みそ文

プラスチック訓練大会

私が現在暮らす地域では、数ヶ月か半年くらい前から、プラスチックごみの収集日は、毎週木曜日になった。水曜日の夜には、プラスチックごみをまとめて、専用袋の口を結んで、玄関のわかりやすい場所に準備しておく。そうしておくと、木曜日の朝、夫が持って出て収集場所に置いて捨ててから出勤する、という美しい連携プレイが、我が家ではほぼ確立している。

先週の水曜日の夜は、私の体調が怪しくて、夫の帰宅を待ってすぐ、布団に入って眠ることにした。吐き気と背中上部真ん中あたりの冷気が主な症状で、寝巻きの背中にカイロを貼って、漢方薬の麻黄湯をおいしく飲み、さあ、寝ましょ、とお布団での中で体勢を整えて、ふと、あ、明日はプラスチックごみの日だと思い出す。起き出す根性はないけれど、せめて夫に頼んでおこう、と、体を半分布団の中に残したまま、襖を開けて、居間にいる夫に向かって声をかける。「どうやらくーん。明日、燃やせない、じゃなくて、プラスチックごみの日じゃけん。よろしくー。私、この調子だと明日お見送りに起きなさそうだけど、それもよろしくー。」居間のパソコンでオンライン囲碁ゲーム修行に励む夫の「よっしゃー。まかせろー。」と言う声が聞こえる。よかった、これで安心、と、布団に深く入りなおして、ぽっくりぐっすりと眠る。夜中の二時か三時くらいに、ふと目覚めて、枕もとのOS-1(経口保水液)を、こくり、と飲み下す。それから、おでこや首筋や胸元や背中を、タオルで拭く。寝汗と邪気を拭うと、身体がふうっと軽くなる。そして気がつく。あ、私、今、ちょうど今、風邪が治った、と。やったね、さすが養生上手だね、偉いよ、私の身体、偉いよ私、と、夜中に一人絶賛自己賞賛大会を開催する。よかったよかった、と、安心して、またお布団にもぐりこむ。

翌朝目が覚めたときには、吐き気もなく、背中の冷気もなく、身体は軽く温かで、快適で、上機嫌で起き上がる。夫は既に出勤したあと。私は一人ゆっくりとお湯を沸かして紅茶を入れ、豆乳を加えて、ごくりごくりごくりと飲む。紅茶のティーバッグの外袋をごみ箱に捨てようとして、「燃やせるごみ」のごみ箱が空っぽであることに気づく。あれれ、どうしてだろう。そして続いて、その隣にある「プラスチックごみ」のごみ箱に、けっこう大量のプラスチックごみが入っていることにも気づく。えーと。今日は木曜日で、プラスチックごみを出す日で、昨夜はそれを夫に頼んで、夫が「よっしゃー」と了解して、それを今朝出してくれたはずなのだけど。ここにこんなにたくさんのプラスチックごみがあるのは、どういうことなのかしら。寝起きの寝ぼけ気味の頭で、めまぐるしく、でも順を追って、考える。現状から推察するに、夫は「プラスチックごみ」を出すべきところを、間違って、「燃やせるごみ」を出して出勤したようである。というこは、今日は誰一人出していない「燃やせるごみ」の集積所に、我が家のごみが一人ぽつねんと佇んでいるはず。であるならば、私は、その「燃やせるごみ」を、回収しに行かねばならない。ここまで考えてようやく「うわーっ」と、少しばかり慌てて、寝巻きから普段着に着替えて、マンションの下のゴミ捨て場まで下りてゆく。行ってみると予想通り、「燃やせるごみ」集積所には、見おぼえのある我が家のごみたちが入ったゴミ袋が、ある。その隣の「燃やせないごみ」と「プラスチックごみ」集積所には何もなくて、「プラスチックごみ」はすでに回収車に運ばれたあと。私は「燃やせるごみ」を、速やかに、かつ、とぼとぼと持ち帰り、手を洗ってうがいをして、寝起きの紅茶の続きに入る。さてと、これは、今夜夫が帰宅したら、正しいごみ捨て学習会を開催しなくてはならないなあ。

夜になって、帰宅した夫に、「おかえりー」と声をかけてから、学習会開始。
「どうやらくん、今朝出してくれたごみ、間違いがあったよ。」
「あれ。今日、ごみ出す日じゃなかったのかな。」
「それは合ってる。出す日なのは正解。でも、今日は、何曜日でしょう。」
「えーと、木曜日。」
「木曜日に出すごみは、何でしょう。」
「えーと、燃やせるごみ。ちゃんと出したよ。」
「そこが間違い。」
「え。違ってたか。燃やせないごみ、だったか。」
「それも違うよ。ごみ出しカレンダー見てみて。」
(夫、壁に貼ってある「ごみの出し方図解」を見る。)
「あ。木曜日は、プラスチックごみ、って書いてある。」
「はい。そのとおりです。昨日の夜、私が布団の中から、燃やせない、じゃなくて、プラスチックごみをお願い、って言って、どうやらくん、よっしゃー、って言ったのに、なにゆえ、その直後に、その両方を外して、私が言ってない、燃やせるごみ、を準備してくれたのかなあ。」
「てっきり、燃やせるごみだと思い込んでたんやろうなあ。でも考えてみたら、燃やせるごみは、火曜日に出したばっかりだし、どおりでごみの量が少なかったはずじゃ。」
「そりゃあ、そうじゃろう。でね、その、燃やせるごみは、ひとりぼっちで、ごみ捨て場に、るーるるー、って居残ってたよ。それを、わたくしが、回収してまいりました。」
「そうか。そうだったのか。すまないねえ。手間をかけるねえ。」
「でも、どうやらくん、朝、ごみ出すときに、誰も何一つ出してないところに、ごみを置く時点で、もしかして、今日はこれを出す日と違うんじゃないかな、って思わなかったんかねえ。」
「うん。思わんかった。今日は珍しくごみ出し一番のり、だと思ってた。普段は既にけっこうたくさん出してあるところに出すのに、今日は一番だー、やったー、ごみも一番、会社の昼ごはんの食券も一番、今日は一番の日じゃ、縁起がええのう、くらいに思ってた。」
「うう。そうですか。でも、今日、こうやって、正しいごみの日を学習したけん、今度は、正しく出せるといいね。」
「少しずつ。少しずつ。頑張ろうや。」
「でね、今朝、ここ(台所のごみ箱がある場所)で、燃やせるごみが空っぽになってて、プラスチックごみが残ってるのを発見したときの、私の気持ちはね、こうやって、床に、かっくん、と、膝がついて、しばらくの間呆然として動けんかんじ、じゃったんよ。」
「そうか。楽しかったんじゃね。よかったね。」

「どこが楽しいんじゃ」というツッコミは、いったん保留しておくが、夫は、基本的に、家事はよくできるほうだと思う。大学時代の自炊一人暮らしの経験が実力になっているのであろう。しかし、ごみ出し準備に関しては、夫も私も気づかないうちに、私が勝手にちゃきちゃきとやってしまって、夫は持って下りて出せばいいだけ(それを毎回やってくれていることについては、実にありがたく感謝している)、持っているごみ袋の色で出す場所を判断するだけ、になっていたのかもしれない。その連携プレイでの生活は、うまく運んでいたし。でも、たとえば、私が寝たきりなどになって、ごみの準備の段階も夫がすることになったときに、苦なくスムーズにできるよう、苦なくスムーズに見守ることができるよう、今から練習しておきたい。というわけで、前述の一件から一週間が経過した昨夜、さっそく訓練を行ってみた。

「どうやらくん。私が夕ご飯作ってる間に、明日出すごみの準備をするのがいいと思う。」
「おー。いい考えじゃ。がってんだ。」
「明日は何曜日で、どのごみを出す日でしょうか。」
「明日は木曜日。ということは。おお。先週出せんかったプラやな。」
「そうそう。よろしく。」
(夫、がさがさ、と、プラスチックごみをまとめる。)
「やったよ。」
(と、夫、そのまま、コタツに入ってくつろごうとする。)
「どうやらくん。ごみをまとめたら、すぐに、次の新しい袋をごみ箱にセッティングするんよ。そうしたら、次に出てきたごみを、さっと捨てられるじゃろ。」
「おー。がんばるぞー。おー。」
「どの色の袋か、わかる、かなー。」
「さっきまとめたのと同じじゃろ。それくらいわかる。」
(と、言いながら、引き出しから新しいごみ袋を出し、マンション名と部屋番号をマジックで書き込んで、ごみ箱に設置。)

以上のような経過にて、訓練大会は無事終了。夫の家事力向上委員会活動において、妻の立腹は厳禁、という掟を、私はよく知っている。そして、その掟を忠実に守っている私は、かなり、偉いはず。偉いはず。偉いはず。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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