みそ文

小姑の出家

私が二十代の半ばだった頃。その頃の私は、とにかく仕事が面白くて、とても熱心に働いていた、といえば聞こえがよいけれども、実際には、ややワーカホリック気味であった。働くか、休みには、昏々と眠るか、ふらりと一人旅に出かけるか。これといった色恋沙汰もない、平和で地味な毎日を満喫していた。

ある日のこと。今日も元気に働いてきましょう、と、玄関で靴を履いて、出勤しようとしていたら、祖母が、ふふーっと、やってきて、「ちょっと、みそちゃん。」と、私に声をかける。帰りに何か買ってきてほしいものでもあるのかな、と、思った私は、「ん?なあに?ばあちゃん。」と応える。

「みそちゃん。しめじちゃん(弟)がお嫁さんをもらうまでには、結婚しんさいよ。」
「はあ?」
「どうしても、ええ結婚相手がおらんかったら、結婚せんでもええけど、この家はちゃんと出ていきんさい。」
「はあ。」
「しめじちゃんのお嫁さんも、小姑がおるところへは嫁ぎとうないもんじゃけんね(小姑がいるところへは嫁ぎたくないものだからね)。しめじちゃんのお嫁さんが来るまでには、結婚するか、一人暮らしするか、とにかく家を出んさいよ。」

祖母は、そう、自分が言いたいことだけ言うと、私の返事を聞くでもなく、「じゃあ、仕事がんばってきんさい。いってらっしゃい。」と言いながら、自室に引き上げていった。

たしかに祖母は、当時既に老女だったし、いつ死ぬかわからんけん、と、口癖のように言っていたから、言いたいことは言いたいときに言っておかねば、だったのかもしれない。老婆だから、思いついたときに言っておかないと、忘れてしまうのかもしれない。だけど、ばあちゃん、その話、朝の出勤前の今、聞いても私もなんとなく、どうしようもないかんじだよ、と、不思議な気持ちを抱えつつ、私は職場に向かった。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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