みそ文

おかあさんはゆみちゃん

 職場で、売り場作成作業かなにかをしていたとき。
 小さな男の子(ニ歳くらい)が、ぱたぱたぱたぱた、とてとてとてとて、と、あっちに走っては途方にくれ、こっちに走っては途方にくれている様子。
 わたしはその小さな男の子に「こんにちは。だいじょうぶですか」と声をかけてみる。男児は明らかに助けを求める表情で、「おかあさんが、いない! おかあさんが、いない!」と訴える。「そうですか。では、一緒に探してみましょうね。」と応えたときに、今度はもう少しだけ大きくなった女の子(五歳くらい)が、「どうしよう! おかあさんが、どこにいるかわからない!」と、泣き出しそうな顔で私に言ってくる。その女の子は、男児のお姉ちゃんのようで、姉と弟二人して、大人からはぐれたご様子。

「だいじょうぶですよ。きっとお店の中のどこかにいらっしゃいます。一緒に探してみましょうね。」
こくこく、と頷く二人。

「お店の中は広いので、お名前呼びながら歩きましょう。きっと気づいてもらえますよ。よかったら、お母さんのお名前を教えていただけますか。」と、お二方(小さな男の子と女の子)に訊いてみる。

 個人情報保護法的には、ややいかがなものだろうか、かもしれないけれど、それが問題になったときには、そのときに考えよう。
 店内放送をかけることもできるけれど、大人の足と声であれば、さくっと見て回れる広さだ。だから、たとえば「高橋様」なら、売り場の数列ごとに、「高橋様。いらっしゃいますでしょうか。」と、お名前を呼びかけてみるだけで、おそらく気づいていだだけるはず。そう予想して、お母さんのお名前の回答を待つ。

 女の子は、もう、これ以上何か喋ったら、きっと、泣き出してしまいそうな、そんな呼吸をしながら、「おかあさんは、ゆみちゃん」と教えてくれる。

「お母さんは、ゆみちゃん、ですか。」

 私は一瞬途方に暮れる。店内で、お子様のお母様を捜し歩くのに、「ゆみちゃーん。ゆみちゃーん。」と呼ぶのも、呼ばれるのも、少しばかり、ううむむむ、なんだかなあ、な気がするような気がするのだ。

「おかあさんのお名前、苗字は、上の名前は、なんでしょう?」と問い直してみるのだが、号泣直前の女の子は、「おかあさんは、ゆみちゃん、です。おかあさんのおともだちは、みんな、おかあさんのこと、ゆみちゃん、て、よぶ。」と一気に説明してくれる。

「そうですか。わかりました。お母さんは、ゆみちゃん、ですね。一緒に歩きながら呼んでみましょう。」と決定する。お姉ちゃんと弟くんが、二人一緒に、私の両手にしがみつく。

 さて、では、歩き出しましょうかね、と思ったそのときに、「あんたたち、そんなとこで、何してるの。勝手に離れたらだめでしょう。」と、女性の方が声をかけてくださる。「あ。お母様でいらっしゃいますか? お子様たち、お母様のこと、ずいぶんとお捜しでした。」と言いながら、子どもたちの手をお母様に引き渡す。

 子どもたちは、「あ! おかあさん!!」「うわーん。うわーん。」と、それまで半泣きだったのが、いっきに本泣きに突入する。

「あんたたちが、勝手にお菓子のところに行くって言うから、ほら、子どものお菓子のところで、お父さん、待ってくれてるじゃん。二人とも、どこにいたの?」
「だってー。おとうさんもおかあさんもみえんかったもんー。さみしかったもんー。こわかったもんー。」
「だから、勝手に行きなさんな、言うたでしょ。」
「だってー、うわーん。」

 子どもたちと妻の声に気づいた男性のお客様が、「ああ、こんなとこに、いたのか。」と言いながら近づいてこられる。子どもたちは、「うわーん。」「うわーん。」と言いながら父に抱きつく。

 お姉ちゃんと弟くんのご両親にあたるお客様方は、私に向かって、「どうも、すみませんでした。ありがとうございました。」と言いながら、それぞれ一人ずつ、子どもの手をとる。お姉ちゃんと弟くんに、「よかったですね。お父さんとお母さんの手をしっかり握っててくださいね。」と声をかける。二人は、ひくひく泣きながら、でも、こくこく、こくこく、と、何度も頷く。

 再会できて、よかったね。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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