みそ文

所望を叶えるということ

 「ホットチリソースのピザが食べたい」と所望しておきながら、出てきたホットチリソースピザを食べるなり、「ホワイトクリームチーズソースピザなのに、辛いトマトみたいな味がする。」と、謎の発言をする夫。「ホワイトクリームチーズ」と「ホットチリ」の「ホ」と「チ」が同じだから勘違いしたのだ、という言い訳はさらに謎だ。(「夫の誕生日」参照)

 そんな夫が、昔、まだ、大学生だった頃、初めての外国旅行に出かけた。その話を、結婚後、私に聞かせてくれたことがある。男子三人(夫も含めて合計三人)アメリカ合衆国の旅。当時の男子大学生御一行三名様は、そろいも揃って、英語が不自由な方々で、なのに、ツアーに参加するでもなく、三人でレンタカーを借りて、交替で運転し、道端で見つけたモーテルのツインルームに逗留しては、ジャンケンで勝った人がベッドで一人のびのびと眠り、残り男性二人は、一つのベッドに二人で寄り添って寝る、という苦行を重ねたのだそうだ。

 心身ともに疲れの溜まったある日のこと。食事のために立ち寄ったハンバーガー屋さんで、夫は、ハンバーガーと牛乳を注文した。だけど、出てきたのは、ハンバーガーとコーラ。明らかに牛乳とは異なる色合いの液体を目視確認した夫は、出してくれた店員さんに「This is not milk.Milk,please.(これは牛乳じゃないです。牛乳をください。)」と伝えるも、店員さんはにこやかに「It's coke,ok.(だいじょうぶよ。これはコーラよ。)」と言い、コーク(コーラ)をミルクと交換してくれるそぶりはない。

 「あのときは悲しかったなあ。飲みたいのは牛乳なのに、コーラを飲むしかないんや。」とつぶやく夫。「たぶん、ミルクのクの音しかお店の人には聞こえなくて、同じクの音がつくコーク(コーラ)を出してくれたんやろうなあ。」「まあ、こっちの発音にもおおいに問題があったんやろうけど。アメリカでミルクがほしかったら、ミゥッ、とか、ミルッ、とか、ミュゥッ、ってかんじで発音せんと地元の人には通じにくい、ということは、とりあえず勉強した。」

 慣れない英語使用に疲れ果てていたのではあろうが、当時の夫よ、そこで挫けるな。紙とペンを取り出して、m,i,l,k,milkと書いて指し示せ。cokeと書いて×をつけ、milkを○で囲むくらいの、コミュニケーション努力はせんかい! と、妻は厳しく説教するのだが、「あのときはそんなことすら思いつかない状態だったんだってばー。疲れ果ててたんだよー。学生で貧乏だとはいえ、あんなにケチケチせずに、モーテルでちゃんとお金を出して、もう一部屋借りて、一人にベッド一つずつにすればよかったよぅ。」と、夫は我が身の若気の至りを振り返る。

 で、何が言いたいかというと、「ホワイトクリームチーズ」と「ホットチリ」に比べたら、「コーク」と「ミルク」は双子みたいなもんだよね、ということだ。ホワイトクリームチーズを食べるつもりなのに、ホットチリを選ぶ人だ。当時学生だった夫も、脳内では「牛乳=ミルク=白い液体」を思い浮かべつつ、「コーク」と口走っていてもおかしくない。

 そういえば、夫はよく「右」と「左」も言い間違える。助手席でナビ(道案内)をしてくれるときに、右方向を指差しながら「そこ左ね。」と言ったりする。「右なの? 左なの?」と聞き返しても、右方向を指差しながら「だからこっち! 左!」と言ったりするのだ。
 あるいは直進運転中の私に「そこ、次の交差点、右ね。」と指示を出してくれるので、指示通り右折すると、「右って言ったのに、なんでそっちに行くんだ!」と私を責める。私が「右って言ったから右折したんだけど。」と言うと、「あ、違ってた。左のつもりだったのに、口が右って言ってた」と言うことのある人なのだ。
 本物のナビゲーションシステムくんが我が家の車においでになってからは、この手のトラブルは激減して、安寧なドライブ生活がやってきた。そんな記憶が蘇るにつれ、夫への疑惑は深まる。

 ということは、アメリカのハンバーガー屋の店員さんが「ミルクをコークと聞き間違えた(夫の発音が現地風ではなかった)説」よりも、実は夫が「ミルクをコークと言い間違えていた説」のほうが有力なのではないか。

 当時のことは、今更どうしようもない。としても、もしも将来夫が、なんらかの事情で寝たきり等になったときには、水を飲ませてほしいのか、オムツを替えてほしいのか、「水」と「オムツ」を言い間違えずに、ちゃんと私に(あるいは他の介護を担ってくれる誰かに)伝えてくれるといいなあ。
 もしも私がそうなったときにも、私が「ホットチリソースのビザが食べたいの。」と伝えたら、ちゃんとホットチリソースのピザを買って来てくれるといいなあ。ホワイトクリームチーズソースのピザと間違えたりせずに。(ホワイトクリームチーズソースも好きではあるのだけど。)
 他にも、お茶ならお茶、オムツならオムツ、望むものを、ちゃんと正しく、提供してくれるといいなあ。
 所望を正しく伝えることも、所望を正しく聞き取り実行することも、とても大切なことだ。そしてそれが叶うことは、きっと、とてもしあわせなことだ。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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