みそ文

流刑饅頭

 数年前の新潟県佐渡島(さどがしま)旅行。

 自家用車ごとフェリーに乗って島に渡る。
 広くて見晴らしのよい快適な宿に連泊して、気ままに車で出かけてみたり、宿に戻って、そんなに大きくない大浴場のハーブ湯に浸かってから、お昼寝をしてみたり。
 今日はそうだなあ、島の周囲をぐうるりと、海岸線に沿ってゆっくり、車で走ってみようか。
 走り始めてしばらくして、途中から、路線バスの後ろを走る。バスの車体に貼り付けられた広告ポスターを眺めながら、ゆったりのんびり走行する。道路端には菜の花。どこまで走っても、珍しく明るく穏やかにさざなみ続ける日本海。

 バスの車体後部のポスターは、佐渡島名物のお饅頭の広告だ。あまりに捨て身なその菓子の名に、私は心打たれる。

「どうやらくん。見て。あのお饅頭の名前、すごいね。流刑饅頭だってよ。いくら佐渡島が、昔は流刑地だったからって、饅頭の名前に、流刑、を持ってくるだなんて。そこまで捨て身になるなんて。佐渡島の人たちの、観光業に対する並々ならぬ意気込みを感じるね。」
「はあ? みそきちどんさん、なに言ってるん? どこに流刑饅頭なんて、書いてあるん?」
「だから、ほら、目の前を走ってるバスの後ろ。ほら。あれ?」
「饅頭の広告はたしかにあるけど、どこにも、流刑、なんて書いてないぞ。」
「あれ? あれれれ? 流刑は、どこに行ったんだろう? それとも変身した? さっきまで饅頭の前に流刑の文字があったのに。」
「最初から、流刑、の文字は、どこにもいません。変身もしてません。」
「あれ? じゃあ、佐渡島の観光業への意気込みは?」
「それも、そんなに、いうほどじゃあないんちゃう? それなりには頑張ってはるとは思うけど。佐渡島って、なんか島全体の時間が妙に間延びしてるじゃん。まだ二日しかたってないのに、ずいぶん長く滞在してる気がするもん。くつろぎは感じるけど、意気込みは、感じんなあ。」

 おかしいなあ。流刑饅頭。意味はともかくとしても、「るけいまんじゅう」のその音は、つるりと滑らかで、とてもおいしそうだったのに。私の脳内では、やや光沢のある薄皮の、一口サイズのお饅頭が、すっかりイメージできていたのに。見つけたらすぐに買って食べてみようと思ってたのに。

 お饅頭はたくさん食べ過ぎてしまうと、ああ、食べ過ぎてしまった、と、反省モードに入りがちだ。
 けれども、流刑饅頭は、なんといっても流刑だから、お饅頭を食べるのも、何かの罰のひとつなのだ。罰としてのお饅頭だもの。粛々と、その罰を受けなければならないのだ。
 ひとつ何かを反省するたびに、流刑饅頭をひとつ食べる。お饅頭を食べたいから反省するのか、反省したいからお饅頭を食べるのか、よくわからなくなるあたりも、流刑饅頭ならでは。
 ううむ。そのへんの遊び心まで、なかなかによくできた観光菓子だと思ったのに。その遊び心ゆえ、人気の土産菓子だと思ったのに。幻だったとは。
 佐渡島おそるべし。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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