みそ文

きれいですね

 むかしむかし。わりかしむかし。私が二十歳前後のころ。たぶん大学の春休みを利用して、福岡の友人宅に泊まりがけで遊びに行ったとき。友人の母上様作の、少しばかりおいしすぎる夕食をたらふくご馳走になった後、友人と友人の妹たちと居間で愉しく語り合う。

 当時、高校生や中学生であった妹さん二人は、大学から久しぶりに帰省した姉(友人)の存在を喜ぶと同時に、慣れない来客(私)に戸惑いながらも、精一杯歓迎しようと、にこやかに話し相手になってくれる。にこにこ、わいわい、話していて、ふと、上の妹さんが言う。

「みそさん、はがきれいですね。」

 音は耳に入ったが、すぐには意味が理解できない。でも、ほんの一瞬考えて、私はすぐに意味を理解したつもりになった。私の歯は、色も形も並びも、特別、褒められるほどの状態ではないのだが、中学生の時、バスケ部の練習中に前歯が折れたことがあり、それ以来、そこが差し歯になっていた。大学生になって、体の成長も止まったし、もう口も大きくならないだろう、ということで、上の前歯二本は、保険適用外の高価な差し歯にしつらえなおしたばかりだった。そのことを思い出して、褒められるとしたらこれしかないね、と判断し、友人の妹さんに向かって、にっこりと、自分の前歯を指差しながら、応える。

「は。歯。これね、差し歯なの。」
「……」

 妹さんが固まっている。その眼が必死に「おねえちゃん、どうしよう。」と訴えている。何があったのだろうか。私も友人を見つめてみる。突然に、妹さんと私の間で「日本語通訳」を担うことになった友人は、けらけらげらげら笑いながら、私に教えてくれる。

「みそさん、肌よ。肌。肌きれいですね、って言ったの。歯がきれいですね、じゃなくて。歯が、じゃなくて、肌。」
「ひゃー(私の驚きの声)」

 教訓。人の話は一音一音丁寧に聴こうね。それとね、他人の差し歯は、それがどんなに立派でも、たぶん、あんまり褒めないと思うよ。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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