みそ文

夫の感想(「劒岳」)

 休日の日曜日。夫が一人で映画を観に行った。「劒岳(つるぎだけ)、点の記」。

 観に行く前は、「東映はもっと興行成績を取れる映画を撮るべきなのに、売れない映画が多すぎる。」とやや否定的だった夫。
 「そうは言っても、映画というものは、売れるかどうかということよりも、世の中や時代や俳優さんの記録をとる、という側面も持っているんじゃないかな。」と言う私に、「でもやっぱり売れてこそじゃろう。」と夫は言っていた。

 お昼過ぎに映画から帰ってきた夫は、妙ににこやか。「どうだった? 面白かった?」と訊くと、「うん! すっごく面白かった。」と興奮気味。

「お客さんは多かった?」
「広いほうの劇場だったから、それでもすーすーだったけど、でも30人くらいはいたと思う。」
「へえ、それは、多いね。他の映画の時には、いつも10人いないくらいって言ってるのにね。」
「うん。あれは、面白かったわー。あまりの面白さに、ほら、パンフレットまで買ってきた。こんなこと、今までにないことだ。」
「うわー。パンフレットなんて珍しい。どんなお話だったの?」
「ストーリー自体は、そんなにあるようなないような、どちらかというと記録映画っぽいというか。」
「へえ。そうなんだ。」
「あれなら、もう一回観に行ってもいいなあ。面白かったー。また観に行こうかなー。」
「それは大絶賛じゃん。じゃあ、DVDを買おうかっていう気になる?」
「DVDかあ。それはないな。あれは映画館の大画面で観るからこそ、山の景色が迫ってくるんだと思う。家のテレビじゃ、たぶん半減する。音楽もよかった。あれも映画館のちゃんとした音響装置で聞くからいいんだと思う。」

 そうかそうか。それはよかった。その後私は、ニ時間ほどお昼寝をして、目が覚めてから、ヤクルトをクピクピと飲み、夫が買ってきたパンフレットを眺める。
 山の景色が雄大で、空も雲も稜線も、思わず手を合わせて拝んでしまいそうな美しさ。
 あんまりストーリーはないと夫は言っていたけど、パンフレットを読んでみたら、明治時代に日本地図を完成させるため、剣岳測量の任を受けた当時の人たちが命がけで山に挑むという、私好みのストーリーが書いてある。

 「ブックオフで剣岳の原作本を探したけどなかったー。」と言いながら帰って来た夫に、「この映画、すごく面白そうじゃん。前に広告を見ただけでは、こんなに雄大な作品であることは伝わってこなかったけど。私もこれなら観てみたい。」と言ってみる。

「うん。みそきちも、ぜひ観に行ったらいいよ。」
「じゃあ、今度、一緒に観に行こうよ。」
「え? また観るん? なんで? 平日休みの日でも、一人で行ってきたらいいじゃん。」
「え? どうやらくん、この映画面白かったから、また観に行きたいって言ってたじゃん。」
「ああ。それは、まあ。」
「なんなん、なんなん? また観に行きたいけど、私と一緒にはいやなん? そうなん? もう仲良しじゃないん?」
「いやいや。はいはい。演技はええけん(いいから。必要ないから。)」
「え、じゃあ、なんなん? また観に行きたい、というのは、たいへん面白かったことの比喩的表現であって、実際の願望とは別物なん?」
「そうかなあ、まあ、うーん。」
「そんなの、私には難しいよ。また観に行く気がないんだったら、また観に行こうか、なんて言わないでー。」
「あーあ。脳みそがご不自由な方は、いろいろたいへんですなあ。」
「そうよー。たいへんなんだからー。私の脳みそが混乱するようなことは言っちゃだめー。」
「はいはい。まあ、そういうわけで、観に行ったらいいよ。あれくらい広い部屋なら、密室でも、みそきちも酸素不足にならないと思うし。」
「わかった。映画は好きだけど、映画館って、密室というか、新鮮な空気で換気が思い通りにできんのがいけんよね。」
「お客さん、映画上映中ですから、勝手に窓なんか開けないでくださいよ。」
「窓なんかないもん。開けられんもん。私が観に行ったとき、お客さんが私一人だったらいいな。」
「お客さん、うちも商売なんで、営業のことも考えたいんですけど。」
「そうだよねえ。たぶん映画館って、明かりが入らないように、でも今よりももっと十分、私が満足するくらいに、換気できる設備にするか、お客さんに酸素ボンベか酸素スプレー缶を配るようにしたらいいのにね。そうしたら、もっとたくさん、お客さん入るようになるんじゃないかな?」
「映画観ながら、皆が、しゅーっ、しゅーっ、って、酸素吸うんか?」
「うん。そうしたら、密室でも快適に、常にクリアな脳みそで、映画を観れるんじゃないかな。」
「必要なお客さんは自分で持って入るほうがいいんじゃない? 俺全然必要ないし。そんなんほしいと思ったことないし。配ってもらわんでいいし。それにそういう危険物は、やっぱり持ち込みご遠慮なんちゃう?」
「うーん。そうかあ。やっぱり映画館って敷居高いよねー。」
「酸素問題で敷居が高いのは、みそきちくらいだと思うけど。」
「そうかなあ。」

 休日、夫婦で、たくさん語り合えて、よかった。ありがとう、東映。ありがとう、劒岳。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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