みそ文

うがいぐすり

 うがい薬の成分には、いろんな種類のものがあるのだが、一番の売れ行きを誇るのは、やはりポピドンヨードを主成分とするイソジン系のものだろう。私は個人的には、ポピドンヨードの味は、あまり得意ではなく、通常は緑茶でうがいをしている。どうしてもうがい薬を使うなら、アズレン系のものを選ぶ「アンチイソジン派」だ。けれどポピドンヨードのうがい薬は市販薬としても人気が高く、医療用医薬品として処方されることも多い。それを販売したり調剤してお渡したりする時には、できるだけ丁寧にうがいに励んでもらえるようにという思いをこめて、説明するよう心がける。

 熊本の調剤薬局で働いていた頃には、イソジンガーグルをお渡しするたびに、「こちらのうがい薬は、少し独特な味がしますが、効き目はとてもよいので、頑張ってうがいしてくださいね。喉の粘膜にくっついてるばい菌を、しっかりやっつけてくれますよ。」というようなかんじで説明していた。「少し独特な味がしますが」と言う時には、自分の味覚記憶が毎回蘇り、おいしくなさそうな、気持ち悪そうな、表情と声色をしていたと思う。そんな私を見て、同僚が「どうやら先生は、イソジンガーグルの味、苦手なんですか?」と言うので、「はい。かなり苦手です。あれが好きな人なんているんでしょうか。」と答える。

「ええ? どうやら先生は、本当に苦手だったんですか。イソジンの味は、おいしいですよ。世の中の味の中では、私、かなり好きなほうです。イソジンって、コーラみたいな味がして、おいしいじゃないですか。うがいするときも、あまりのおいしさに、いつも飲み込まないように注意しているくらいですよ。」
「ええええっ。イソジンがおいしい、って、そんなことがあるんですか?」
「おいしいですって。実を言うと、私、あまりのおいしさに、うがい中に、何度か、ごっくん、って、飲んでしまったことありますよ。」
「ひょえー。でも、ということは、おいしいと感じる人がいるということは、服薬指導の説明の時の、少し独特な味がします、も、頑張ってうがいしてください、も、必要ない、ってことでしょうか?」
「はい。どうやら先生、いっつも、そう言って説明されてるから、患者さんが、あんまり味に期待しないようにしておいて、実際口に入れてみたら、なーんだ、すっごく、おいしいじゃん、いくらでもうがいしちゃうぞー、って思うようにする作戦かと思ってました。表情も声の感じも不味そうにしてらっしゃるから、そこまでの演技力を服薬指導に投入するとは、さすがプロだ、といつも感心してました。」
「ちがいます。本当に不味いと思ってるので、こんなに不味い薬でごめんなさいね、という気持ちが、顔と声に出てしまってました。でも、おいしいと感じる人もいるのなら、不味い薬でごめんなさいね、の情報は必要ないですね。下手に不味いイメージを強く与えて、うがいに対する抵抗感を持たせてはいけませんしね。」
「どうせなら、すっごくおいしですよー、って言ってあげてください。」
「すみません。それは、自分の舌を裏切る気がして、言えません。今度からは、さらっと、使い方と液体の色の説明だけして、患者さんから、どんな味なんですか、って質問された時だけ、苦手な人もいますが、人によってはコーラみたいでおいしいって言う人もいるんですよ、でも飲み込まないでくださいね、って言うようにします。」

 そういうわけで、私が個人的には「アンチイソジン派」であることは、相変わらずではあるものの、それ以来、患者さんやお客様に、自分の主義主張や感覚を押し付けるような説明はしなくなったのであった。薬剤師も人間も、こうやって成長してゆくのねえ。     押し葉

 | HOME | 

文字サイズの変更

プロフィール

どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

ときどき、思い出したように、いただいたメッセージへのお礼やお返事をリンク先の「みそ語り」に書いています。よろしければ、いつでも、どうぞ、どなたでも、ご覧ください。「みそ語り」では、メッセージをくださった方のお名前は書いておりませんので、内容から、これは自分宛かしら、と推理推察しながら読んでいただければうれしいです。手の形の拍手ボタンからメッセージをくださる場合は五百文字以内、文字の方の押し葉ボタンからメッセージをくださる場合は千文字以内となっております。文字数制限なくお便りくださる場合には、下のメールフォームをご利用ください。

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク

最新記事

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (0)
暮らし (110)
仕事 (161)
家族 (301)
想 (23)
友 (47)
学習 (79)
旅 (16)
心身 (8)

FC2カウンター

検索フォーム

FC2Ad

Template by たけやん