みそ文

いつも空室

 あれはたぶん、私は高校生か大学生で、五つ年下の妹は、まだ小学生か中学生だったのだと思う。母が運転してくれる車に、私と妹が乗っていて、どこかからうちに向かう、帰り道の道中。

 妹が、窓の外を指差しながら、嬉しそうに、いいことを思いついたときの顔をした。
「ねえねえ! うちんがた(うちの家)はけっこう広いけど、うちんがたに全員泊まりきれんくらいに、たくさんのお客さんが来ちゃった(来られた)ときには、ここの旅館に泊まってもろうたらええね。ここ、いっつも『空室』いうて看板が出とるけん。安心じゃね。」

 空室看板の旅館とは、いわゆる、ラブホテル、出逢い茶屋。国道から少し奥まったところに建物はあるらしいのだが、看板だけは、国道沿いにいつも出ていて、夜になるとちゃんと電気がつけてあって、看板の「空室」の文字が、暗い中でも、はっきりと見える。

「ほんとうじゃね。いっつも空室じゃね。でも、お客さんに泊まってもらうのは、ここよりも、もっといいところにしてあげようね。」と、母が笑いながら、妹に言う。

 妹は、「ここよりもいいところって、どこ? だって、ここの旅館なら、うちからもそんなに遠くないし、いっつも空室があるくらいに部屋がいっぱいあるんじゃろ。じゃあ、うちんがたも、ここよりもいい旅館も、全部いっぱいになって困ったときには、あぶれた人はここに泊まってもろうたらええね。」と、算段をする。さらに、「ほら。宿泊だけじゃなくて、休憩だけでもいいんてよ(いいんだってよ)。すごいいいじゃん。便利じゃん。」と、気に入った様子だ。

 その後、数十年が経つが、私の実家に来た人を、この、いつも空室があるホテル、にお泊めする機会は、まだ、ない。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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