みそ文

魔法の相槌

慣れない土地で仕事をするとき、その地の方言にしばしとまどう。それでも仕事の部分では、脳みその「語学モード」を最大限にして、張り切って対応する。気分は毎日「留学生」だ。そんな私に配慮して、できるだけ共通語風に話そうとしてくださる地元の方々の存在は、なんとも実にありがたい。コミュニケーションに対する双方の意気込みが働き合うその様をうっとりと感じるひとときだ。

しかし、仕事部分が終了して、ただの世間話になったとき、私の「方言理解するぞモード」はほんの少し緩み、それと同時に、相手の「方言話すぞモード」が急激に上昇する。

以前、熊本の調剤薬局で働いていたある日のこと。お薬を渡し終えた患者さん(じいちゃん)が、「家族が迎えに来るまで、ここで待たせてください。」とおっしゃった。「どうぞどうぞ。ごゆっくり。」と世間話開始。世間話になったとたん、じいちゃんの方言モードが炸裂する。「……とですよ。……ばってん、……ごた。……ですたい。……ですけん、……と? ……でですね、……たいねー。」

だめだ、「……」部分が全然聞き取れない。でも大丈夫! こんなときには! 私には! 「魔法の相槌」があるんだー! 悠然と微笑みながら、「魔法の相槌」を繰り返す。「そうですねー。そうでしょうかー。そうかもしれませんねー。なるほどー。」これを順不同に繰り返せば大丈夫。

「……たったいねー。」
「そうですねー。」

「……ごたるよー。」
「ほー、なるほどー。」

じいちゃんもご機嫌で話している。何を言ってるか全然わからんが、話はかみ合っているようだ。

「お。迎えがきたごた(迎えが来たようだ)。」
「おだいじにどうぞ。お気をつけてお帰りくださいねー。」
「ありがとー。また二週間後に。」

じいちゃんは足取り軽く帰っていった。ふう、一仕事終わったぜ。

「くくくくくくくく」。ん? どこかから笑い声が聞こえる。どこだ? どこだ? ときょろきょろ見回すと、隣で事務仕事をする同僚が、「おかしすぎる」と笑っている。「どうしたんですか?」と訊ねてみたところ、「さっきの患者さん、ずーっと、自分はこんなにたくさん薬を飲まないといけない体になってしまって、このままじゃもう、棺おけに入るしかないかもしれない。死なないと治らないんだろう。死んでも治らないかもしれない。もうどうしようもないみたいだ。って話されてるのに、どうやら先生ずっと、にこにこして、そうですねー、そうかもしれませんねー、って合いの手入れてるんですもんー。」

なんてことだ。「おねがい。そういう時は、その場で私をすぐに止めて。」

しかし。じいちゃん、よかったのか? それとも、私の相槌なんか、全然聞いちゃあいなかったのか。そんなに自分の世界に入って語っていたのか。

教訓。「魔法の相槌」は万能ではないので注意が必要。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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