みそ文

一口ちょうだい

 夫と私は、ときどき、ひとつのものを二人で分け合う。けれど私は、言葉をやや字義どおり(辞書的な意味どおり)に捉える傾向が高い。そのため、何か分け合う過程で、言葉上イメージしていたこととは異なる事態が生じると、地味に激しく混乱する。

 たとえば何かを食べていて、夫が「一口ちょうだい。」と言ってきたとき。私は基本ケチではないので、「うん、いいよ。はい、どうぞ。」と、自分が食べているものを手渡す。すると夫は、「一口」ではなく、ぱく、ぱく、ぱく、と、三口くらい、場合によっては五口、六口、量としては全量の五分の二くらいを、あるときには半分以上を、いっきに食べる。

 そのたびに、私は夫に、「一口って言ったのにー。いっぱい食べたー!」と文句を言う。けれど夫にとって「一口」というのは、「少しちょうだい。」「ちょっと分けて。」の慣用句だと言うのだ。それならそれで「少しちょうだい。」「ちょっと分けて。」と最初から言えばいいものを、なにゆえわざわざ「一口」と言うのか。「半分くらい」食べるのであれば、「半分くらいちょうだい。」と言えばいいのに。

 夫の解説によれば、「一口」のほうが「ちょびっとだけ」「おたのしみ」な気分にもなるし、控えめな感じも醸し出せるし、交渉しやすい気もするし、彼なりに、いいこと尽くめで、しかも「わびさび」があるとまで言う。

 最近は、夫が「一口ちょうだい。」と言うと、私はすかさず、「それは少し、ということ? それとも半分くらいってこと? それとも本当に一口?」と聞き返す。自分の混乱防止のために、それなりに努力しているのだ。
 けれど、そうすると夫は、なぜか少し、すねたような様子になる。「だったら、要らない。」と言ってみたり、一口よりもずっと少ないひとかけらだけを食べてから、「ほら、一口以下しか食べてない。」と言いつつ返してきたりする。

 これまで観察したかんじでは、夫の「一口ちょうだい。」は、「とりあえず一口食べてみて、おいしかったらいっぱい食べるし、そうでもなかったらすぐに返すね。」という翻訳が正しいような気がしている。奥ゆかしくて、自称控えめな彼としては、そんなことをあからさまに言うのは、気が引けるのかもしれない。さらなる観察と研究を続けたい。

 もういくつか眠ると、私たちは、結婚16周年を迎える。けれども、夫婦のコミュニケーションとは、分け入っても分け入っても、分け入り続ける道のようだ。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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