気がするんじゃろうか。」
夫は「送ること自体がちょっとしたイベントなんちゃうか」と言うが、そうなのかなあ、どうなんだろう。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

ときどき、思い出したように、いただいたメッセージへのお礼やお返事をリンク先の「みそ語り」に書いています。よろしければ、いつでも、どうぞ、どなたでも、ご覧ください。「みそ語り」では、メッセージをくださった方のお名前は書いておりませんので、内容から、これは自分宛かしら、と推理推察しながら読んでいただければうれしいです。手の形の拍手ボタンからメッセージをくださる場合は五百文字以内、文字の方の押し葉ボタンからメッセージをくださる場合は千文字以内となっております。文字数制限なくお便りくださる場合には、下のメールフォームをご利用ください。

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