みそ文

円滑な新車

7月に妹夫婦が広島から遊びに来たとき、マンション前の駐車場を、妹の車用に、三日間だけ、一台分余分に借りるように手配した。

妹の以前の車は、「プジョー」という会社の車で、鮮やかな赤色の、スポーツカーのような形をしていた。車の後ろのトランクの真ん中には、シンガポールのマーライオンみたいな、でも口から水は噴き出していなくて、前脚を高々と上げる獣のマークが輝いていた。それはそれで、本人も気に入って乗っていたし、私も好きな車だった。けれど、その車も、使用年数も走行距離も長くなった結果、なんとなくあちこちに、不調を訴えるようになってきた。しかも外国(フランスかな)の車ということもあり、修理するとなるといろいろと手間がかかる。それよりも何よりも、何かの折に、妹が自分の車で、父を迎えに行くたびに、父が毎回、「乗り心地がようない(よくない)。プジョーには乗りとうない(乗りたくない)。」とごねるようになってきた。

そういういろんな背景があり、妹は車を買い換えた。「じゃけん、ねえちゃん。今度7月にそっちに行くときには、もうプジョーじゃないけん。」と、予告してくれていたとおり、妹夫婦を乗せて我が家にやってきた車は、トヨタのなんとか、という車であった。妹夫婦と一緒にあちこち出かけるにあたって、私も何度か乗せてもらってみたところ、座席の高さといい、硬さといい、走行中の振動といい、身体への負担が少ない。これなら高齢の父もさぞ、乗り心地がよくて快適であろう、と思える車だ。「ああ。これなら、長距離移動でも腰がラクそうだねえ。」と感嘆する私に、「そうじゃろ。なかなか、ええ車じゃろ。」と妹も満足げ。

ただ、妹が、一点だけ、この新車購入に関して、不満、というほどではないけれど、一言物申したい気分の話を、いっきに語って聞かせてくれた。

「最近、にいちゃん(私の弟のしめじ)、トヨタの車に凝っとって(凝っていて)、家族の車を、ことごとくトヨタ車にしょうるんじゃけど(しているのだけれど)、私の車も、にいちゃんが「わしが選んじゃるけん」言うて(「自分が選んでやるから」と言って)、これがええじゃろう、って選んでくれたんじゃ。最初は、ふうん、これかあ、いうかんじじゃったけど、実際乗り始めてみたら、かなりええなあ、と思うようになったけん、これにしてもろうたのはええんじゃ。でもね、じゃあ、車種はこれで、クラスはこれで、色はこれで、オプションはこれで、って、全部決めたときに、にいちゃんが「まあ、あとは、わしに任せとけえや(任せておきなさい)。支払いも、ええぐあいにしといちゃるけん(いい具合にしておいてやるから)。」って言うけん、そうなんじゃー、にいちゃんが買うて(こうて)くれるんじゃー、思うて(兄が買ってくれるのだと思って)、内心やったー!って思いながら、「そうなんじゃー、ありがとー。」言うたんよ。にいちゃんも「ええけん、遠慮すんなや、そんなことくらい。」って言うし。そしたら、しばらくしてから、かあちゃん(母)からメールが来て、「やぎ(妹)の車の代金は、やぎの口座から引き落とされるように手続きしておきました。」って書いてあってね。もう、なんじゃあ(なんだったのよ)、ええぐあいにしといてくれる、いうて、ええぐあいに引き落とされるよう手続きしといてくれる、いうことじゃったんかー、しかも、実際手続きしてくれたのも、そのあと私に連絡してきてくれたのも、にいちゃんじゃなくて、かあちゃんじゃし、もう、なんなんよー(なんなのよ、と)、思うたんよ。」

「ええぐあい」は、小さな頃からの、弟の口癖だ。(「えいが」参照)弟が言う「ええぐあい」には、それほどたいそうな意味はなく、なんとなく全般的にいろんなことが円滑に運ぶ状態を示すのだ。弟が誰かに何かをおごったり、特別にプレゼントしたりするときには、ちゃんと別に「おごっちゃるけん」や「金はわしが出すけん(お金は自分が出すから)」という表現を用いる。そんな弟が、いつものように軽やかに「ええぐあいにしといちゃるけん」と言ったからといって、「お兄ちゃんが車を買ってくれるんだ」と、勘違いとはいえ、瞬時に、思いつく妹は、さすが末っ子、あっぱれだ。弟と妹の、それぞれの特性に、しみじみと感じ入った夏の日の思い出。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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