みそ文

いっしょにやくざいし

 友人の子「一号ちゃん」が、保育園児だったころ。その日は夕方から夜にかけての四時間程度を、一号ちゃんと私の二人だけで過ごすことになっていた。たしか、友人夫婦はテニスサークルに出かけて、弟のニ号くんは、おばあちゃんちにお泊りで、それぞれに不在だった。

 一号ちゃんと二人で、美味しく夕ご飯を食べた後、居間のカーペットの上でくつろぐ。二人で並んで、一緒にテレビ観る。ときどき「めろんぱんなちゃん描いて」と、一号ちゃんが私に、紙とクレヨンを手渡してくる。はいはい、と、絵本の絵をお手本にしてそっくりに、スケッチブックに描く。

 テレビに動物が出てくると、一号ちゃんの動きが止まる。食い入るように観る。動物が消えると再び普通に動く。

「一号ちゃんは動物が好きなの?」
「うん。だいすき。どうぶつとなら、ずっといっしょにいたい。」
「そうかあ。じゃあ、大きくなったら、動物のお医者さんになるのもいいかもね。」
「どうぶつのおいしゃさんてなに?」
「動物が怪我したり病気したりしたときに治してあげる病院の先生。」
「すごくいいけど、わたし、おかあさんとおなじ、やくざいしになろうとおもっとるけん、どうしよう。」
「へえ。そうやったんや。まあ、一号ちゃんならどっちにでもなれるだろうから、勉強しながら考えて、大きくなったそのときに、すごくしたい方を選んだらいいんじゃないかな。」
「うーん、でも、おかあさんがやっきょくではたらいてて、わたしがどうぶつのびょういんではたらくんだったら、おかあさんとわたし、いっしょにしごとできない?」
「そうかあ、お母さんと一緒に仕事したいのかー。じゃあさ、もしも一号ちゃんが動物のお医者さんになって、お薬のことでわからないことがあったら、そのときにはお母さんに聞いて教えてもらうのはどう?」
「それいい。それがいい。それにする!」
「お母さんが忙しい時には、お父さんに聞いてもいいしね。」
「え? おとうさんも、やくざいしなん?」
「そうよー。」
「しらんかった。」
「お母さんもお父さんも忙しくて答えられない時には、私に聞いてくれたら手伝うよ。」
「え? みそさん、やくざいしになったん?」
「なったというか、そうなんですが。」
「みそさん、いつのまに、やくざいしに、なったん?」
「いつのまに、って。」

 このへんから、一号ちゃんは私に対して「対抗意識」のようなものを感じていたのかもしれない。その後テレビは温泉旅行番組。私が行ったことのある温泉だ。

「くー、ここの○○温泉ねー、お湯がよくてねー、おすすめー。一号ちゃんも大きくなったら、いつか行ってみてー。」
「わたしも、あちこちいってるけど、みそさん、はなのゆ、ってしってる? おすすめだから、こんどいってみて。」
「そうかあ、一号ちゃんは、花の湯がお気に入りなんやね。」
「そうよ。わたしもけっこうあちこちいってるもん。」
「そうか。そうか。じゃあ、今度、花の湯(友人宅近所の銭湯)に連れてってね。」
「いいよ。」

 一号ちゃんは、その頃から、いや、もっと小さな赤子だった頃から、眼差しも面差しも、賢さと繊細さとおおらかさに満ちている子で、現在も、私の予想に違うことなく立派に成長している。きちんと丁寧に努力を積み重ね、発揮するべき実力をきちんと発揮できる人だ。彼女なら、医師でも獣医師でも薬剤師でも、その他なんでも、勉強や、体調管理や、いろんな努力が、たくさん必要などんな仕事でも、きちんと辿り着き、よい仕事をするだろう。

 ただひとつ、私が個人的に、残念なことがあるとすれば、一号ちゃんが共に働きたいと、同じ職場で働きたいと、あれほど願っていた「やくざいしのおかあさん」は、昨夏にこの世を終えて、この世にいなくなったこと。母であることも、妻であることも、娘であることも、姉であることも、薬剤師であることも、友人であることも、この世でのあらゆることをまっとうしつくして。まっとう、しつくして。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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