みそ文

視力検査

 数年前、とある眼科でのこと。
 そこの眼科は、常に満員御礼の大繁盛。年配の患者さんもいらっしゃれば、若者もたくさんいる。診察の前に、順番に、各種検査が行われる。
 視力検査のコーナーでは、同時に三人くらいが、検査できるようになっている。片目を隠して検査板の表示を見て答えるタイプのものだ。
 私の隣で検査を受けるおばあちゃんは、七十歳はゆうにこえていらっしゃるかんじで、もしかすると八十歳もこえてらっしゃるのかもしれない。眼科スタッフの若い女性が、検査について説明する。相手がお年寄りなので、ゆっくりと、少し大きめの声で、検査方法を伝える。

「田坂さん(おばあちゃんの仮名)。これから視力の検査をします。どれくらいよく見えてるか、見えていないかを調べます。これで、片方の目を隠してくださいね。あちらの白い板のところに、丸いわっかが並んでいるのがわかりますか?」
「おお。いっぱい並んでるなあ。」
「あそこに並んでいる丸の、見てもらいたいところを電気で照らしますから、そこに見えている丸の、どちら側が切れているか、答えてくださいね。」
「電気がつくんやね。」
「そうです。私がつけます。じゃあ、始めますね。」

 田坂さんは片目を隠す。女性スタッフは、検査板の真ん中より少し上あたりの適当な丸を選んで明るくする。

「田坂さん、これはどうですか? 見えますか? 見えたら答えてください。見えないときには、見えないって言ってくださいね。」
「うーん。つ!」
「つ? ああ。つ、ですかー、田坂さん。これは、丸ですからねー。つ、に見えるということは、左側に穴が開いてるのがわかるんですねー。そのときには、左、って教えてくださいねー。」
「ほっほっほ。左か。そうか。ほっほっほ。」
「じゃあ、田坂さん、次いきますよ。これはどうですか?」
「えーと。し!」
「田坂さーん。ひらがなじゃなくて、丸ですよー。」
「おお、そうやったね。でも、し、に見えるよ。」
「そうですね。上が切れてますからね。あたりです。でも、田坂さん。丸の切れ目の方向を教えてくださいねー。これはどうですかー?」
「うーん、うーん。こっち(右手を横に伸ばしながら)がわの、つ!」
「田坂さん。わかりました。じゃあ、手の方向で教えてください。今のは右側であたってますよ。では、これは見えますか?」
「の!」
「の、に、見えますか。下が切れてますからね。では、これは?」
「んん? んん? (と言いながら、体がどんどん右に傾く。だいぶん右斜めに傾いてから、ぴたりと止まる。)つ!」
「田坂さーん。これは左斜め上ですねー。田坂さんは、傾かなくていいんですよ。まっすぐなままで見える方向を言ってくださいねー。」
「ありゃ、ありゃ。」

 この調子で検査は続き、その結果、田坂さんは、相当下まで見えるらしいことが判明。

 もしも、私も長生きして、見るからに、どこから見ても、おばあちゃんに見えるようなおばあちゃんになれたときには、田坂さんみたいな芸風のおばあちゃんになりたいなあ。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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