みそ文

お姫様

私が暮らす集合住宅には、小学生もたくさん住んでいる。夏の日曜の午後になると、北側の階段に、小学生の女の子たちが集団で腰掛けて、話をしたり、手帳に何かを書いたりして、過ごしている現場に遭遇することがある。きっと、建物の中で、その位置が一番ひんやりと涼しくて、過ごしやすいのだろうなあ、と思いながら、横を通る。

ある日曜日の夕方に、夫と一緒に、食料の買出しに出かけて帰って来たときも、階段に少女たちが座っていた。二階に住む私たちは、エレベーターではなく階段を使う。その日の私は、広げると円になるような、丈が長めの巻きスカートを着ていた。食料を入れた布製のカバンを肩にかけ、片手でスカートを少しつまんで持ち上げて、裾を踏まないように、気をつけながら階段を上る。「こんにちは。通りますね。」と言う私たちに、少女たちは、「あ、こんにちは。」と口々に言いつつ、私たちが通りやすいように、階段の両端に、わらわらとよけてくれる。

私の歩行に合わせて揺れる、たっぷりとしたスカート生地の揺れを見て、一人の少女が、「わあ。きれいなスカート。お姫様みたい。」とつぶやいた。すると、他の女の子たちも、「あ、ほんとだ。お姫様。お姫様のスカートだ。」「ほんとだ。わあ。お姫様だ。お姫様だ。」と口々に言い出した。

少女というものは、何を思いついて、何を言い出すやら、わからなくて面白いなあ、と、くすくすと思いながら、通り過ぎる。階段の踊り場を経て、次の階段へと進む。すると、背後で女の子たちが、「でも、お姫様なのに、男の人(夫)は、ふつうの服だったよ。」「お姫様なら、一緒にいる人は、王子様なんじゃないの?」「うん。でも、ジーンズだったよね。」「いいんかなあ?」と、心配そう。

いいんかなあ、と言われてもねえ、いいもなにも・・・と思いつつ、次は何を言い出すのかなと、引き続き耳をそばだてながら、階段を上り、少女たちの声から遠ざかる。けれど、少女の声は高いので、離れてもよく聞こえる。少女たちは、「あ!わかった。たぶん、あの男の人、変身するんじゃない?」「あ。そうかも。変身して人間の王子様に戻る話の。」「そうそう。悪い魔法で姿が変わってたのが、人間に戻る話。あるある。」「ああ、あれか、そうか。」と、言うだけ言ったら納得したのか、いっきに静かになった。

しかし、私の夫は、現在すでに十分に人間のはず、なのだけど。私には、夫は人間であるように見えているのだけれども。これ以上、いったい何に変身するというのだ。蛙か。野獣か。それとも、王子様として、タイツをはかねばならぬのか。でも、夫は脛毛が多いから、タイツをはくと、繊維に脛毛がからまって、洗濯するのがきっとたいへんだと思う。だから、やっぱり、急に何かに変身したりすることなく、できることなら今のまま、ゆっくりと少しずつ、おじいさんに変化していってくれたら、それが一番嬉しいなあ。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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