みそ文

絨毯

実家の祖母が生きていた頃。

居間の大きなテレビの前、ほんの1.5mくらい手前、つまり殆んどテレビのまん前に(といっても若干ななめ前なのだが)、ばあちゃんはちょこんと座って、テレビを見るのが常だった。テレビの画面は大きくて、ばあちゃんの顔は小さくて、ニュースキャスターの人の顔が、ばあちゃんの倍以上もあった。

ある日の夕方、ばあちゃんが、くるくると巻いた何かを、「よいしょよいしょ」と言いながら、居間に運んでやってきた。

「おとうちゃん(私の父)(祖母にとっては息子)の誕生日プレゼントに買うたんじゃ。」(広島弁では、買う「かう」を、買う「こう」と発音する。)
「へえ。絨毯?」
「シルクのペルシャ絨毯じゃ。」

くるくると絨毯を開く。大きさは、畳一畳分くらいだろうか。

「わあ。きれい。きっと、とーちゃん、喜ぶね。どこに使うことにするかな。」
「使う場所は、もう決まっとるんじゃ。」
「え? どこ? なんで?」
「テレビの前じゃ。みんなでご飯を食べるところからもよう見えるけんの。」

と言いながら、父へプレゼントするはずの絨毯を、テレビの前に敷く祖母。

「えー? ばあちゃん。とーちゃんまだ帰って来てないよ。」
「帰ってきたときに敷いてあるのもええじゃろう。」
「んー。そうかなー?」

ばあちゃんは、敷いたばかりの絨毯の上にちょこんと座り、絨毯の表面を撫で回す。

「やっぱり、ええ絨毯じゃ。」
「うん。模様もきれいだし、手触りもいいね。」
「じゃあ、テレビでも見ようかね。」

と、そのまま、いつもの定位置に、つまり新しい絨毯の上に、いつものようにちょこんと座って、テレビのリモコンでスイッチを入れる。そして、絨毯に座ったまま、じっくりテレビを見始める。夜になって、帰宅して、居間に入ってきた父に向かい、祖母が言う。

「おう。おとうちゃん、誕生日じゃろう。(祖母は自分が乗っている絨毯をぽんぽんと叩きながら)これはわしからのプレゼントじゃ。」
「そりゃあ、ありがたいが、なんでわしの祝いの上に、ばあさんが座っとるんか?」
「まあ、ええけえ。みんなで座ったらええんじゃけえ。おとうちゃんの誕生日じゃけん、奮発して上等なのを買うたんじゃ。」

だけど、ばあちゃん。そんな場所に座るのは、ばあちゃんしかおらんじゃん。と、ばあちゃんを除く家族みんなで思った冬の日の夜。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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