みそ文

湯島の白梅

私と、3才年下の弟と、5歳年下(弟よりも2歳年下)の妹は、3人きょうだいだ。三人の中で、人に何かを頼んだり、何かをしてもらうことに一番抵抗が少なくて、おねだりも享受も上手に滑らかにするのは、妹だろうと思う。

先日も、おもむろに、「ねーちゃん、おねがい」というメールが私に届く。何の「お願い」かというと、近々妹が披露する日本舞踊に使う曲の紹介文を書いてほしい、というもの。妹が私に作文を依頼することは、まったく珍しくない。今回妹が踊る曲は、「湯島の白梅」という名前の、やや古典的歌曲。私は妹に、「曲の紹介に使える時間や必要な文字数はどれくらい?その紹介を聞く人たちはどういう人たち?いつまでに仕上げればいいの?」と、作文に必要なことを、メールにて確認する。

私に作文を依頼した妹からの返信には、だいたいいつも、「実際使うのは何月何日で、でも、早ければ早いほうがうれしい」ということと、「文章自体は短いほうがうれしい」ということが書いてある。それは今回もいつもどおり。そして今回の対象は、とあるディナーショーに集まった、ちょっと酔っ払い気味の、年配のおじさまおばさまがた。「じゃけん、その人たちにわかりやすくて、なおかつ、ちょっと気を引く内容でおねがい」という要望付き。

私も昔、日本舞踊を習っていた頃に、「湯島の白梅」は、何度も聞いてはいるはずなのだけど、歌詞は全くおぼえていなくて、今回あらためて、その歌詞と、原作(というのだろうか)の物語を調べてみた。へへえ、ほほう、こんな内容だったんだ、と思いながら、4百字弱程度の文章にまとめる。酔っ払い気味のおじちゃんやおばちゃんたちに呼びかけるように、文章の最後は、「今宵、どうぞ、おたのしみください。」と閉じる。妹には「こんなかんじでどう?」という件名でメール送信。

この類のお願い事は、これまでも、年に一回くらいずつ、あった。いつでも、ある日突然、「ねーちゃん、おねがい」と作文お願いメールが届く。作文の内容は、今回のような紹介文のこともあれば、妹自身がスピーチする挨拶文のこともある。何月何日に必要で、短いほうがうれしくて、盛り込んでほしいのはこういう内容で、というリクエストに応じて、書いた文章を妹にメールで送る。

妹が妹である特徴が発揮されるのは、このあとからなのだけれども、「こんなかんじでどう?」と私が送ったメールに対して、妹からは、「これでいい」とも「ありがとう」とも返信が来ることなく、その作文が活用されたはずの何月何日が終わっても、「うまくいったよ」とも「助かったよ」とも連絡がない。それから何ヶ月か経って、私が実家に帰省したときに、「あんた(妹)ねえ、人に何か頼んだらねー、お礼くらい言いんさいや(言いなさいよ)。」と教育すると、「ねーちゃんが帰ってきたら会えるけん、そのときにと思うてー。ごめーん、ありがとー。」と、さらりと、軽やかに、言い訳と侘びと礼を述べる。「ごめーん」とは言っても、私が指導したそのことが、妹の中で学習となり、次回再現されるかというと、なかなかそういうわけではない。前回も、今回も、次回も、次々回もまた、私が帰省したときに、同じ説教をたれて、妹が「ごめーん、ありがとー。」と言うのが、これはもはやお約束なのだろう、と思うほどにパターン化していた。

近年は、大きくなってきた姪っ子(弟の子ども)に対して妹が、「みみがー(姪っ子)、あんたねえ、人に世話になったら、ちゃんとお礼を言いんさいや。」と説教する現場に遭遇するようにもなった。私は内心、「みみがーの前に、おまえ(妹)じゃ!」と、ツッコミを入れまくりつつ、しかしながら現場では、伯母として、「そうそう。やぎちゃん(妹)の言うとおりよ。」というかんじで、頷くにとどめておく。その後、姪っ子がいなくなってから、妹に、「あんたねー、みみがー(姪っ子)に偉そうなこと言うんじゃったら、あんたもちゃんとしんさいや(ちゃんとしなさいよ)。」と教育を行う。もはやこれも何かのお決まり芸かもしれないと思うほどに、近年パターン化していた。

だから、今回、「湯島の白梅」の紹介文を書いて、妹に「こんなかんじでどう?」のメールを送り終えたあとも、「どうせ来週には帰省するし、妹にもそのときに会うし、妹のことだから、そのときに、ねーちゃんありがとー、と言えばいいと思っているだろうな。」と思っていた。思っていた、というよりも、かなり固く確信していた。どのくらい固く確信していたかというと、「妹ってこういうやつでね、今回もお礼を言ってこないほうに100円!」と、ウェブ上でつぶやいて、一人賭け事をしたくらい。

ところが。100円を賭けてしばらくして、ふと受信トレイを見てみたら、妹からのメールが届いている。メールの内容は、「さんきゅー」。おおおおおおっ!これまで、何年も何回も、小さい頃からずっと、姉として教育し続けてきたことが、この年になってようやく、なんとか、実を結んだのだろうか。「さんきゅー」が、ちゃんとしたお礼かどうかはともかくとしても、おおいなる成長を感じるではないか。賭けの勝ち負けはともかくとしても、なんとも感慨深いではないか。これまでずっとあきらめずに、かつ期待しすぎることもなく、お願いされた文章作成と、その後の説教とを、繰り返してきた私の日々が、一気に報われた気すらしてくるではないか。

ちなみに、一応妹の名誉のためにも、付け加えておくなら、今回は、ディナーショーでの日本舞踊終了後にも、妹から、「好評で大盛況じゃったよ」という報告メールが届き、姉は、妹のさらなる成長に、おおいに感動している。ううっ、やりゃあできるじゃん、大きくなったねえ、という気分だ。しかし、さすがに、いくら妹といえども、おそらく、身内以外の人に対しては、きちんと、その都度、お礼を述べているはず。いや、ぜひとも、頼むから、なんとか、そうであってほしい。

というわけで、身内以外の方々には、お手数をおかけいたすことなれど、もしも当方の妹が、たとえうっかりであっても、あるいはちょっと後回しであっても、本来お礼を言うべきときに、ちゃんとお礼を言わないという、困った事態に遭遇なさった場合には、どうか、妹本人に、びしびし、ばしばしと、厳しく説教してくださるか、あるいは私に告げ口してくださる等々、ご指導ご鞭撻ご協力を請い願いたてまつりて候。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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