みそ文

地震と眠り

 先日の朝方の地震で目が覚めたときに、思い出したことがある。それは、自分の身は自分で護るのだという決意。

 昔、大阪で暮らしていた頃、阪神淡路大震災に遭遇した。当時住んでいた社宅は、たしか十二階建てで、私たちは六階に住んでいた。
 あの日の朝、あの振動と、あの揺れで、瞬時に私は目を覚ました。それまで生きてきて体感したどの地震よりも、大きくて激しい。ただごとではない事態であることを、動物として生き物として、間違いなく察知する。
 寝室にしている和室の隣の洋間から、食器棚の食器が壊れる音が聞こえる。天井からぶらさがる蛍光灯が、ゆらんゆらん、ゆうらゆうら、と、大きく激しく揺れる。
 お布団に身を伏して、未だ眠り続ける夫に、この緊急事態を告げる。夫の体を揺すって、「地震だよ! どうやらくん、起きて。地震よ。」と声をかける。

 しかし、何度揺すっても、夫は起きようとせず、「うーん」と唸って寝返りを打っては眠り続ける。それでもしつこく声をかけ揺すり続ける私に、ついに夫は反応した。私の頭を彼の胸元に引き寄せて、「よしよし。だいじょうぶだいじょうぶ。おいでおいで。」と、私の頭をなでたのだ。これは妻の愛らしさにたまりかねての行動ではなく、うるさい目覚まし時計を止めるときと全く同じ手つきだったことを、あの緊急事態の中でも、私は見逃していない。
 そして、そのまま頭を布団に押さえ込まれつつ、「大丈夫じゃないじゃん。地震じゃん。」と、ばたばた、ふがふが、と、もがく。

 結果的には、私たちが当時住んでいた地域は、小さな被害で済んだ。食器棚の中で数枚、食器が割れて壊れたのと、天井と床にひび割れ状の長い亀裂ができた程度の被害だ。

 先に起きて、テレビで繰り返し流れる同じ情報(地震が発生したことと、被害状況はまだわからないこと)を見ていたら、いつもどおりの時間に夫が起きてきた。いつもどおりにトイレに行き、顔を洗い、居間に戻ってきた夫は、珍しく朝からテレビを見ている私に向かって、「どうしたん? 何かあったん?」と言う。

「ええっ? 地震。かなり大きかったじゃん。だからニュース見てるの。地震よ、って、あんなに揺すって起こしたじゃん。」
「え? あれ、ほんとだったんだ。また、この人、寝ぼけとってじゃわ、と思ったけど、ほんとだったんか。」
「寝ぼけてないよ。あんなにひどく揺れてたじゃん。食器が落ちる音もしたじゃん。」
「みそきちに揺らされたのは知ってるけど、地震には気づかんかった。」
「気づくよ。気づこうよ。あんなに揺らして起こしたのに、どうやらくん、よしよし、だいじょうぶだいじょうぶ、おいでおいで、って、私を布団に封じ込めた。」
「いや、ああしたら、止まるかな、と思って。でも、実際、大丈夫じゃったじゃん。」

 しかし、その後、刻一刻と明らかになる被害状況をテレビで知り、通勤に使用している交通機関も全て不通であることを知り、そうしてテレビを見ている間にも、余震で何度も揺れを感じて、ようやく夫も「けっこう大きな地震やったんやなあ。」と現実を認め始める。

 あのときに、私は心に誓ったのだ。この人に護ってもらおう、などとは、思わない、と。自分の身は自分で護ろう、と。そしてさらに余裕があれば、私がこの人を護るのだ、と。

 そして、つい先日の朝、大きな揺れ(といっても、阪神淡路大震災後の余震レベルではあったけれど)で、目が覚めた。体に感じる振動と、天井の蛍光灯が揺れる様子を確認したのち、私は夫のそばに寄る。「地震! どうやらくん、起きて。地震。」と、眠る夫の肩に手を置き、その手を強く押しながら伝える。
 すると夫は、まず寝顔のままでニコッと笑い、それから私の腕に手を乗せて、すりすり、すりすり、すりすり、と撫でたあと、くるりと寝返りを打ち、そして深く、いびきを奏でた。
「な、な、なんなんだー、今の反応は。」と思いつつ、私は身を低くして、布団に潜り気味になり、蛍光灯の揺れを見る。そして、揺れる蛍光灯を見続けていたら、なんだか眠たくなってきて、揺れるものを見ていたら、そういえば眠くなるよねえ、と思う。
 再び眠りに落ちながら、降下する眠りの淵沿いで、ああ、そうだった、この人は、地震に気づかない人だった、私が護らなくちゃならないんだった、私は、自分のことは自分で護ると決めたんだった、と、そう決意したんだった、と、思い出す。
 そう思い出しながらも、そのまま眠り、それでも大丈夫な状況で、二人とも無事に生きていて、ほんとうによかった。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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