みそ文

とんびに大判焼き

「とんびに油揚げ」というのは、これまでそこにいなかった者が突然現れて、誰かのものを横取りすること、であったらしい。であったらしい、というのは何故かと言うと、私はどういうわけなのか、この言葉は「豚に真珠」の仲間で、「似つかわしくないもの」「役に立たないもの」の意味を持つような気がしていたからである。でもちがった。とんび、という鳥は、人のものを横取りする能力に優れているのだ。

このたび訪れた輪島の朝市から少し離れた食堂で、お昼ご飯にあら汁を食べた後、大判焼きが食べたいなあ、と思ったので、再び朝市エリアに向かった。右前方に駐車場があり、左前方に朝市がある。その間を通る道路沿いの電信柱のてっぺんに、鳶がずっととまっていて、「ぴーひょろろー、ぴーひょろろー」と鳴いている。夫が「観光客の買ったものを狙ってるんやなあ」と言いながら鳶を見上げる。駐車場には大きな看板に「とんびに注意!!」と書いてある。私は「ふーん」と思いながらも、心は大判焼きに占領されていた。

大判焼き屋さんで、夫用に「あんこ入り」を、私用に「クリーム入り」を買う。焼きたてのあつあつを、ひとつずつ紙袋に入れてくれたので、駐車場までの小道を、ほくほくはぐはぐ甘さとあたたかさを味わいながら歩く。夫は食べるのが早いので、駐車場に着くまでに完食。私は食べるのがあまり早くないので、車の近くに来てもまだ、あと少しをはぐはぐ。でも車の鍵を開けなくちゃ。そう思って、大判焼きを左手に持ち、かばんの中の車の鍵を右手でまさぐっていたら、突然、左手に衝撃を感じた。

痛みの走る左人差し指を見る。大丈夫。傷も出血もない。何だったのだ? 夫が「大丈夫か? 怪我ないか?」と言う。「うん。大丈夫みたい」と応える。前方に目をやると、私の二メートルほど先に、私の大判焼きが落ちている。その手前には紙袋も。夫が「今の鳶、速かったなー」と感心しながら言うのを聞いて、ようやく、「そうか、私は鳶に大判焼きをとられたのか」と気がつく。でも、ごみは拾って捨てなくちゃ、と、落ちた紙袋を拾って、かじり残しの大判焼きも拾おうとして、ふと、「このままにしといたら、とんびが食べに来るのかな」と考えてたら、夫が「とんびが取りに来るよ」と言う。「そっか」と私がつぶやいて一歩引いたその瞬間、鳶が「すぁーっ!!」と低空飛行でやってきて、地面の大判焼きを拾って飛び去る。うわあ、速い。もうあんな遠くの海の上だ。

知らなかった。鳶は大判焼きも食べるんだ。知らなかった。鳶は口ばしではなくて、足で獲物(大判焼き)をつかむのか。私が育った地域には、とてもたくさんの鳶が、しょっちゅう飛んでいたけれど、歩行中の人間が持つ食べ物を奪う習性はなかったなあ。とんびに油揚げを盗られた人は、油揚げをざるに入れて蓋をせずに運んでいたのかなあ。昔のお豆腐は、お鍋のような容器に入れて買ってたはずだけど、油揚げはどうやって運んでいたんだろう。

とりあえず、学習したこと。「鳶に油揚げ」は、「豚に真珠」とは別の意味。鳶は油揚げだけではなくて、大判焼きも横取りする。それから、看板の注意書きには意味があるから気をつける。
    押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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