みそ文

万能薬

 私が勤務する職場には、中国語を話す若い女性の方たちが、よくご来店くださる。中国語とはいっても、たぶん北京語っぽいなあ、と私が思うだけで、実際は、広東語かもしれないし、福建語なのかもしれない。そのへんはわからないけれど、韓国語ではなくて、タイ語でもマレー語でもなくて、きっと中国語だと思う程度での中国語。

 どういうわけか、彼女達のコミュニティでは、ご購入くださるものに、流行のようなものがあるらしく、誰かが何かをお買い上げくださると、次から次へと同じものが、中国語を話す女の子達により購入されてゆく、という現象がある。

 最近の流行は「にきび治療薬」らしく、複数でご来店くださり、一人一瓶ずつ、ビタミンB2製剤を買ってくださる。その後も同じものを求めてご来店くださるケースが続くので、「中国人女性」「にきび」ときたら、もう、このお薬にご案内、というパターンができていた。

 ところが、その日にご相談くださったお客様は、「中国人女性」で「にきび」治療薬をお求めではあるのだが、お求めなのが、ビタミンB2製剤ではなく、かといって、にきび治療専用の外用薬でもないようなのだ。

「ともだち、ここでかった。ともだち、そのくすり、しってる。わたし、わからない。でも、みる、わかる。」

 つまり、「友達がここで購入して、その友達はその薬のことをよく知っているのだが、自分は詳しいことはわからない。しかし、実物を見れば、これ、とわかると思う。」ということであるようだ。

 店内のニキビ関係の商品を、一通り一緒に見てまわったが、そのお客様が条件としておられる「300円くらい」という点で、なかなか合致するものがない。お客様は「ともだち、くすり、もってる。ともだち、わかる。わたし、わからない。」を繰り返してくださるので、「そのお友達に、もう一度、お薬を見せてもらって、その薬の名前を、紙に書いて来てくださいますか。」と提案してみる。そうしたら、「わかりました。わたし、かきます。もってきます。つぎに。」とおっしゃりながら、お店を出てゆかれた。

 そういう接客がありましたので、私が不在の時に、その方がご来店くださったら、紙に書いてある名前のお薬を探してさしあげてくださいね、と、同僚の薬種商のおじちゃんに報告連絡してお願いした。

 私が休みの次の日に出勤して、外用薬売り場の商品たちをきれいに並べなおしていたら、その同僚のおじちゃんが、「あ! もしかして。」と声を出された。

「どうかしましたか?」
「昨日、どうやらさんが休みのときに、中国人の女の子が来たんや。にきび薬で、ビタミンB2製剤じゃなくて、300円くらいの薬の名前を紙に書いて来てくれる、いうて、どうやらさんから聞いてたから、ああ、この子か、思いながら、紙に書いてあるのを見せてもらったら、漢字で、『万能薬』いうて書いてあって、女の子は、ひたすら、おろ、おろ、言うばっかりで、どうしてもなんのことかわからなかったんや。でも、今、どうやらさんがそこで塗り薬触ってるのを見て、ようやく、ピンときた。昨日は、どうしても、そこまで辿りつけんかった。」
「あ。私も、今、ピンときました。」
「そうやろ?」
「300円くらい。万能薬。にきび。ああ。あのお客様がお求めだったのは、オロナインH軟膏だったんですね。これなら、一番小さいチューブ入りが228円です。」
「おろ、おろ、言うてたのは、オロナインのオロを言うてたんやなあ。そう思ったら、万能薬いうのもオロナインのことか、いうてわかるが、あのときは、わからんかったなあ。」
「ああ。その場では、難しいですよねえ。オロナインの効能効果に、たしかに、にきびは、書いてありますけど。にきびを治療するときの選択肢として、上位には来ませんもんねえ。」
「オロナインやなあ。こちらから、それをお奨めすることはないと思うが。今度また来てくれて、ニキビで、オロ、オロ、言いながら、万能薬くれ、言われたら、オロナインを案内できるなあ。」
「ほんとですねえ。私も、そう思って、オロナインをお見せしてみます。」
「そういえば、最近、このサイズのオロナイン、よく出てたんや。知らんうちに。」
「ああ。じゃあ、にきびの薬として流行してて、セルフで次々、買ってくださってたんですね、きっと。」
「にきびで、オロナイン、かあ。うーん。そうかあ。」
「うーん。間違ってはいないけれど、なんというか、もうひとつばっちりはっきりとは効かなさそうですよねえ。」
「でもなあ。本人達が欲しがるものを、売らんわけにはいかんしなあ。」
「集団で、『よく効く!』と思いこんで使ったら、予想外にすっごくよく効くのかもしれないですよ。」
「そうやな。とりあえず、300円のにきびの万能薬はオロナイン、いうことで、いってみよう。」
「そうしましょう。欠品させないように気をつけます。」

 たしかに私は「薬の名前を紙に書いて来てください。」とはお願いしたが、商品名カタカナでもなく、商品名アルファベットでもなく、別称とも通称ともいえない「万能薬」と書いてきてくださるのは、予想外であった。しかし、きっと、その「万能薬」の万能なところが、彼女達の界隈では、高く評価されているのだろうなあ。     押し葉

 | HOME | 

文字サイズの変更

プロフィール

どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

ときどき、思い出したように、いただいたメッセージへのお礼やお返事をリンク先の「みそ語り」に書いています。よろしければ、いつでも、どうぞ、どなたでも、ご覧ください。「みそ語り」では、メッセージをくださった方のお名前は書いておりませんので、内容から、これは自分宛かしら、と推理推察しながら読んでいただければうれしいです。手の形の拍手ボタンからメッセージをくださる場合は五百文字以内、文字の方の押し葉ボタンからメッセージをくださる場合は千文字以内となっております。文字数制限なくお便りくださる場合には、下のメールフォームをご利用ください。

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク

最新記事

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (0)
暮らし (110)
仕事 (161)
家族 (300)
想 (23)
友 (47)
学習 (79)
旅 (16)
心身 (8)

FC2カウンター

検索フォーム

FC2Ad

Template by たけやん