みそ文

夫の誕生日

 ひと月ほど前の話。毎年四月になると、夫は誕生日を迎える。今年はその誕生日前日に、「夕ご飯は、前夜祭のお祝いをしよう。」ということになる。「何が食べたい?」「ピザがいい!」というやりとりの後、ピザ屋さんへと出向く。店内飲食用のメニューをじっくりと見て、「どれにしようか?」「これにしよう!」と、主に夫が食べたい気分のものを選ぶ。レジで注文と会計を済ませて、テーブルにつく。雑誌などを眺めながら、水をちびちび飲みながら、なんでもないことをぽつぽつと話しながら、ピザの焼きあがりを待つ。ほどなく、注文したピザがテーブルにやってくる。「いただきます。」「お誕生日おめでとう。大きくなってよかったね。」「やったね。ありがと。よかったね。」もぐもぐはむはむ、と、ピザをおいしくいただきながら、夫が、ふと、つぶやく。

「あれ、なんか、このピザ、ホワイトクリームチーズソース、なのに、辛いトマトソースみたいな味がするなあ。」

 夫よ。きみがメニューの写真と説明文を見て、「これがいい。これ注文して。」と言ったから、このピザを注文したのだよ。そしてこのピザについての情報は、メニューにも「ホットチリソース」と書いてあったし、写真もそのような画像であったし、実物もそのとおりのような味がしてるよ。

「あれ? そういえば、そうだなあ。あ、そうか。ホットチリソースとホワイトクリームチーズソースの、ホ、と、チ、が同じだから勘違いしたのかな。」

 「ホワイトクリームチーズソース」。「ホットチリソース」。音も文字も見た目も味も似ていないと思う。百歩か二百歩譲って、どちらもカタカナなのは仲間だね、ということにしても、それでメニューを混同されては、情報提供を担うカタカナも文字としての立つ瀬がなかろう。
 せっかくの誕生日(前夜祭だけど)祝いには、誕生日を祝われるその人は、自分が求めるものを、もっと、正確に把握する務めがあると思う。
 祝いとは、祝いを受け取るその人がそのときに求めるものかそれに近いものを贈り贈られることで、寿ぎも喜びもしあわせな気分も、互いに大きく味わい深いものとなるのだから。「ホットチリ」を食べたいと所望しておきながら、「あれ? ホワイトクリームチーズの味がしない。」と期待はずれを表明されては、祝う気満々で寿ぎの舞を踊っていた私とピザの「心意気」が行き場を失うではないか。

 誕生日の主役なのに、説教される夫も気の毒ではあるが、私もピザも少し気の毒だ。それでも、ピザはちゃんとおいしくて、お腹もくちくなり、機嫌よく「ご馳走様でした。」を唱えて帰路につく。おいしい食べ物の力は偉大だ。そういうわけで、なかなかによい誕生日(前夜だけど)であった。めでたしめでたし。     押し葉

 | HOME | 

文字サイズの変更

プロフィール

どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

ときどき、思い出したように、いただいたメッセージへのお礼やお返事をリンク先の「みそ語り」に書いています。よろしければ、いつでも、どうぞ、どなたでも、ご覧ください。「みそ語り」では、メッセージをくださった方のお名前は書いておりませんので、内容から、これは自分宛かしら、と推理推察しながら読んでいただければうれしいです。手の形の拍手ボタンからメッセージをくださる場合は五百文字以内、文字の方の押し葉ボタンからメッセージをくださる場合は千文字以内となっております。文字数制限なくお便りくださる場合には、下のメールフォームをご利用ください。

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク

最新記事

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (0)
暮らし (108)
仕事 (160)
家族 (298)
想 (23)
友 (47)
学習 (79)
旅 (16)
心身 (8)

FC2カウンター

検索フォーム

FC2Ad

Template by たけやん