みそ文

ラーメンはネギ抜きで

 ここ数年、私はネギを食べない。ネギの仲間である玉葱もニンニクも苦しい。味や香りは大好きだし、それぞれの食感も好みであるにもかかわらず、食べると必ず具合がよろしくないのだ。

 胃から食道にかけての粘膜が熱いような痛いような感覚になり、胸焼け状態になる。うまく消化代謝できていない化学物質のにおいが、頭皮から立ち昇る。お酒を飲みすぎたときに、アルコールがスムーズに消化代謝されないと、アセトアルデヒドのにおいがするが、あのにおいのネギバージョンとでも言えるだろうか。決しておいしそうな食品のにおいではなく、代謝や発酵に失敗した、どちらかというと腐敗に近い、快くないにおいだ。

 食道粘膜胃粘膜の熱感と胸焼けと異臭に続いて、ひどい頭痛もやってくる。二日酔いのネギ版、当日食後編。その症状は、食後しばらくから始まり、一晩中苦しさが続く。翌朝、大量の排尿と排便に至って、しばらくすると、ようやく症状はおさまるが、腸や肛門にも若干のひりひり感をおぼえる。
 お酒が飲めない人の体内に「アルコール分解酵素」がないように、私の体内では現在「アリシン(硫化アリル)(ネギや玉葱などに多く含まれる成分)分解酵素」が長期休職中なのだろう。

 だから、近年、自宅では、玉葱もネギもニンニクも、料理にまったく使わない。ここはネギの小口切りがほしいところだ、と思うときには、青紫蘇やミョウガを利用する。おかげで、自炊ご飯に関しては、ほぼまったく、問題がない。

 しかし、外食だとそうはいかない。むしろ、これらのものが入っていないメニューを探すほうが難しいくらいだ。薬味にネギが入ってるだろうな、と、予想できるものに関しては、あらかじめ、注文のときに、「ネギ抜きで」とお願いする。思いがけず出てきたときには、よけられる状態であればよける。分別不可能な状態の時には、思い切って食べてしまう。味としてはおいしいから、食べること自体はしあわせだ。ただ、そのあとの苦しさを覚悟して、少しだけ命と気合をかける。少しでも症状が軽くて済むように、食後に豆乳か牛乳を飲み、胃薬とシャンピニオンエキスと頭痛薬を飲み、歯磨きのときに歯茎も念入りにブラッシングして、デンタルフロスも使う。

 何年か前に、飛騨高山に旅行して、夜入ったラーメン屋にて。夫と私と、ラーメンを一杯ずつ食べることに。
 私のほうはネギ抜きでお願いします、と、注文のときに声をかける。するとラーメン屋のおばちゃんが、「あら、まあ。ネギ嫌いなの?」と訊くので、「いえ、味は大好きなんですけど、上手に消化できないので。」と答える。

「ネギはちゃんと食べんと、頭よくならんよ。毎日食べ続けんと。ネギは体にいいのに。おいしいのに。私なんか、ネギを食べない日はないわ。」
「おいしいし、体にもいいですよねえ。私も以前は、ほとんど毎日、食べていたんですけどねえ。お酒が飲めなくなった頃から、ネギ類もだめになってしまって。」
「あらあ。かわいそうに。こんなおいしいもん、食べられないだなんて。じゃあ、奥さん(私)はネギなしで、だんなさん(夫)はネギ入りのラーメンでいいのね?」
「はい。お願いします。」

 そして、しばし、ラーメンのできあがりを待つ。そうしてる間に、常連風のおじちゃんたちが、お店に入ってきて、おばちゃんと馴染みの会話を交わす。

「はい。おまちどおさま。」と、おばちゃんが、カウンター越しに置いてくれたラーメンには、夫のにも私のにも、薬味のネギが山盛りにのっている。おばちゃんは、すぐに、おじちゃんが注文した品の調理の続きに没頭し、おじちゃんとの会話も忙しくなる。「すみません。ネギ抜きで注文したのに、ネギが入っています。」と言う隙が、そこには、ない。

「どうやらくん。私、ネギ抜きでオーダーした、よ、ね? あれは夢? 私ネギ食べてないから、記憶が不安定?」
「ネギ抜きオーダー、したした。ちゃんと頼んでたって。そのネギ、こっちの丼に入れたら? 食べられるだけ食べるし。」
「うん。そうする。ありがとう。」
「しかし、これで、毎日ネギを食べていても、頭がよくなるわけじゃない、少なくとも、毎日ネギを食べてるおばちゃんの頭は、客の注文したことを忘れる、いうことは、わかったな。」

 たいていの飲み物や食べ物は、それぞれに有用な成分を持っていて、それらを摂取することは、健康のためによいのだろう。
 しかし、それらの成分が有用に働くよりも、不要で苦痛な働きをするときには、無理に摂取しないほうがよいはず。それらの成分で得られるはずの健康は、別の何かで補えば問題のないことだ。
 私の体内に、「アルコール分解酵素」と「アリシン分解酵素」が、復職してくれるかどうかは、わからない。復帰してくれたらうれしいなあ、とは思うけれど、不在なら不在なりに、おいしく快適にいただけるものをいただく。体には体の都合があるのだろうし。
 
 おいしさへの欲望や欲求と折り合いつけながら、食べて生きてゆきましょう。つややかな新玉葱がおいしそうだなあ、と、思う、梅雨の合間の晴れた日。


 追記。
 当時は、ネギや玉ねぎやニンニクを食べた後の頭痛は、一晩中苦しんだのち翌日までくらいでおさまっていたようであるが、その後、これらのものを食したときの頭痛は、平均的に約72時間の人生をつぶすことが判明するに至った。
 できるだけ人生をつぶさずに余生を送りたい。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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