みそ文

少し大きくなったから

 これから夏が本格的になり、お盆が過ぎる頃までの間、多くのお客様が手にとってくださるのが、虫刺されに使う薬だ。
 虫よけ製品も殺虫剤も活躍するが、それでも、虫には刺されてしまう。そんなときの痒みや腫れを緩和する薬は、早めに使うのがコツだ。かきむしって傷になってからでは、薬がしみたり、傷口が化膿しやすくなったりする。む、かゆい、と感じたら、掻く前に塗るべし。

 それでも小さなお子様は、手が届くと掻いてしまうため、パッチタイプの痒み止め貼り薬もおすすめだ。この痒み止めパッチは、直径3cm弱の丸いシールで、肌に貼り付ける面に痒みと炎症を止める薬がついている。
 ただのシールだとはがしてしまうお子様でも、シールの一枚一枚にアンパンマンの絵が描いてあると、そう簡単にははがさない。だからアンパンマンのパッチは、夏の間とてもよく売れる。

 痒いところにパッチは貼りたいけれど、子どもじゃないし、アンパンマンファンでもないし、という方たちのために、無地のパッチもちゃんとある。アンパンマンパッチに比べると地味ではあるが、こちらも夏にはよく活躍する。

 そして今日、小さな女の子(四歳か五歳くらいだろうか)を連れた女性のお客様が、女の子に「お店の人に訊いてみてごらん。このお薬は、子どもでも大丈夫ですか、って。」と促しておられた。
 小さな女の子は、片手にアンパンマン痒み止めパッチを、もう片手にハローキティのポケムヒ(痒み止めの液体塗り薬。キティのイラストがついたピンク色のスティック容器に入っている。)を持って、私のほうに振り向いて近寄る。

「このおくすりは、こどもも、つかって、いいですか。」
「はい。両方とも、大丈夫です。」
「おかあさん、だいじょうぶ、って。」

 女の子は、お母さんのほうに振り向いて報告する。

「そう。よかったね。じゃあ、どっちでもいいから、どっちかひとつ選びなさい。」
「えーと、えーと。」
「どっちでもいいけど、掻きむしったあとだと、塗り薬はちょっとしみるかもよ。」
「うーん、えーっと。」

 両足で床をがしりと踏みしめて、両手の品を見比べ迷う女の子に、私からも声をかける。

「そうですね。掻いてしまったあとだと、塗り薬は、ちょっとだけ、しみるかもしれませんね。」
「ほら、やっぱり、ちょっとしみるかも、ってよ。大丈夫? これまでどおり、アンパンマンのパッチにしといたら? どっちでもいいけど、どっちか一個よ。どっちにする?」

 お母さんと私の後押しが効いたのか、「自分はもう小さい子じゃないもん」という子ども心に火がついたのか、小さな女の子は「これにする!」と、ハローキティのポケムヒ(ポケットサイズの液体ムヒ)をお母さんの前に差し出す。

「本当にこれでいいの?」
「うん。これにする。」
「じゃあ、アンパンマンパッチは、元のところに返しておこうね。」
「うん。」
「蚊に刺されたら、すぐに塗ろうね。少し大きくなったしね。もうパッチじゃなくても大丈夫かもね。掻く前に塗れば、たぶんそんなにしみないよ。」
「うん。ぬる。だいじょうぶ!」

 アンパンマンのパッチは、棚の元の位置に戻される。そして、ピンク色のハローキティのポケムヒが、母娘とともにレジに向かう。

 少し大きくなったもんね。塗り薬がしみるかもしれないことなんて、ちょっと頑張れば平気なくらい、大きくなったんだもんね。ピンクのキティのポケムヒさん、あの子のことを、夏の間、よろしくね。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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