みそ文

原付の条件

たぶん、十五年くらい前のこと。大阪南部の社宅に住んでいた私は、大学時代の友人と会うために、大阪駅のあたりまで出かけた。南海電車で「なんば」の駅まで40分弱、なんばからは地下鉄御堂筋線に乗って「梅田」まで15分くらいだろうか。

この日は、福岡に住む友人(以下、福岡友人)が、私の家に泊りがけで遊びに来ることになっていた。彼女は、うちに来る前の数日間、京都に住む友人(以下、京都友人)宅に滞在していた。京都の友人宅にも、我が家にも、彼女はわりとゆっくりめの予定で、というよりも、特に予定を立てずに、居候っぽいかんじで、過ごしていたような気がする。そのとき彼女は、前の職場を退職して、転職前の充電期間中だったのかもしれない。

三人で、梅田の、たぶん地下街の、お店を眺めながら歩く。福岡友人は、妹さんたちと弟さんへのお土産を何にしようかなあ、自分用には何を買おうかなあ、と、楽しそうにお店を見ている。とある小さな靴屋さんの前に来たところで、ふと、京都友人が、「あ、そうや。私、靴買いたいねんけど、ちょっと寄ってもええかな?」と言う。私も福岡友人も、「もちろん!」と快諾する。福岡友人は靴を見るのが好きなので、一番先にさくさくと、お店の奥のほうに入ってゆき、あれこれ手にとって見ている。通路沿いにはみ出しそうな店先に、季節の商品なのだろうか、涼しげなサンダル(最近ではミュールと呼ぶのかもしれない)が、にぎやかに並べられている。そのサンダルを前にして、京都友人が、「これ、ええなあ。私、これにしようかなあ。」と言う。「うん。いいんじゃない?涼しそうだし。なんか、似合いそうな気がするよ。履いてみて、歩くのもラクかどうか試してみたら?」と私が言うと、彼女は「うん、そうしてみるわ。」と言いながら、自分の足のサイズに合ったものを試し履きし始める。そうしながら、京都友人は、「私な、原付の免許取ったしな、原付用のサンダルを買いたいねん。」と言う。

私はびっくり驚いて、「ちょっと。原付用サンダルって、それはないやろ。原付乗るときに、サンダルは、いかんやろ。」と指摘する。京都友人は、「え?そうなん?でも、テスト問題に、原付に乗るときには、下駄やサンダルがいい、って書いてあってんで。」と言う。私が、「違うよー。それは、×をつけなさいの問題やん。正誤だったら、誤、を選ぶのが正解の。サンダルや下駄は、運転するには、危険で不向きな履物やん。」と解説するも、彼女は、「えー?そうなん?でも、私、それに○付けたけど、ちゃんと合格したで。それに夏は、暑いやん。」と、なにやら腑に落ちない様子。

けれども、京都友人は、基本構造が「素直」なので、「でも、みそさんがそう言うなら、きっと、そうやわ。」と、あっさり言い、そして、「でも、このサンダルは気に入ったしな、原付乗るとき以外の、普段に履く用にするわ。」と言いながら、レジにお金を払いに行く。そうなのだ。彼女は、人の言葉も素直に受け止める人だけれども、自分の思いにも、とても素直に、従う人なのだ。

梅田で別れて、京都友人は京都の自宅へと帰り、福岡友人と私は、大阪南部の私の自宅へと向かう。南海電車の中では、福岡友人と二人で何度も、「京都友人は、間違いなく、あのサンダルで、原付、乗るね!」と、京都の町を、サンダル履きの原付で、軽やかに疾走する、京都友人の姿を、鮮明に想像した。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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