みそ文

とんこつを求めて

あれは私が小学生のときだったと記憶している。家族で鹿児島旅行にでかけた。あまりよくは憶えていないが、鹿児島の桜島を見て、どこかで食事をしたときに、てろりとして、こくのある、茶色い塊がとてもおいしかった。母と私はその茶色い塊がとても気に入り、食事を給仕してくださる方に「これは何ですか?」と訊ねた。

「とんこつです。」と給仕の方は教えてくださる。豚の軟骨を何時間もことことと柔らかくなるまで煮込んだものなのだそうだ。味は甘辛いしょうゆ味。母と鹿児島旅行の思い出話をするときには、かならず、「とんこつ、おいしかったね。」と言い合った。「また食べたいね。」「でも鹿児島に行かないと無理だね。」「こっちのへん(広島地方)で見たことないもんね。」と。

私が大学生になって、鹿児島出身の友人と知り合った。「とんこつが好きなんだけど、作り方教えて。」と言ってみたが、彼女は「知らない。」という。「でも、うちのお母さんなら知ってるかなあ。」とも言ってくれたので、「じゃあ、鹿児島に帰省した時に、憶えてたら、お母さんに聞いてきてくれる? それか、もしもお母さんに私が会えたときには、作り方教えてもらえるように頼んでおいてくれるかなあ。」とお願いしておく。

その後も「とんこつ、とんこつ」と念じていたからだろうか。大学の保護者会のようなもの(学生の保護者と大学の先生が懇談会できるというもの)が、広島で開催されたときに、その友人のご両親が、はるばる鹿児島から参加されることになった。母と私は喜び勇んで、友人のご両親に会いに行く。お昼ごはんをご一緒しながら、あの「とんこつ」のレシピを伝授してもらうのだ。友人の母上は、にこにこと、「私にわかることなら、なんでもきいてください。」と、たいへんに頼もしい。

では、まずは、豚の軟骨を、どこで手に入れるか、だ。「あの豚の軟骨は、どういうところで、買えばいいんですか?」「あんなのどこでも売ってますよ。スーパーでもお肉屋さんでも。」

母と私は顔を見合わせる。「いや、それが、売ってないんです。やはり鹿児島から取り寄せないとだめでしょうか。」

友人の母上は、「いいや、そんなことはないですよ。あんなものどこでも売っていますから、お店でよく見てみてください。ぜったいありますって。」とおっしゃる。あまりに堂々と、自信満々におっしゃるので、母も私も、そうにちがいない、とそう思う。

では、お店で探すことにして、味付けはいかに? 「んー、砂糖と醤油とみりんですかねー。」
分量の割合などは? 「適当です。」
ではでは、加熱時間などは? 「柔らかくなるまでです。」
あの柔らかさは圧力鍋でしょうか? 「いや、普通の鍋で時間をかけますねえ。」
どのくらいかかりますか? 「柔らかくなるまでですね。」

まとめ。豚の軟骨はそのへんの店で手に入る。味付けは砂糖と醤油とみりん。鍋で煮る。柔らかくなったらできあがり。友人の母上殿。ご指導ありがとうございました。鹿児島の給仕さんが教えてくださったこととほとんど同じではあるけれど。豚の軟骨はどこにでも売られているという情報は、今回の大収穫だ。やっぱり地元の人に教えてもらうと違うねえ。

というわけで、帰り道さっそくスーパーによる。これまでは、母も私も見落としていたらしい豚の軟骨を探してみる。
どこにあるのか、どこにでもあるらしいはずなのに、精肉コーナーを行ったりきたり。見つからないのでついに、お店の人に訊いてみる。「ありません。」
やっぱりないね。
うん、きっと、鹿児島じゃないからだよ。

それから何年も経過して、もっとずっと大人になって、結婚して、転勤して、熊本に住むようになって、鹿児島に行ってみたときに、スーパーにも行ってみた。懸案だった豚の軟骨。
ある。
ふつうにある。
豚のこま切れと同じ存在感だ。
友人の母上は正しかったのだ。

けれど友人の母上殿。豚の軟骨の販売は、今なおやはり、全国的ではないようにござります。     押し葉

 | HOME | 

文字サイズの変更

プロフィール

どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

ときどき、思い出したように、いただいたメッセージへのお礼やお返事をリンク先の「みそ語り」に書いています。よろしければ、いつでも、どうぞ、どなたでも、ご覧ください。「みそ語り」では、メッセージをくださった方のお名前は書いておりませんので、内容から、これは自分宛かしら、と推理推察しながら読んでいただければうれしいです。手の形の拍手ボタンからメッセージをくださる場合は五百文字以内、文字の方の押し葉ボタンからメッセージをくださる場合は千文字以内となっております。文字数制限なくお便りくださる場合には、下のメールフォームをご利用ください。

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク

最新記事

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (0)
暮らし (110)
仕事 (161)
家族 (301)
想 (23)
友 (47)
学習 (79)
旅 (16)
心身 (8)

FC2カウンター

検索フォーム

FC2Ad

Template by たけやん