みそ文

まつげが焦げる

 私が働く職場には、季節ごとに現れては消える商品もあれば、季節を問わず定番にいる商品もある。中には、一応通年取り扱いはしているものの、特定の季節には展開面積が広くなり、その季節が終了すると、小さな面積で少ない在庫になるものもある。そのひとつに、「めぐリズム蒸気でホットアイマスク」という商品がある。わりと近年に発売されたものであり、眼精疲労対策用品に分類されるだろうか。
 仕組みとしては、使い捨てカイロの、温度がとても低いものを、目の上にのせるのにちょうどよい大きさと薄さにしてあるもの。両目を閉じて、ホットアイマスクをのせると、じんわりとあたたかくなって、目の疲れがとれて気持ちいいよ、という商品だ。
 ホットアイマスクの暖かさは、10分程度で自動終了するので、あまりの気持ちよさに、そのまま寝てしまっても大丈夫。もちろん低温火傷の心配もない。

 ある日のこと。
 売り場で、お客様(若い女性の方)が、その「蒸気でホットアイマスク」を手にとっては棚に戻し、また手にとっては眺めて、を繰り返しておられる。このシリーズは、無香料タイプと、ラベンダーの香り、と、カモミールの香り、の、三種類がある。どの香りにしようか迷っていらっしゃるのかしら。たしか香り見本のボトルがあったはずだから、ご案内してさしあげよう。そう思って、声をおかけしてみる。

「もし、よろしければ、こちらの香り見本で、ラベンダーとカモミールの、香りを確認してくださいね。」
「あ、いえ、香りは、要らないんです。無香料でいいんですけど。」
「何が気になることがありますか?」
「ええ。これって、まぶたの上にのせる、ってことですよね。」
「はい。そうです。目の上にのせると、じんわりあたたかくなって、とても気持ちがいいんですよ。」
「でも、これって、まぶたの上で熱くなりすぎて、まつげが焦げたりしませんか?」
「まつげ、ですか。いえ。焦げません。そんなに温度が高くはなりませんから。」
「でも、あたたかくなるんですよね。」
「はい。あたたかくはなりますが、熱くはなりません。せいぜい四十度前後の、お風呂のお湯の温度くらいまで、です。」
「そうですか。箱にもそうは書いてあるんですけど。どうしても心配なんです。まつげが焦げたら嫌なんです。」
「まつげが焦げるのは、嫌ですよねえ。でも、お客様、こちらの商品をご覧になってるということは、目の疲れ対策を何か考えておられるということですよね?」
「はい。まあ。できれば、何かちょっと、と思って。」
「もしも、こちらのホットアイマスクみたいに、勝手に暖かくなるものが怖い気がするようであれば、ご自宅にあるハンドタオルかなにかを少し熱めのおしぼりにして、まぶたの上にのせてくださってもいいんですよ。」
「え? 買わなくても、自分ちにあるものでできるんですか?」
「はい。もちろんです。好きな温度のお湯にハンドタオルを浸して絞ってもらってもいいですし、普通の水にぬらして絞ったものをビニール袋に入れて、電子レンジでお好みの暖かさに加熱してくださってもいいです。」
「ああ。そうか。そうですよね。」
「まぶたの上をあたためてやるだけでも、目の疲れは、ずいぶんラクになりますが、もしも、もうひと手間かけていただけるのであれば、冷たいおしぼりも同時に用意して、暖めて、冷やして、暖めて、冷やして、を繰り返すと、さらにすっきりと調子がよくなりますよ。」
「冷やすのは氷水でですか?」
「はい。氷水でも、水道水でも。冷や冷やにしたいときには、水にぬらして絞ったものを冷凍庫で冷やしておくのもお奨めです。」
「それなら、買わなくても、自分でできますね。」
「はい。ただ、おしぼりは、濡れていますから、そのまま眠ってしまったりすると、おしぼりがお布団に落ちて、お布団まで濡れます。その点、こちらのホットアイマスクだと、そういう心配はありませんね。あと、外出先でもどこでもすぐに使えるのが、こちらの商品のメリットです。」
「そうかあ。でも、とりあえず、自分ちのハンドタオルでやってみます。」
「そうですか。もしも、外出先で目の疲れが気になるときには、自分の両手を、ただ、こう、重ねて、まぶたの上に軽くのせてやるだけでも、ぐっと疲れがとれますから、それも試してくださいね。」

 そんな会話がお客様との間であったんですよー、と、花王(蒸気でホットアイマスクのメーカー)の営業の人に話したら、「まつげが焦げるとか、そんな怖い商品、作るわけないじゃないですか!」とのことだった。     押し葉

 | HOME | 

文字サイズの変更

プロフィール

どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

ときどき、思い出したように、いただいたメッセージへのお礼やお返事をリンク先の「みそ語り」に書いています。よろしければ、いつでも、どうぞ、どなたでも、ご覧ください。「みそ語り」では、メッセージをくださった方のお名前は書いておりませんので、内容から、これは自分宛かしら、と推理推察しながら読んでいただければうれしいです。手の形の拍手ボタンからメッセージをくださる場合は五百文字以内、文字の方の押し葉ボタンからメッセージをくださる場合は千文字以内となっております。文字数制限なくお便りくださる場合には、下のメールフォームをご利用ください。

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク

最新記事

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (0)
暮らし (108)
仕事 (160)
家族 (298)
想 (23)
友 (47)
学習 (79)
旅 (16)
心身 (8)

FC2カウンター

検索フォーム

FC2Ad

Template by たけやん