みそ文

トイレットペーパーの活躍

 私が働く職場では、ティッシュペーパーやトイレットペーパーの販売も行っている。
 紙関係に限らず、すべての売り場の定番商品品目は、年に数回見直される。見直しは、各店で行うわけではなく、本部が一括して行う。各店舗では、本部の見直しにしたがって、新しい品揃えで新しい棚作りをする。長年定番商品としてがんばっている品物もあれば、リニューアルや製造中止でお店から姿を消す商品もある。

 ある日のこと。バックヤードのロッカールーム入り口に、トイレットペーパーが数袋置いてあり、「ご自由にどうぞ」のメモがつけてある。「ご自由にどうぞ(従業員ならば)」の場所に、トイレットペーパーが置いてあるのは珍しいことだ。
 まじまじと見てみても、どこも破損していないし、販売上何も問題はなさそうなのに、どうしたんだろう。もらえるのは嬉しいけれど、気になるなあ。気になったときには訊いてみよう、ということで、紙コーナー担当の同僚に「すみませんー。教えてくださいー。」と声をかける。

「はい、はい。なんですか?」
「バックヤードのロッカールームに置いてあるトイレットペーパー、私ももらって帰っていいんですか?」
「はい。ぜひ、持って帰ってください。」
「見たところ、破損してるふうではないんですけど、何か問題があったんですか?」
「ああ。どこも破損はしてないんですよ。ただ、今回の棚替えで棚落ち(定番ラインナップから外れること)して、売り場に場所がなくなったんです。現品限りで売ってもいいんですけど、本部からの送り込み商品があまりにもたくさんあって、もう出す場所がないんです。それで、店長指示で、在庫計上上廃棄処分にして、無きものにすることになったんです。」
「そうだったんですか。でも、お店のトイレで使えば、トイレ用の紙を経費処理しなくていい、っていうわけにはいかないものなんですか?」
「それがですね。お客様って、お店のトイレを使われた後、今、トイレで使った紙がよかったから、同じのを買いたい、と、お求め下さることが多いんです。せっかく、これいい! と感じてお求め下さっても、その商品がない、というのではまずいので、トイレに置く商品は、少し上等で、在庫も十分にあって、会社としても売りたい種類のものを置くようにしてるんですよ。」
「あらあ。そうだったんですか。私、何も知らなくて、お店のトイレでトイレットペーパーの補充しなくちゃ、と思ったときには、適当に、たくさんあるもので、手に取りやすい場所のものを選んで、経費処理していました。」
「いいんですよ。それはそれで、問題ないんです。ただ、店頭にないものは、置かないようにしてるだけなんで。」
「そういうことなら、安心して、ひとついただいて帰ります。なんか、うれしい。」
「でしょ。私ももらって帰るつもりです。やったー、と思ってます。」

 そんな会話をしてしばらくして。別の同僚が、売り場からトイレットペーパーを抱えて、ぱたぱたと、レジに駆け寄ってきた。そして、「お客様。ただいまトイレに置いてるのと同じものでしたら、こちらのタイプになります。こちらのものでよろしいですか?」と確認作業を始めた。

「そうなんや。それなんやね。トイレの個室の中に置いてあるぶんを、じっくり眺めてみたんやけど、どうしても、売り場で同じものがわからんでねー。この模様の袋に入ってるんやね。今度から、この袋のを買うわ。」
「ありがとうございます。こちらの商品は、肌触りが柔らかいので、とても人気があるんです。」
「そうやろう? そうやと思うわ。さっき、トイレで使ってみて、うわっ、何これ、うちでお尻拭いてる紙とは、全然違うわ、って思ったもん。あんまり高いんなら買われんけど、売り場で一通り見てみても、高いいうても、一番高いのでも、一番安いのより少し高いだけやったし。これくらいなら、ちょっとだけご飯食べるの我慢して節約してでも、気持ちいい紙でお尻拭きたい、って思ったわ。」
「あはははは。いやいや、ご飯は食べてください。でも、たしかに、こちらの紙だと、すごく気持ちいいですよね。特に痔のある方なんかだと、紙が違うとお尻の調子も違うらしいですし。」
「そうやろうなあ。わかるわあ。」

 という会話の後、お客様はそのトイレットペーパーをお買い上げくださった。その接客をした同僚も、「話には聞いていましたけど、本当に、トイレで使ったのと同じのを欲しがるお客様がいらっしゃるんですねえ。」と感心しつつ納得する。

 そうなのか。お店のトイレで使うトイレットペーパー数十センチといえども、お店での大きな営業活動を担っていたとは。今度からは、トイレに入るたび、トイレットペーパーにも、仕事仲間としての「お疲れ様です。」の気持ちを込めてみよう。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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