みそ文

布団乾燥機の仕事

我が家の布団乾燥機は、たいへんに働き者だ。十五年近く前に、三千円弱で買ったものが、未だに現役で大活躍中。冬場吹雪が続いたり、花粉症の季節だったり、梅雨で雨がしとしと降ったり、いろんな理由で布団を外に干せなくても、布団乾燥機があれば、いつでも布団はふんわりかんわり。快眠求道者としては、これはもはや生活必需品と言っても過言ではないであろう。

数年前の冬、友人宅に一週間弱滞在することにしたとき、布団乾燥機も貸してもらっていいかな、と、事前に所望してみた。友人は、「うちのどこかにあるはずなんだけど、もうずっと使ってなくて、今のマンションに引っ越してきたときに、どこに片付けたのかわからない。捨ててはないはずなんだけど、もしかしたら置く場所がなくて、夫の実家に置かせてもらう荷物の仲間に入れたのかも。」と説明してくれる。そういうことなら、と、布団乾燥機はそんなに高いものではないし、この冬何度か泊めてもらう予定だし、新しく一台買って、友人宅に届くように手配することに。どうせ買って送るなら、加湿器もあったほうが肌も粘膜も喜ぶはず、と考えて、加湿器も一台一緒に手配する。

友人宅では、新しく買った布団乾燥機で、毎日布団はふわふわのぬくぬく。乾燥厳しい冬の瀬戸内でも、加湿器のおかげで喉も肌もしっとりすっきり。日々いそいそと、加湿器に水を足し、布団乾燥機を作動させる私を見て、友人が、「みそさんは、自分の心身の快適のための手間や工夫を惜しまんよねえ。」と、感心したようにつぶやく。私が、「ほら。私、エピキュリアン、快楽主義者、じゃけん。」と応えると、友人は、「うん、それは知ってる。でもね、ふつうは、みそさんみたいに手間暇をかけなくて、よそに泊まる時くらい、短期間だし、まあ、いいか、ちょっとくらい大丈夫やろ、にしちゃうのよ。でもね、自分の体との信頼関係を築く、というのは、そういう、まあ、いいか、ちょっとくらい大丈夫やろ、を極力控えて、自分の体が満足するように、こころが安心するように、いつでもどこでもできることをしてやるっていうことなんだと思う。その積み重ねが大事なんよ。そういうのって、一朝一夕にはいかなくて、ちょっとくらい大丈夫やろ、と、思ってたけど、実は大丈夫じゃなかったことが露見するようになってから、慌ててどうこうしようとしても、それまでに手間暇かけてやらんかった体は、いざというときになって、本人の希望に応えようとしても、なかなかそうそう簡単には応えることができんのんよ。」と、とうとうと語る。

私が布団乾燥機で布団を乾燥しているのを見た友人の子どもたちが、「うわーっ!すごいふくらんどる!みそさん、これ、なんなん?」と、興味深そうに質問する。「これはね、布団乾燥機、といってね、」と、私は、解説を行う。年中暑がりの二号くん(下の男の子)は、その解説だけで十分納得して去ったが、一号ちゃん(上の女の子)は、とても興味深そうに、乾燥中の布団の上や布団の中を触っている。「あとで、一号ちゃんのお布団も、乾燥機かけようね。」と、私が声をかけると、一号ちゃんは、「え?いい、いい。みそさん、お母さんのマッサージするので忙しいし。」と遠慮する。「うはは。大丈夫。布団乾燥機はね、ずっとついてお世話しなくても、セッティングだけしておけば、あとは、勝手に乾燥して温めて、時間がきたら止まるから。乾燥機が止まったときに、もしも私がお風呂に入ってたり、マッサージで手が油だらけだったりしたら、そのときには、一号ちゃんが自分でお片づけだけしてくれる?」と応える。それでも、一号ちゃんは、「じゃあ、お母さんに訊いてみて、お母さんがいいって言ったら・・・」と言うので、「じゃあ、さっそく訊きに行こうよ。」と背中を押して、友人が横になっている部屋に行く。当然ながら、友人は、そんなのいいに決まってるじゃん、という顔をして、「一号ちゃんが、したいことだったら、みそさんに頼んだらいいよ。」と言う。それを聞いて一号ちゃんは、やっと安心したみたいに、「じゃあ、みそさん、よろしくお願いします。」と、布団乾燥ごときで、律儀に挨拶してくれる。

私の布団乾燥を終えた乾燥機を携えて、子ども部屋の二段ベッドに向かう。一号ちゃんの寝床は上の段。「先に機械を持ち上げるね。」と言いながら、上の段のベッドにいる一号ちゃんに布団乾燥機を手渡す。事前に確認しておいたコンセントにプラグを挿す。そして、「それじゃあ、ちょっと、失礼しますよ。」と、私もベッドに上る。掛け布団を横に寄せておいて、布団乾燥機の袋状の乾燥シートを広げる。温風を注入するホースをシートの定位置にマジックテープで固定する。タイマーは、だいだい色の冬モードと、青色の夏モードとある。夏は温風乾燥のあと、冷風で布団をひんやりさせる工程がついている。「でも、今は、冬だから、だいだい色のほうね。30分か50分くらいかな。急ぐときには、15分くらい温めるだけでも、けっこうあったかくなるよ。」と、一号ちゃんに説明して、タイマーをぐるっと回す。ぶおーん、と、温風が吹き込まれ、シートがぼわん、と膨らむ。「で、この膨らんだところに、掛け布団をのせる、と。」と言いながら、掛け布団をのせてゆく。全体がバランスよくのったところで、「で、あとは待つだけ。乾燥が終わったら、機械が勝手に止まるから、そうしたら、今膨らんでるシートをホースから外して、折りたたんで、機械の蓋の中のここに入れるの。ホースも縮めて、かちっと、ここに留めれば、お片づけ完了。でも、今日は初めてだから、あとで、私が見に来るよ。機械も下ろさないと邪魔になるしね。」と言うと、一号ちゃんは、「大丈夫。大丈夫。終わったら、片付けてここにそのまま置いて寝るよ。」と言う。「それは、邪魔じゃろう。寝返り打ったら、ごつん、って、布団乾燥機にぶつかるじゃん。」と言っても、一号ちゃんは、「大丈夫。私、寝相いいから。」と言い張る。「じゃあ、もし、寝てみて邪魔だったら、一号ちゃん、一人で下ろせる?」と訊くと、やっぱり「大丈夫」と言う。「じゃあ、どちらにしても、一号ちゃんが寝やすいようにしてね。布団乾燥機は、今夜も明日も、この部屋に置いておけばいいからね。」と言うと、一号ちゃんは、ようやく「わかった」と言って、二段ベッドから下りる。そして、友人の部屋へ、おやすみの挨拶をしに向かう。「お母さん、みそさんに、布団乾燥機してもらった。乾燥が終わるまで、おばあちゃんの布団に入ってていいって、おばあちゃん言うけん、そうする。おやすみ。」と言ってから、襖を閉める。

私が、「この家の行方不明中布団乾燥機は、子どもたちのお布団で活躍したことがない人なの?」と、友人に尋ねると、友人は、「そうなんよ。一号を生んでから、一回も使ってない。だから、あの子にとっては、布団乾燥初体験なんよ。みそさん、ほんとにありがとね。」と言う。その「ありがとね」が、あまりにも丁寧なものだったから、私は少し驚いて、「布団乾燥機の布教活動ごときで、そんなにお礼を言わなくても。」と言う。すると、友人は、「みそさん、違うよ。一号の布団を乾燥してくれたことも、そりゃあ、ありがとうなんだけど、ほら、今、私がこんなんだから、私も、夫も、私の体のことでいっぱいいっぱいで、なかなか、子どもたちに目を掛けてやったり、何かしてやったりができなくなってるやろ。もちろん、お義母さんは、すごくよくしてくださってるけど、お義母さんも夫も、言葉の人じゃないから、言葉の人の一号としては、言葉のコミュニケーションがね、どうしても不足気味になるみたいで。でも、みそさんも、私の妹も、言葉が巧みな人たちだから、説明も上手だし、なんでもない言葉のキャッチボールがね、ぽんぽんってできるやろ。そういう意味で、何かしてもらったり、言ってもらえたりするのが、あの子、すごく嬉しいみたいで、なんかそういう意味で、久しぶりに、満たされた感じで笑ってたから。だから、ありがとう、なん。」

だから、ありがとう、なん。我が家で布団乾燥機を、ぶうんぶおんと作動させるたび、あのときの、彼女の言葉を思い出す。そして、ふんわりかんわりあったかなお布団にもぐりこみつつ、「私のほうこそ、ありがとうだよ。社会的な通念に疎い私にも理解できるように、いつだって、細かく丁寧に、具合がよくないときでさえなお、いろんなことを言葉にして、解説してくれるから、私は、本当に、とてつもなく助かっていた。だから、私が、ありがとう、なん。」と、天の友人に語る。     押し葉

 | HOME | 

文字サイズの変更

プロフィール

どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

ときどき、思い出したように、いただいたメッセージへのお礼やお返事をリンク先の「みそ語り」に書いています。よろしければ、いつでも、どうぞ、どなたでも、ご覧ください。「みそ語り」では、メッセージをくださった方のお名前は書いておりませんので、内容から、これは自分宛かしら、と推理推察しながら読んでいただければうれしいです。手の形の拍手ボタンからメッセージをくださる場合は五百文字以内、文字の方の押し葉ボタンからメッセージをくださる場合は千文字以内となっております。文字数制限なくお便りくださる場合には、下のメールフォームをご利用ください。

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク

最新記事

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (0)
暮らし (110)
仕事 (161)
家族 (300)
想 (23)
友 (47)
学習 (79)
旅 (16)
心身 (8)

FC2カウンター

検索フォーム

FC2Ad

Template by たけやん