みそ文

爪と絆創膏

 数日前、夕ご飯を作っているときに、しゅぱっ、と、自分の左手薬指の爪を、少し(爪面積の四分の一くらい)、削ぎ落とすという出来事があった。
削ぎ落とす、とは言っても、切れ味のよいモリブデン包丁だったこともあり、すぱっと切れた後も、しばらく痛みはなく、浮き上がった爪と出血を見て、やはり切れていたか、と、落ち着いて認識した。

 夫に「指、切ってしまった。続き、お願いするね。」と料理の作業継続を頼んでから、患部を流水で洗い、アルコール消毒する。そして、ぐっと圧迫して止血する。
 よく見ると、爪の一部が剥がれてはいるものの、そのごく一部はまだ、残りの爪と繋がっている。
 このまま、この剥がれた爪を蓋として指に乗せておいたほうが、きっと治りがいいはず、と判断する。ちぎれそうな爪を指に乗せて、絆創膏で固定する。
 痛みもなく、途中から夫が作ってくれたご飯を、おいしくぱくぱくと食べる。

 翌日の仕事中。夏の冷却企画売り場の作成中。売り場作りのための道具を、バックヤードに取りに行く。まずは、90cm幅の棚板を資材置き場に片付けてから、金属フック(商品をひっかけて展示する道具)を、数十本取り出す。
 そのときに、金属フックの何本かが、絆創膏の上から、左手薬指にあたる。剥がれかけている爪に引っかかるような方向に、ぐぐっと圧がかかる。痛い。思わず「うぐっ。うががっ。」と声が漏れる。

 数メートル離れたところで、別の作業をしていた同僚が、私の声に気づいて、「どうしたんですか? なんか痛そうな声ですけど。」と声をかけてくれる。「いや、実は、昨日料理してるときに、包丁で、自分の爪を削いでしまったんですけど、そこに金属フックがあたったのが、痛くて。」と説明する。
 同僚は「うぎゃあっ。いやあっ!」と、自分で自分の腕を両手で抱きながら、小さな叫び声をあげる。

 そこに、売り場からバックヤードに入ってきた別の同僚が、「どうしたんですか? そんなところで。」と声をかけてくる。先に私の話を聞いていた同僚が、「どうやら先生がね、かくかくしかじかで」と説明してくれる。二人目の同僚は、「うわあっ! やめてー! そんなに詳しく説明せんといてー。どうしたですかって、聞かんかったらよかったー!」と足早にその場を去ろうとする。

私「まあ、まあ。大丈夫ですから。今みたいに、変な方向に圧や力がかからなければ、他の時には、別に痛くないですし。」
同僚その一「でも、絆創膏で固定してるのって、ずっと張り替えずにそのままなんですか?」
私「いえいえ。絆創膏も汚れますし、はがれますし、一日に何回か貼り替えますよ。」
同僚そのニ「それよ! そのとき、絆創膏貼り替えるときに、絶対、痛いでしょ?」
私「それが、そうでもないんですよ。」
その一「だって、絆創膏はがすときに、蓋にしてる爪がくっついてくるんじゃないですか?」
その二「そうよ。そうしたら、生の爪が剥き出しになって。うぎゃあ。痛い!」
私「あ。爪がはがれたといっても、剥がれた爪の一部は、まだ、爪本体と繋がってるんで、そこがちぎれないように気をつけながら、そおっと絆創膏をはがせば、別に痛くないんですよ。」
その二「うぎゃあ。一部だけ繋がってるとか。なんか益々怖いじゃないですか。想像しただけで、ぞわぞわしてくるー! ああっ。もうっ。仕事して、熱くなったー、と思ってたのに、話聞いて、いっきに、寒くなったー。」
私「あはは。思いがけず、納涼でしたね。」
その二「ほんとやわ。納涼、納涼。くー。こわいー。」
その一「ああー。もうー。こわいー。どうやら先生、怪我のところ、気をつけながら仕事してくださいよ。」
私「はい。」

 同僚はそれぞれに、自分の腕を抱きながら、寒そうな怖そうな様子で、各自の仕事に戻っていく。

 売り場作りの作業をすると、汗をたくさんかくし、白衣の前側も汚れやすい。帰宅してから、数日分の白衣をまとめて洗いましょ、と、洗濯の準備をする。洗濯機に入れる前に、襟首のところに石鹸をつけて、手でもみ洗いする。あと一枚、と思いながら、もみもみ、ぎゅっぎゅっ、と洗っていたら、左手薬指の絆創膏が、するり、と外れた。みゅみゅ。うがが。くうっ。ちょっと痛い。
 あれ? 蓋にしてた爪が、ない。ついにちぎれてしまったのか? はずれた絆創膏にくっついてるかなー? 
 ちらり。ううっ。ない。
 水道水の流れと一緒に、下水道へと旅立たれたようである。
 仕方ない。なくなったものは仕方ない。
 それまでちゃんと蓋として、旅立った爪をのせておいたおかげで、生身の爪の表面も、少し丈夫になったみたいだし。石鹸を洗い流して、アルコールで消毒して、絆創膏で覆っておけば、そのうち新しい爪が生えてきてくれるよ。だいじょうぶ。だいじょうぶ。絆創膏が使い放題の世の中でよかった。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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