みそ文

おたずね

 私の働く職場では、この商品を売るために、この販売促進用品を使ってください、ということで、本部で作成したPOPなどが、全店舗に配布されるシステムがある。今日も、とあるPOPが届いた。そのPOPの縁の余白をハサミで切り取る作業をしていて、私の例のセンサーが、ピピ、パパ、ポポ、と鳴る。おかしいぞ。内容としては、「この商品のサンプルを差し上げますので、ご希望のお客様は店員に声をかけてください。」というものであるのだが。

「一度、飲んでみてください! お試し期間中!! *従業員にお訪ねしてください。その場で一袋の実体験!」

 うーん。だめですね。このPOPを店頭に貼るわけにはいきません。事務所にてメールソフトを起動して、このPOPを作成した本部商品部の担当バイヤーにメールを書く。

「お疲れ様です。今回送ってくださったPOPに誤字があり、店頭掲示できません。(誤)お訪ねしてください。→(正)おたずね(お尋ね)ください。お訪ね=訪問する。訪れる。お尋ね=質問する。さがし求める。どちらの場合も、おたずねください、であり、おたずねしてください、ではありません。お手数おかけいたしますが、訂正後、再度POP配送手配していただけますよう、よろしくお願いいたします。」

 基本的に、本部からの返答は遅いのが相場だ。今日のうちに返信はないだろう。数日中か、来週になってからか、返信があればあるだろうけれど、ときには、何の返信もないまま、それっきりー、ということも、ちょくちょくある。どちらにしても、もしも私が不在の時に、返信で何らかの連絡指示があった場合には、対応お願いしますね、と、店長に報告しておく。店長は「またですか。どわーはっはっ。」と笑う。せっかくなので、「しつこいですけど、解説させてもらいますと、お訪ね、は、visit、で、訪問です。お店で何をどう、visit、訪問しろと言うんですか。この場合の、おたずね、は、ask、で、お尋ね、でしょう。質問や要望を表明するんですから。まったくもう。」と付け加える。店長は、「まあ、まあ、どうやら先生、まあ、まあ。」と、短気な従業員をなだめる仕事も忘れない。

 ところが、その数十分後、メールの返信が届いた。早い。びっくりだ。なんだ、やりゃあできるんじゃん。

「POPの件は……すいません……気付きませんでした……恥ずかしいので……今、作成しなおします。でも、時間がかかりそうなので……出来れば簡単なPOPですし、出来上がるまでは、店舗で作成してもらってもOKです。よろしくお願いします。」

 うおりゃあ。どりゃあ。(私の脳内道場で、バイヤーを背負い投げした音。)

 まずもって、文語においては、「すいません」じゃなく「すみません」だ。そして、本題。「簡単なPOP」なら、「今、作成しなおし」ているなら、さっさとそれを作って送って来なさい。再び、まったくもう、と思いながら、店長に報告する。店長も返信の早さに、「うわ。はや。めずらし。」と驚く。

「で、バイヤーはなんと?」
「恥ずかしいので、今、POPを作り直しているそうです。」
「どわーはっはっ。」
「でも、作り直しに時間がかかりそうで、でも簡単なPOPなので、出来上がるまでは、店舗で作成してもらってもOKだそうです。急ぎで表示したほうがよいようであれば、店長、作成お願いします。」
「いいえ。待ちましょう。甘やかしたらいけません。」
「はい。わかりました。では、待ちます。」

 こうして、今日も、また、私の貴重な「志気」が、危うく損なわれるところであった。職場というところでは、薬剤師としての仕事だけをしていればよいわけではなく、ときどき国語の先生もするものなのだな。きっと、私も、かつて若い頃、職場の上司や先輩に、その人の立場や専門分野とは関係なく、国語の先生になってもらったり、社会の先生になってもらったりしていたのだろう。そのことを思えば、ポロリと床に落ちてしまった自分の志気を拾い直すことくらいは、簡単なことだ。そうやって拾いなおした志気を携えて、少しばかり手間がかかることであっても、その手間をかけてでも、指摘することは指摘して、伝えることは伝えてゆこう。そして、できるだけ、よりよい仕事を現場に反映させよう、と、そう思う。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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