みそ文

お年玉で運試し

 夫の実家に帰省すると、夫の甥っ子たち二名がやってくる。夫の妹の子らである。上の「たるる」は中学一年生になり、下の「かるる」は小学四年生になった。これまでは、夏に会っても、冬に会っても、一度も彼らが、宿題なり、勉強道具なりを持ってきたのを見たことがなく、君たちは本当に義務教育を受けているのか、と、思っていた。しかし、今回はなんと、二人とも、冬休みの宿題持参で、しかも、「これが終わるまでちょっと待って。」とまで言えるようになっていて、ああ、彼らもちゃんと、成長しているのねえ、と感心する私の隣で、義母は「ほんまに、あんたら、えろうなって。大きゅうなって。」と本気で孫を褒め称えている。

 そんな「たるる」と「かるる」へのお年玉は、数年前までは、一律二千円だったのだが、たるるの中学進学を前に、二人とも大きくなったから、という夫の判断で、前回から三千円に昇給させていたらしい。今回も三千円ずつ渡すつもりで、夫は千円札を何枚も用意していた。けれど夫は、小さい人たちをからかうことが好きなので、帰宅して、二人に会うなり、「うわ。どうしよう。お年玉のお金もポチ袋も、持って帰ってくるの忘れてしもうた。二人とも、悪いけど、今回は、お年玉なし、でも、ええか?」と訊く。

 たるるとかるるは、「えー!」と驚く。夫はさらに「うーん。なんとか、一人千円ずつなら財布にあるけど、この機会に、今年から、二人とも、お年玉千円ずつでええじゃろ?」とたたみかける。二人は「ええー!」「だめー!」と抗議する。「だって、もう、三千円もらえる思うて、計算して、買いたいもの決めとるんじゃけん!」ということらしい。

 それから少し時間がたってから、夫は、「お金はおろしてきた。二人にお年玉を選ばせてやろう。ひとつは、中身が三千円と決まってるやつ。もうひとつは、三つの中から一個だけ選ぶやつ。三つの袋の中には、千円、三千円、五千円、のどれかが入っとる。運がよければ、五千円の大金が入る可能性もあり。でも、千円しかもらえん危険性もある。予定通りの三千円になるかもしれん。そういうくじ引き制じゃ。さあ、どっちがいい?」と二人に言う。

 たるるは手堅い堅実くんで、「僕は、三千円、ってわかっとるのが、いい。」と言う。かるるは猪突猛進くんなので、「ぼくは、くじ、したい! 五千円をあててみせる!」と鼻息を荒くする。

 夫は面白がりながら、私たちが寝る部屋で、ポチ袋を四個用意する。ひとつは、たるる用に三千円入れたもの。あとは、千円入り、三千円入り、そして「5000円」と書いたメモ用紙一枚入り。三つの見た目や厚みで中身がバレないように、夫は工夫するのだそうだ。一番軽くて薄いこのメモ入りを選べば五千円やろうではないか。しかし、かるるは、まだ半分サルなので、そこまでの知恵と勇気と気合はないやろう、と、夫は予想している。明日(元旦)が楽しみやな、と低く笑う夫。

 しかし、それから少しして、鼻息の荒いかるるが、「ぼく、もう、明日まで待ちきれんけん、まだ、明日まで三時間あるけど、お年玉選びたい。今選びたい。選ばせて!」と訴え出した。夫は「仕方ないなあ。」と言いながら、四つのポチ袋を居間へ持ってゆく。ひとつは三千円確定のたるる用。たるるは「ありがとう。」と堅実にお礼を述べて、予定の金額を重ねた。一方かるるは、「コタツの上の三つのポチ袋を、『触ってもダメ、透かして見てもダメ』という条件付きの中、テーブル水平ごしに見たり、立って上から中めたり、いろいろ観察してみる。「一番厚みがある分が、五千円じゃと思う。」と予想するが、「三千円は千円札三枚じゃけど、五千円は五千円札一枚なんじゃないんかのう。」という義父(かるるの祖父)の声に「はっ!」として「あ、そうか。えーと、じゃあ、どっちかが千円で、どっちかが五千円? 千円札と五千円札はどっちが厚いんじゃろう。えー、どうしよう。」と考えれば考えるほど、疑心暗鬼になるようで、「ほんまは(本当は)、ぼくのことだまして、空っぽと、千円と、三千円で、ゼロ円を選ばせようとしょうるんかもしれん。きっとそうじゃ。俺はだまされないぜ!」と、一番厚みのあるポチ袋に決定した。

「ええんやな? ほんまにそれでええんやな?」と念を押す夫に、「いい。これにする!」と叫ぶかるる。義母が「ちゃんとお礼を言わんにゃあ。」と忠告してくれるのを聞いて、素早く「ありがと!」と言いながら、ポチ袋の中身を確認する。

「うわ! やっぱり三千円じゃ。そうじゃ思うたー。五千円くれるわけない思うたもん。」
「残念やったな。実はこの中に、五千円と書いた紙が入っとったんで。勇気を出して、一番薄いこれを選んだら、五千円だったのになあ。」
「ええ? ほんまに、五千円、用意してくれとったん? うそじゃろ? これ選んでも、うっそー、なっしー、ただの紙ー、言うてなるんじゃったんじゃろ?」
「疑い深いやつやなあ。そんなに言うなら仕方ない。ほら、ちゃんとここに(郵便局の封筒を出して)、千円札を、もう5枚、用意しといたのになあ。」
「うわー、やられたー!」と叫ぶかるる。大笑いする兄と祖父母と伯父夫婦に囲まれて、悔しさで畳の上で転げまわる。

 ご先祖様。私たちに、このような、時をくださり、本当にありがとうございます。お年玉文化を、こんなふうに愉しむことができて、私たちは、この地に生まれ育ったことを、とても嬉しく思います。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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