みそ文

秘密の暗号

 我が家に友人が遊びに来ると、食卓の上に置いてあるサプリメント入れの篭を見て、「あんたら夫婦、ファンケルの回し者か?」と言う。
 それは、まあ、濡れ衣で、回し者でもなんでもなく、単なる愛用者なのだけど、回し者を疑われるほどに、いろんな種類のサプリメントを常備しているということなのだろう。そのサプリメントのどれかが、ああ、もうそろそろなくなるな、と思うと、通信販売の注文を行う。夫と私とでは常用サプリの内容が異なるのだが、注文は二人の分を私がまとめて行っている。

 先日の夜、夫が、「そろそろサプリ注文してほしいんじゃけど。」と言う。

「何と何が要りそう?」
「えーと、マルチミネラルとビタミンC、かな。」
「他は大丈夫?イチョウやDHAは?」
「それは、まだある。」
「わかった。じゃあ、念のために、メモに書いておいてくれる?」
「わかった。」

 という会話の後、夫は、使い終えたカレンダーを切って置いてある裏紙に、所望のものをメモして、「先に寝るね。」とお布団に入っていく。私がお風呂で洗った髪の毛をドライヤーで乾かし終えるには、少しばかり時間がかかる。
 ようやく髪を乾かし終えて、夫が書いたメモを確認する。そして、すこしぎょっとする。
 マルチミネラルとビタミンC、と、書いてあるとばかり思って覗き込んだのに、そこには、「まるちビたみん」と書いてあるのだ。
 な、な、なんなのだ。この文字は。音だけとれば「マルチビタミン」ではあるが、彼が求めていたのは「マルチミネラル」と「ビタミンC」だったはず。いつのまに、ミネラルがビタミンになったのか、それとも「マルチミネラル」と「ビタミンC」を合わせて省略したのか。「これはなんなんだー!」という思いが止まらず、お布団の中ですでに眠りの世界に旅立とうとしている夫に、近寄り声をかける。

「ねえ、ねえ。なんで、ビだけカタカナで、あとは平仮名なん?」
「えーとね、秘密の暗号。」

 夫は、そのまま、眠りの世界へと、旅立つ。秘密の暗号、って、さらに、「なんなんだー!」だ。
 夫がもともと書字に関して、なんらかの不自由がある人だというのであれば、こんなことで驚いたりはしない。これはもしかして、脳の血管のどこがかどうにかなったのか? 心配だよう。仕事に差し支えはないのか。会社でちゃんと仕事はできているのか。仕事に問題はないとしても、「まるち、ビ、たみん」は気持ち悪いよう。

 翌日、二人ともが仕事から帰ってきて、あらためて「まるち、ビ、たみん」とはなんぞや、と聞いてみる。

「どうやらくん、今回サプリでほしいの、マルチミネラル、じゃなかったっけ? マルチビタミンは私は飲んでるけど、どうやらくん飲んでないじゃん。マルチミネラルは飲んでるけど。」
「ああ。まちがい、まちがい。うっかりー。」
「で、なんで、まるちビたみん、の、ビ、だけ、カタカナにしたん?」
「見慣れない文字の組み合わせにしといたら、みそきちが、忘れずに注文しやすいかと思って。」
「見慣れた文字の組み合わせでも、ちゃんと忘れず注文するし、注文する内容は、文字も内容も、正しく書いてほしい。」
「やったね。」

 夫と会話していると、本当にたまにだけど、ぎゅうっと、首をしめたくなる。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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