みそ文

便通改善

 やや年輩の女性のお客様が、「ノニを探しているのだけど。」と、声をかけてくださった。

「はい。ノニでしたら、こちらです。一本入りと三本入りとございます。」
「いや。こんなんじゃないわ。容れ物が違う。」
「ああ。ノニはですね、以前は、全体が濃い紺色の箱に入っていたのですが、このたびパッケージ変更で、このデザインになったんです。以前のデザインのは、もう入ってこないんです。」
「うーん。それにしても、これって中身は瓶に入った液体やろ? 私が探しているノニは、こんな液体のものじゃないのよ。」
「液体でなければ、もしかしてカプセルでしょうか。以前はノニのカプセルも置いていたんですが、今は置いていないんです。お求めのノニはカプセルのものですか?」
「いいや。液体でもないし、カプセルでもない。なんかこう、牛乳に混ぜて飲んだり食べたりするもので、お通じを助ける効果があるのよ。」
「そうですか。たしかに、ノニも、便通対策でお使いになる方も多いのですが、牛乳に混ぜて飲むには、味が難しいかもしれませんねえ。他のもので、牛乳に混ぜて摂取できて、お通じを助ける効果があるものとなると、玄米から作った『ぬか玄』の粉のタイプか、大麦若葉など青汁系のものでしょうか。」
「いやいや。玄米でもないし、大麦若葉でもないし、青汁でもなくて。」
「お客様がお求めのものの名前が、ノニであることは、お間違いないでしょうか?」
「それが、ちょっと怪しいのよ。ノニだと思って来たけど、ノニじゃないかもしれんわ。」
「そうですか。ノニではないかもしれないんですね。うちにあるノニですと、この液体のタイプだけになりますから、これでない、ということは、ノニではないかもしれませんね。」
「なんかね。友達が、ここで買ったって言ってたのよ。便通にいいって。すごくいいから三個くらいまとめて買うんだって。あの友達がまとめ買いするくらいだから、そんなに高いものじゃあないと思うのよ。ここにあるものは、安くても980円くらいでしょう。ノニは、一本で何千円もするでしょ。だから絶対違うのよ。たぶん、友達が買ったのは、三個で980円かそれくらいの値段のもののはずなのよ。ここのお店に来て、便通にいいもの、って言ったら、すぐわかる、って教えてくれて、そのものの名前も何にもちゃんと憶えてないのよ。」
「そうですか。便通にいいものも、いろいろ種類がありますので、どれがそれなのか、すぐにわからなくてすみません。そのものは、お通じを助ける効果があるものなんですよね。中身の形はどんなものなんでしょうか? 粉でしょうか?」
「うーん。私も、こんなにいろんなものがあるとは思っていなくて、ちゃんと見とけばよかったねえ。やっぱりちゃんとほしいものの名前を聞くか書くかしてこんといけんねえ。ノニやと思ったんやけどねえ。なんかね。こう、コーンフレークみたいなのを食べるときに、牛乳と一緒にかけて食べるらしいの。」
「では、お求めのものをそのまま食べるわけではないんですかねえ。そのまま食べるような、こちらのダイエットビスケットでしたら、一箱300円くらいでお求めのものの予算と近いかと思ったんですが。」
「ダイエット用ではないし、ビスケットでもないわ。なんか、ざらざらーっと出すものよ。」
「では、お求めのもののメーカーなど、他に何か情報はお持ちでないでしょうか?」
「麦からできてる、って、聞いてるわ。」
「麦、ですね。玄米でもなく、ビール酵母でもなく、大麦若葉でもなく。麦、ですか。麦の健康食品は、ないですねえ。」
「うん、麦よ。間違いない。麦からできてるの。玄米やビール酵母や大麦若葉の健康食品は、ここにあるぶんでしょ? 値段はこんなに高くないの。なんかね、大きめの茶色い箱に入ってた。でね、ざらざらーって出すの。」
「は! お客様。もしかして、それは、健康食品、ではなくて、一般食品のシリアルそのものではないでしょうか。」

 と、お客様を誘導しながら、シリアルコーナーへ移動する。

「コーンフレークに牛乳と一緒にかけて食べるもの、ではなくて、コーンフレークのようなもの、そのものではないでしょうか?」
「あ! 箱の大きさはこんなかんじよ。そうそう。食物繊維、って書いてあるの。」
「ああ。ではきっと、シリアルですね。最近は、食物繊維強化タイプが人気なんです。食物繊維はお通じにもいいですしね。」
「あ。箱のデザイン、これとすごく似てるけど、ちょっと違う。」
「お客様。先ほど、麦のもの、っておっしゃってましたよね。このシリーズで、本当はいつも、この商品の隣に置いてるシリアルがあるんですけど、今売り切れてしまってます。それが、麦100%の、オールブラン、という名前のシリアルなんです。」
「え? それは、このフレークとは違うの? これも食物繊維、って書いてあるけど。」
「このフレークは、絵にも描いてあるように、こう、花びらみたいな、一枚一枚平べったいものが入ってるんです。原料も麦だけでなくトウモロコシとの混合です。でも、麦100%タイプのオールブランは、もっと濃い茶色をしていて、一本一本細い小枝のような形をしているんです。」
「ああ! それよ、それ! 小枝みたいな形だったわ、友達が見せてくれたのも。それで、たしか、友達も、ここに買いに来た時に、売り切れていたって。」
「そうなんです。こちらの商品が、最近どういうわけか人気が高くて、よく売り切れてしまう上に、メーカーからの入荷も不安定で、注文しても入ってきたり入らなかったりするんです。」
「それよ、それ。友達もそう聞いて、その日は買えなくて、また別の日に買いに来て、またないとイヤだからって、三個まとめ買いしたって。今ないなら、私の分、入ってきたら取っておいてもらおうかなあ。」
「お取り置きですね。では、こちらの商品が入荷しましたら、お取り置きして、すぐにお電話さしあげるようにいたしましょうか?」
「うーん、どうしよう、電話かけてもらっても、いないとダメだし、いるときには孫を寝かしつけてるから、電話が鳴るのはいやだし。」
「あ。お客様、少しだけお待ちいただいてもよろしいですか? 先ほど、食品の荷物をトラックが運んで来ていましたから、もしかすると、その荷物の中に、オールブランも入荷して入っているかもしれません。少しお時間いただいて、パソコンで確認してきてもよろしいでしょうか?」
「わあ。そうしてくれる? 待ってる待ってる。」
「ありがとうございます。では、少々、失礼いたします。」

 と、事務所のパソコンで在庫数と入荷状況を調べる。現在店内在庫数は6個で、最新入荷日が今日の日付だ。ということは、やはりさっきやってきたトラックの入荷荷物の中のどこかだ。バックヤードいっぱいに山積みになっている荷物の中のどこかだ。見つけることができるだろうか、と考えながら、たたたたた、と、小走りで、お客様の元に赴く。

「お客様。お待たせしてしまって申し訳ございません。只今調べてみましたところ、今日の日付で入荷していることになっておりました。やはり、先ほど入荷して、後ろの倉庫に置いてある荷物の中にありそうです。もう少しだけお待ちいただいて、荷物の中から探してみてもよろしいでしょうか?」
「うんうん。探してきてー。あー、よかったー。訊いてよかったー。他のもの見て待ってるから、見つけてきてー。」
「はい。では、再び少々お待ちくださいね。」

 と、今度はバックヤードへ。ちょうど、食品担当の男性社員が、段ボール箱とオリコンに入った大量の食品群を、台車に下ろしなおして、仕分けの作業中であった。私が探すよりも、食品を見慣れている担当者に見てもらうほうが、きっと早く見つかるはず、と思って声をかけてみる。

「すみませーん。お客様が、オールブランをお求めなんです。パソコン上は、今日6個入荷してることになってるので、この荷物の中のどこかにあると思うんですが、仕分け中に見た憶えはないですか?」
「ああ、オールブラン、最近よく動いて、入ってきたり入らなかったりするぶんですよね。あったかなー、どうだったかなー、えーっと、たしか、このへんに。」
「あ! ありました。これですよね? オールブラン。」
「あ。それです、それです。」
「じゃあ、これ持って出て、お客様お買い上げの後、残った分は、売り場に補充しますね。」
「はい。よろしくお願いします。」
「はい。がってん、です。お任せください。」

 再び、たたたたた、と、小走りに、売り場に戻る。

「お客様。たいへんたいへんお待たせいたしまして、本当に申し訳ございません。やはり先ほど入荷した荷物の中にありました。こちらの商品で間違いありませんでしょうか?」と、段ボール箱を開けて、中身を取り出してお見せする。

「ああ!これよ、これ。間違いないわ。あー、よかった。これは、健康食品じゃなくて、普通の食品なんやね。どおりで、いくら、健康食品コーナーを見てもないはずだわ。あー、よかった。訊いてよかった。じゃあ、私も、三個買って帰っていい? 本当は全部ほしいくらいだけど、私が全部買ったら、また、売り場になくて、他のお客さんが悲しむやろ。」
「お心遣いありがとうございます。助かります。」
「じゃあ、これは、このまま食べても、牛乳かけても、いいんやね?」
「はい。どちらでも大丈夫です。」
「おやつにも食べていいんやろうか?」
「はい。おやつでも、朝ごはんでも、お好きなときにお好きなようにお召し上がりください。」
「ありがとう。じゃあ、レジでお金払うねー。」
「はい。どうもありがとうございました。」

 ああ。よかった。お求めのものに辿り着けて。でも、最初にお探しのはずだった「ノニ」は、いったいなんだったんだろうなあ。「オールブラン」とは、一文字もかぶっていないのだけれども。あの「ノニ」で結構混乱したよなあ。でも、気にしない、気にしない。一休さんなら、ここで一休みするところだろうけど、私は一休みもなく、接客前にやりかけていた仕事の続きをするよ。おー!     押し葉

 | HOME | 

文字サイズの変更

プロフィール

どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

ときどき、思い出したように、いただいたメッセージへのお礼やお返事をリンク先の「みそ語り」に書いています。よろしければ、いつでも、どうぞ、どなたでも、ご覧ください。「みそ語り」では、メッセージをくださった方のお名前は書いておりませんので、内容から、これは自分宛かしら、と推理推察しながら読んでいただければうれしいです。手の形の拍手ボタンからメッセージをくださる場合は五百文字以内、文字の方の押し葉ボタンからメッセージをくださる場合は千文字以内となっております。文字数制限なくお便りくださる場合には、下のメールフォームをご利用ください。

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク

最新記事

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (0)
暮らし (110)
仕事 (161)
家族 (301)
想 (23)
友 (47)
学習 (79)
旅 (16)
心身 (8)

FC2カウンター

検索フォーム

FC2Ad

Template by たけやん