みそ文

大人用浣腸剤

 職場にて、高校生アルバイトの女の子が、小走りに私のところに近寄ってくる。

「どうやら先生。お客様が、浣腸剤をお探しなので、お願いしてもいいですか?」
「はいはい。もちろんです。どちらのお客様でしょう。」
「あ、はい。あちらでお待ちの、女性の方です。お呼びしてきます。」

 お客様は、ビールの冷蔵ストッカーの前に立っておられる。お待たせいたしました、と声をかけてから、お通じ関係のコーナー(下剤と浣腸の場所)へとご案内する。

「お使いになるのは、大人の方ですか?」
「え? はい。大人です。」
「通常の大人用ですと、2本入り、5本入り、10本入り、24本入り、とあります。」
「え? そんなに種類があるんですか?」
「はい。通常はこちらの30mlを使うのですが、さらに体格大きめの方や、症状が重い方向けには、量の多い40mlを使います。」
「あれ? これって、もしかして、浣腸ですか?」
「はい。浣腸です。」
「もしかして、聞き間違い?」
「え? もしかして、お求めのものは、浣腸ではありませんでしたか?」
「はい。さきほどの女の子に、タカラのカンチューハイはありますか、って訊いたつもりだったんですけど。」
「カンチューハイ、でしたか。それは、大人用ですよねえ。たいへん失礼いたしました。申し訳ないです。チューハイでしたら、先ほどのビールが入っているストッカーに。」
「はい。他のチューハイはあるんですが、タカラのが見つからなくて。」
「そうでしたか。そういえば、チューハイはプライベートブランドのだけになっていたかと。今一度確認してみますね。」

 さあーっと、ドリンクストッカーを一通り見渡して、やはりタカラ商品は見つからない。

「申し訳ないのですが、飲料担当の者にも確認してまいりますので、もう少しだけお待ちいただいてもよろしいでしょうか。」
「はいはい。待ってます。」

 事務所で仕事をしている飲料担当の同僚に、「すみません。お客様がお求めなんですけど、うちには、タカラのカンチューハイは、置いてないんでしたっけ?」と訊いてみる。「そうなんですよ。すみません。前回の棚替えから、チューハイはプライベートブランドのだけになりました。」

 すぐにお客様のところに戻り、お詫びして、その旨説明申し上げる。

「ああ。いいのいいの。ないならないで。前にはあったような気がしたから、あるかなあ、と思っただけなんで。」
「すみません。それにしても、カンチューハイなのに、浣腸のところにご案内するだなんて、大変失礼いたしました。」
「さっきの子、カンチューハイがカンチョーに聞こえたんかな。くすくす。」
「ああ。カンチューハイ。だから、浣腸ではなくて、わざわざ浣腸剤って言っていたのかも。ちょっと珍しい言い方だとは思ったんです。私もその場で確認するべきでした。本当にすみませんでした。バイトの者にも、以後、落ち着いて聞き取るように、よく指導しておきますので。」
「カンチューハイ。浣腸剤。くすくす。」

 店員の失態も面白がってくださるお客様でよかった。ありがたい。そうそう。「よく指導しておきますので。」と申し上げたからには、ちゃんと伝えておかなくては。アルバイトの女の子が、売り場に戻ってきたときに声をかける。

「先ほどの、浣腸のお客様なんですけど、お求めなのは、浣腸ではなく、タカラのカンチューハイでした。」
「え? カンチューハイ、浣腸剤。うわっ。すみません。私、聞き間違い。」
「大丈夫ですよ。未成年だと、お酒のことはわかりにくいですし。お客様には、お詫びして、タカラのカンチューハイの取り扱いがなくなったことも、ご説明さしあげましたから。」
「すみません。すみません。すみません。(ペコペコと頭を下げる。)」
「そんなに気にしなくても大丈夫ですよ。今度は、もうちょっとだけ落ち着いて、確認してみてくださいね。便秘のときに使うお薬の浣腸ですよね? ってかんじででも。そうしたら、きっとその場で、お客様も、いやいや、お酒のカンチューハイよー、もうー、って、言い直して教えてくださると思いますので。あと、浣腸のことは、ふつう浣腸とは言っても、あんまり浣腸剤とは言わないので、それもおぼえておいてくださいね。」
「はいっ。わかりました。気をつけます。本当にすみませんでした。すみません。(さらにペコペコペコペコ。)」
「そんなに気にしなくても大丈夫ですって。よかったら、お客様からお問い合わせがあったときには、気持ち一呼吸置いて、落ち着くように、してみてください。そうしたら、きっと余裕を持って、お客様の声が聞こえるようになりますよ。」
「はい!」

 だいじょうぶ。だいじょうぶ。そんな些細なミスくらいは、私が、私たちが、どうにでもカバーするから。落ち着いて仕事に取り組む練習を重ねていってね。そして、将来本格的に、社会で働くそのときには、丁寧に誠実に、いい仕事をする人になっていってくれますように。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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