みそ文

小さな姉妹のお買い物

 小さな女の子二人連れのお客様。年上の女の子は六歳か七歳くらい。大人に質問することも何かをお願いすることもできる立派な面差しの約六歳児。年下の女の子はたぶん三歳か四歳くらい。歩行は自由にできるけれど、会話にはまだまだ不自由が伴う約三歳児。きっと、お姉ちゃんと妹だ。約六歳児のお客様は、片腕に少しだけお菓子が入った買い物篭をさげ、手には「すこやか堂(私の勤務先)」のお客様カードを持っている。反対側の手はしっかりと、妹の手を握り締めている。

「すみません。のみものは、ここだけですか?」と、約六歳児のお客様が、近くを通った私に向かって声をかけてくださる。ここだけ、の、ここ、とは、入り口近くのドリンクストッカーで、500mlペットボトル飲料ばかりが並んでいるところだ。

「はい。こちらは、この大きさのものばかりになっています。もっと大きな、2Lのものでしたら、お店の奥のほうにありますが、どのようなものをお探しですか?」
「ヨーグルトをさがしています。」
「ヨーグルトは、すぐ隣の、こちらのストッカーに入っていますが、食べるヨーグルトでしょうか。それとも飲むヨーグルトですか?」
「のむほうのヨーグルトです。」
「飲むほうですね。えーと、ここはプリンとゼリーで、こちらは食べるヨーグルト。ごめんなさい。あと上のほうにある飲み物は、紙パックの野菜ジュースと豆乳とピクニックのシリーズで、ヨーグルト味のピクニックはありますが、飲むヨーグルトはありませんでした。」
「そうですか。じゃあ、いいです。これだけ、かいます。」
「ありがとうございます。では、レジでお願いします。」

 お姉ちゃんのほうがレジに向かおうとし、私は作業に戻ろうとした、そのとき。約三歳児の妹が、「んがう。あれ。あれっ!」と上のほうを指差して、お不動さん(頑として、その場から動かない状態)になられる。お姉ちゃんは、「ここにはのむヨーグルトはないから、あとで、むこうのスーパーにいこう。あっちなら、のむヨーグルトもあるから。」と説明するが、約三歳児お不動さんは、「がう。あれ。あれっ!」と最上段のピクニックシリーズを指差す。

「これでいいの? ヨーグルトテイストってかいてあるけど、これはのむヨーグルトじゃないよ。カルピスみたいなぶんよ。ちゃっちゃん(妹の仮名)は、のむヨーグルトがほしいんやろ?」
「いやっ。これ。これっ!」
「ほんとうにこれでいいん?」
「いい。これ。これっ!」
「わかった。じゃあ、これかおう。」
「これっ。かうっ。これっ!」

 背伸びして、ストッカーの最上段の棚から、ピクニックヨーグルトテイストを取ろうとするお姉ちゃんのそばに近づき、ひとつ取って差し上げる。

「ひとつでよろしいですか?」
「はい。いっこでいいです。」

 お姉ちゃんがカゴの中に入れようとしたピクニックヨーグルトテイストを、妹が素早く横取りする。そしてそのままお店の外へと駆け出そうとする。

「こら。おかねはらわずにもってでたら、ぬすみよ。どろぼうよ!」

 妹は、お姉ちゃんの叱責の声に反応したのか、それとも「どろぼう」という怖い意味の言葉に怯えたのか、くるりときびすを返して駆け寄り、お姉ちゃんに抱きつく。でも、ピクニックヨーグルトテイストは、しっかりと握りしめたまま。

「あそこで、おかねはらったら、もってかえっていいんよ。」
「……。」

 お姉ちゃんは、黙って抱きついたままの妹と、二人で一緒にレジに向かう。レジ担当の同僚に、「お客様のお会計、お願いします。」と声をかける。小さなお客様は、背の高さがまだレジカウンターよりも少し大きいくらいだし、さらに小さなお客様は、レジカウンターの高さに全然及ばないちびっ子だ。
 レジ担当者は、少し背をかがめて、お姉ちゃんとも妹とも目線の合う高さになってから、「いらっしゃいませ。すこやか堂のカードはお持ちですか?」と尋ねる。お姉ちゃんが「はい。これです。」と、ずっと片手に持っていた会員カードを手渡してくれる。

「すみません。こっちの、この、これ(妹が握り締めているピクニックヨーグルトテイスト)だけ、シールをはってください。ほかのはふくろにいれてください。」
「はい。承知いたしました。では、レジを通しますので、手にお持ちのピクニックを、ちょっとだけ貸してくださいね。ピッってしたらすぐにお返ししますからね。」
「ほら。ぴって、してもらうよ。かして。」
「はい。ありがとうございました。ここにお店のシールをはっておきましたからね。このまま持って出てもらって大丈夫ですよ。では、他のものもお会計しますね。」

 お姉ちゃんは、その後ちゃんと、合計金額よりも少し多い金額のお金をレジに出し、おつりのお金とレシートを受け取り、きちんとお財布に片付ける。そして、体に斜めがけにしている紐の長いポーチのようなものの中に、会員カードとお財布を入れる。それから、片手に買い物袋を、もう片手に妹の手を、しっかり持って出口に向かう。妹は片手にピクニックヨーグルトテイストを握りしめて、もう片手はおねえちゃんの手を握りしめて、嬉しそうに、スキップ風の、でも全然スキップになってないステップで、出口に向かう。

 お買い物ひとつといえども、社会的な学習要素が、たくさんあるものなのだなあ、と、感心しつつ、お辞儀をしつつ、お見送りする。お気をつけてお帰りくださいね。ありがとうございました。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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