みそ文

新義母電

 お盆に帰省したときに義実家の電話が新しくなっていた。「わぁ、おかあさん、電話新しゅうしちゃったんですね」と言うと義母が「あれ以来わたしゃあ電話恐怖症みたいになってしもうてから、あんまり怖うて仕方がないけん、かかってきた電話番号がわかる電話を買うてきたんよ」と言う。

 あれ以来のあれとは「詐欺顛末」の一連。「うんうん、おかあさん、わかるわかる。ああいうことがあったあとは恐ろしゅうなるもんじゃけん。電話機の便利な機能で済むことはどんどん利用して恐ろしゅうないようにちいとでも(少しでも)安心なようにしときましょう」と言う私に義母は「でもおとうさん(夫の父、義母にとっては配偶者)は『そがあな(そんな)電話機は要らん。これまでの電話(薄緑色のダイヤル式の電話)に戻せ』いうて言うてんじゃけど私が『とりあえず一年使うてみようや。それでやっぱり元の電話のほうがええいうことになったら戻そうや』言うて前の電話はほらここに置いてあるんよ」と言う。

 ああ、そういえば、十数年前に、ある対人的なトラブルにより私がナンバーディスプレイ機能はもちろんのことそれを元に着信拒否設定ができるような電話機を買い求めたときに当時の夫(今の夫と同一人物だが)は「そんなもの要らんやろう」とひどく拒んだことを思い出す。あのとき私は「どうやらくんには必要ないならどうやらくんはその機能を使わなければいいよ。私は自分に必要だと思うから自分で買って使うから」と言い張り着々と購入設置設定した。そういうときのそのへんのとっさの一言がここの父と息子はよく似ているのかしら。結局今は夫も我が家のナンバーディスプレイ機能には随分とお世話になっていて、自分が用事のある電話(家族や知人からの電話や用事のある業者さんからの連絡たとえば山用品屋さんからの「ご注文の品物が入荷しましたよ」のお知らせなど)なら出るがそうでなければ出ないというふうに便利に使っている。

 そういえば私がおしり洗浄機能付き便座を買うことにしたときにも夫は「そんなもん要らんやろう」と購入設置に否定的だった。今住むマンションの便座にはおしり洗浄機能は付いておらずその便座を取り外して自分で買ったおしり洗浄機能付き便座を設置することにしたとき。あのときも私は「うん、私はおしりを洗って気持よく過ごすけど、どうやらくんはこれまでどおり洗わず過ごしたらいいよ。おしり洗い機能を使いさえしなければこれまでの便座と同様に使えるから」と言って注文した。夫は「いや、あるんなら使う」と言いよどみ、設置(設置作業には夫も協力してくれた)後は便座を温める機能など私はまだ冷たいままでいいなと思う時期でも夫は積極的にスイッチを入れて利用している。

 話を電話に戻そう。息子の名を騙る詐欺電話があったあと義母は実家にほど近い小さな家電製品店(大手家電製品店の出張所のような店舗)で「電話番号が表示される電話をください」と言って買い求めたという。お店のひとはナンバーディスプレイ機能がついた電話をつなぐだけでなく、NTTにナンバーディスプレイの申し込みをして月々の利用料金が必要となることを説明してくれる。そのときその店舗にあるナンバーディスプレイ機能付きの電話機はFAX機能もついている一種類しかなく値段も親機子機のセットで一万円ほどだったが義母はすぐに購入して持ち帰りナンバーディスプレイの申し込み手続きをした。

 新しく購入したナンバーディスプレイ機能付き電話を義母がどのように利用しているのか訊くと、FAXは使う気がないから紙もなんにも入れておらず、ただただかかってきた電話番号を電話の前のメモ用紙に書き留めてから電話に出る、という。もちろんそれでもいいのだが、「おかあさん、この電話機じゃったら、安心して出ていい電話番号の人は名前を登録してその名前が表示されるようにできますよ」と言うと義母は「え、そんなことできるん? 携帯電話じゃなくて家の電話なのに?」と言う。「この電話の取り扱い説明書ってありますか」と問うと「捨てちゃあいけん思うてここに取ってある」と出してくれる。「おとうさんが勝手に捨てたらいけん思うて『捨てるな』いうてメモも書いて入れてある」とも。

 取扱説明書をめくりながら「おかあさん、この電話機はナンバーディスプレイの電話番号表示はもちろんしてくれますけど、もしもどうしてもおとうさんがナンバーディスプレイなんか要らんって言うちゃってナンバーディスプレイを解約したとしても、ここの、このボタンを押すと電話をかけてきた相手のひとに『名前を名乗ってください』いうて機械の声が伝えてくれるけん、それで相手のひとが『誰々です』いうて名乗っちゃってからこの人なら安心して出ましょうと思って出ることもできるんですよ」と言うと「ええっ、なにそれ、そんなものがあるん?」と驚く。「うん、おかあさん、この電話機はこの機能が売りでそのぶんいいお値段がする電話機じゃけん。受話器をあげんでも相手の声は聞こえますよ」と言うと、「そんなこと全然知らずに買うて使いようた」と義母は言う。

「おかあさん、あとね、このボタンを押して相手に名前を名乗ってもらったとして、知っとるひとならそのまま出りゃあええけど、全然知らんひとじゃったりこっちには必要のないセールスなんかのときにはこの『おことわり』いうボタンを押すと機械が『恐れ入りますがこの電話はおつなぎできません』いうて電話を切ってくれるんですよ」
「えええええっ、そんなことまでしてくれるん?」
「それかこっちの『ストップ』っていうボタンを押すとそのおことわりさえも流さずに受話器をあげんでもぶちっと電話を切ることもできるけど、それは相手にあんまり気の毒かなと思うてんようなら『おことわり』ボタンを押してあげたほうが相手の人に対してもじゃけどおかあさんのこころが穏やかかもしれんけん」
「あはははは、ほんまじゃねえ、そりゃそのほうがええねえ。でもこのへんの年寄りは短気なけん、電話機の機械の声で名前を名乗れじゃことのいうたら怒ってしまうひともおるかねえ」
「ああ、この家はまだおとうさんが散髪屋さんしようてじゃけん、お店に用事があってかけてきてんひともおってですもんねえ。おとうさんがお店をしようてん(しておられる)間はナンバーディスプレイされるようにしといて、市外局番市内局番がここの家と同じところからじゃったら町内のひとからだと思ってもしかしたらお店のお客さんかもしれん思うて出ちゃったらいいんじゃないですかねえ。市外局番が親戚筋や知り合い関係で心当たりのない番号だったり知らない携帯番号からのときには名前を名乗ってもらってからでもいいんじゃないでしょうか。それでもしも実はお店のお客さんからだったときには『最近詐欺電話が多くて往生しょうるんです』いうて説明したらわかってくれてじゃと思いますよ」
「ああ、そうか、それなら電話番号を全部書き写さんでも番号の最初のほうだけ見て町内か市内じゃいうてわかったら出てもええねえ」
「うん、おかあさん、電話番号書き写そうとしてメモしとってじゃけど、途中で力尽きて最後の4桁まで書けてないのが多いし」
「そうなんよ。しかしこの電話機に電話番号表示以外にそんな便利な機能がついとるとは、わたしゃあ全然知らんかったわ」
「せっかく一万円出して買うちゃったんじゃったらFAXは使わんにしてもこの『名を名乗れ』ボタンは活用したほうがええですよ。この機能は他の電話機にはなかなか付いてない機能じゃけん」
「わかった、機械が言うてくれるんなら自分で言わんでええけん気がらくなわ」
「ほうでしょ。それに機械がそういうて『名を名乗れ』いうて言うだけでも面倒くさがりのセールスや詐欺は退散する傾向があるらしいですよ」
「それはそうなんじゃろうねえ、それだけでも助かるねえ」
「じゃ、あとは、おかあさんの携帯電話に入ってる登録電話番号はこの新しい電話でも名前が表示されるように登録しときますね。これでたとえばえりりちゃん(夫の妹)からかかってきたらナンバーディスプレイのところに『えりり』いうて名前が出るけん電話番号の数字は表示されんけど名前の文字を見てこの電話には『名を名乗れボタン』は使わなくていいなって判断できるでしょ」
「ありゃあ、みそさんはそんなこともできるんね、すごいねぇ、ありがとありがと。番号じゃなしに名前が出るんならそっちのほうがなお安心じゃわ」
「いえいえ、私がすごいんじゃなくて電話がすごいんですけどね。あとこの電話は親機も子機もワンタッチボタンがあるけん、ワンタッチボタンの1番を押したらうちにかかるように、2番を押したらえりりちゃんにかかるように、3番を押したらおかあさんの携帯電話にかかるように設定しときますね」
「え、そんなこともできるん? 私の年寄り向けの携帯とおんなじじゃが」
「そうそう、おんなじです、おかあさんの携帯とおんなじ感覚でこのワンタッチボタンを使うちゃったらいちいち番号調べんでも電話番号の数字のボタンを全部押さんでも電話がかけられるけんらくなですよ。ではさっそく練習におかあさんの携帯にかけてみますよ」

 そうして義実家の新しい電話から義母の携帯に電話をかけ、今度は義母の携帯から義実家の電話にかけて『あんしん応答』ボタンを押したときに「迷惑電話対応モードになっています。お名前をおっしゃってください」と流れる音声がどんなふうに聞こえるのか、『おことわり』ボタンを押したときの「おそれいりますがこの電話はおつなぎできません」が実際にどんなふうに聞こえるのかを義母に体験してもらう。義母は電話機の音声のその失礼のない話しぶりが気に入ったようで「これならこのへんの年寄りでも怒っちゃあないかもしれん」と言う。

 その後メモ用紙に「あんしん応答ボタン」と「おことわりボタン」の使い方、ワンタッチボタンの使い方を大きめの濃い文字で書き「使い方はどうだったかな、取扱説明書を開くのは面倒くさいな、というときにはとりあえずこのメモを見ながらやってみてください」と一通り復習するような流れで義母に電話機のボタンを触ってもらいながら説明し、そのメモを取扱説明書が入っているビニール袋に入れる。義母が実際にこれらの便利機能を使うかどうかはわからないけれど、私の立場で、年に一回の帰省の限られた滞在時間内に、できるだけのことはしたよね、これでもまだまた義両親が(主に義母が)詐欺電話で難儀するようなことがあれば次の対策を考えよう。しかしナンバーディスプレイ電話機を息子夫婦(夫と私)や娘(えりりちゃん)が買い与える前に自分で買ってきて設置したおかあさんえらい。     押し葉

洗濯機の内蓋

 洗濯機の修理に来てもらった。そして洗濯機の不具合は簡単に解決しまた元気に洗濯物を洗ってくれている。

 今の洗濯機を購入したのは2014年5月だから二年数ヶ月前のことになる。それまでは結婚したときに父が買い与えてくれた家電製品一式のうちの洗濯機『静御前』を二十年近く愛用していた。二十年前には作動音が少なく静かなのが売りの製品で名前が静御前だったが今にして思うとそれほど静かではなく今の洗濯機に買い換えたときに今の洗濯機の作動音があまりに静かなのに驚きこれまでの『静御前』での洗濯ではどれほど同じマンションの上下左右のお部屋の方たちにご迷惑をおかけしたのだろうかとよくぞ誰も何も言わず放置してくださっていたことだと申し訳なくありがたく思ったほどであった。

 今の洗濯機は『静御前』よりも作動音が静かなのはもちろん、静御前で仕上げた洗濯物は脱水によりのしイカのようにペターっとした布片になっていたのが、そして場合によっては洗濯物同士がからみ合って一部結ばれたようになっていることがありそれを干すときに一個一個取り外すのに手間がかかることがときどきあったりもしたのだが、今の洗濯機は脱水後にほぐし作業をしてくれるため脱水後に取り出した洗濯物は相互にからまることもなくそれぞれをつまみ上げて干せばよい。そしてそのほぐし作業をしてくれるおかげで洗濯物が乾いたあとの感触が以前はパリパリしていたのから今はふんわりにかわった。

 静御前も今の洗濯機も縦型全自動洗濯機。ドラム洗濯機の存在は知っているし何度かあちこちで利用したことはあるのだけれど私は縦型全自動洗濯機が好きなので買うときに選ぶとしたら縦型でドラム式は候補にもあがらない。縦型の機種の中で機能の内容と大きさその他を鑑みて選ぶことになる。

 今回の洗濯機の不具合は内蓋に生じた。静御前には内蓋はなく外蓋だけだったのだが今の洗濯機は乾燥機能付きにしたため乾燥時に洗濯槽を高温に保てるようきっちりぱっちり蓋ができるパッキン付きの内蓋がついている。静御前で洗濯していた頃にも他社の縦型全自動洗濯機には内蓋がついているものが既にあった。その他社製品には乾燥機能がついているわけではなく内蓋の存在は洗濯槽の水しぶきが飛び散らないようにする目的のものなのでパッキンなどはついていないわりと簡易なプラスチックの半透明のもの。

 静御前を使ってきたときはずっと乾燥機能なしでやってきたので買い替えのときに今後も乾燥機能はなくてもいいかなどうかなと考えながら店頭商品を見比べてみたのだがそのときには乾燥機能あるなしでの価格差があまりにも小さかったので冬に雪で洗濯物を外に干せないあいだサンルームで乾かすにしてもタオル類だけでも乾燥機で乾かせば他の衣類をサンルームで干すのにも空間に余裕ができて除湿機で乾かすのもこれまでよりも乾きやすくなるかもしれないと期待し乾燥機能付きを購入した。そうして縦型全自動洗濯機の乾燥機能を使ってみたらタオルのふんわりかんわりな仕上がりが高級ホテルのタオルみたいでそれはそれでたいそう幸福。だからといってタオルを毎回乾燥機乾燥するかというとそれはなく、外に干したものの雨で乾きがあと一歩二歩三歩なかんじでこれから除湿機に当ててもなんか雨臭いにおいが残りそうというときに半乾きのタオルを乾燥機で乾燥すると高温熱風により無臭の(高温熱風臭はする)ふかふかタオルが仕上がる。あるいは洗濯物が多いときに他のものはサンルームに干してコットンタオルだけを脱水後乾燥することも真冬には何度かある。これは半乾きから乾燥するよりも時間が多くかかるがこれまたふんわりかんわりといいかんじのタオルに仕上げてくれる。しかも冬に乾燥機を使うと洗濯機周辺がほんのり暖かくなりその暖気が屋内に流れほどよく暖房効果をもたらしてくれるのもよい。

 洗濯機の内蓋は洗濯物を出し入れしている間は外蓋とともに開けたままにしておくものなのだけど、ここ数ヶ月くらいだろうか、外蓋と内蓋を開けて洗濯カゴの洗濯物を洗濯槽に入れている最中に内蓋が勝手にパタリとおりてきて閉じたり、できあがった洗濯物を取り出している最中に内蓋が閉じてきてうっかりしていると洗濯槽と内蓋に手を挟まれたり、ということが頻繁におこるようになった。そんなだから洗濯物を取り出すときには洗濯機の横にぶら下げた洗濯バッグに洗濯物を移し替えつつもう片方の手で内蓋がおりてこないようにおさえたりおさえないまでもすぐに元に戻せるように片手を待機させておくことが続くようになった。それは毎日軽微ではあるが身体精神への負担となり私の洗濯のよろこびを日々毎回わずかに削ぐ。

 取扱説明書を熟読したがそういう不具合に関する案内はない。これは一度お客様相談室に電話してなにか家庭でできる対策があるかどうか訊いてみようと決める。取扱説明書の最終ページに記載されている相談先は「お問い合わせ」と「修理依頼」の電話番号が別々に書かれておりいきなり修理を依頼するわけではないからまずはお問い合わせ窓口に電話する。取扱説明書と購入時の領収証と期限の切れた保証書を手元に準備して。

 オペレーターの方に「洗濯機の内蓋の不具合について相談したいこと」「使用中の洗濯機の型式番号」「購入年月日と販売店名」「メーカー保証期間は切れており販売店の延長保証には加入していないこと」を伝えたあとで現状を説明する。オペレーターさんは「その状態でしたらまずお客様に確認していただきたいことは、洗濯機の操作パネルの左側のあたりにあります水平確認窓で液体の中の空気が水平枠の丸の中に入っているかどうか見ていただきたいんです」と言う。「はい、それでしたら確認済みですが、水平枠の丸の中の十字のちょうど真ん中に空気の球の中心がきているわけではないものの枠の丸のなかにはきちんと入っております」と伝える。「そうですか、そうなりますと、もうお客様にしていただけることはなにもないということになりますので、一度点検に伺い診断の上で修理が必要であれば修理ということになります、ただその場合はこちらではなくエコーセンターという修理専用窓口にあらためてご連絡いただくことになるのですが」と案内くださる。「水平窓口確認以外にはできることはないのですか、そうですか、わかりました、では、修理窓口の電話番号を、あ、取扱説明書のここに書いてあるこの番号がそうですね、ではまた修理をお願いするかどうか検討しまして相談してみることにいたします」

 夜帰宅した夫に「今日洗濯機のメーカーさんの問い合わせ窓口に電話して内蓋のこと相談したんだけどね、水平状態の確認以外にはうちでできることはないらしくて、あとは修理依頼するかどうかになるんだって」と話す。夫はどれどれと洗濯機の外蓋と内蓋を開けて閉めてまた開けて「内蓋たしかにふらんふらんしてるもんなあ」と言う。
「私もあちこち見てどこかネジを締めるときゅっとしっかり自立するかなとか見てみたんだけどネジで固定してあるわけじゃないみたいなんだよね」
「そうやなあ。でもこれやったら、内蓋を開けた時に背中側に折りたたまれた外蓋があるそこに内蓋と外蓋の両方にマジックテープかマグネットをつけて洗濯物の出し入れをしている間それで蓋が開いたままの状態を維持できるようにしたらいいんじゃないかな」
「うーん、それでもいいのはいいけど、でもそれだと今度は蓋を閉じるときに毎回マジックテープをべりべりっと剥がすとかマグネットの磁力の程度にもよるけどその磁力に抵抗して蓋を動かす力が私の手にかかることになるでしょ。手指の痛みが出にくいように手にかかる負担を減らすように努めている私としてはそれよりもやっぱり本来の内蓋を開け閉めすればいいだけのほうがいいな」
「でもそれで当面解決するんならそれでええんちゃうかな」
「どうやらくんがその取り付けをしてくれるなら止めないけど、自分でマジックテープやマグネットを買ってきて裏面を接着させる手間をかける気は私にはないなあ。まあ、内蓋も毎回必ずパタパタ閉まるというわけではなく洗濯物を出し入れする間くらいは自立してくれて出し入れできて出し終わって干してる間に勝手にパタンと閉じることのほうが多いから、急ぎではないけど、修理依頼するかどうか考えながら使ってみてるから、その間にどうやらくんも何かいい方策を講じられそうならぜひ協力してほしいの、我が家の洗濯の快適のために」
「おー。わかった」

 それから約ひとつき(もしかすると数ヶ月)が経過して昨日『ああ、もう洗濯機の内蓋の修理をしてもらおう』と思い立つ。洗濯機の蓋が勝手に閉まって来て洗濯物の出し入れに支障があるというのはやはり日々洗濯機を使ううえにおいて正常でも適切でも快適でもない状態だもの。

 取扱説明書の修理依頼窓口の電話番号にかける。洗濯機型式番号と状態と、以前相談窓口で水平確認をするよう教えてもらいそれ以上はもうできることがないので修理依頼窓口に連絡するよう案内いただいたことを伝える。オペレーターさんは「お客様がご購入になった販売店と年月日はおわかりですか」と問われる。ああ、そういえば前回は購入時の領収証とメーカー保証期間の過ぎた保証書も手元に用意して電話したけどあのあとあれはどうしたのだったかしら取扱説明書や保証書類を置いているここのどこかに片付けたのかしらと探しつつ電話を続けるが見つからず「申し訳ないのですが今すぐ手元にわかるものが見つかりません。ただメーカー保証期間を過ぎていることはたしかですし、販売店の延長保証に追加で加入はしておりませんので、修理に必要な出張経費と実費はこちらに請求してください」と伝える。前回電話したあとにもう保証もないものはなくていいかと思って領収証と保証書を私は捨てたのかしら、とも思うけど捨てたのかどこか別のところに片付けたのかの記憶もない。「販売店名と購入年月日がわからないと修理になにか支障がありますでしょうか」と訊ねると「いえ、そんなことはないんです。ただもしなんらかの保証があるのであればそちらで対応させていただければお客様にご請求差し上げなくてもよいものですから。販売店に延長保証の有無を確認することもできますし、もし延長保証の対象ということとなればメーカーに直接ではなく販売店さんのほうからご依頼いただくことになるものですから」と説明してくださる。領収証保証書類をどこにやったのかの記憶はない私ではあるが販売店の延長保証には加入していない記憶はたしかにあるのでその旨伝えて修理依頼する。オペレーターの方は「そうしますと、出張費用だけで四千円から五千円、あとは交換の部品によっていくらになるかは点検させていただいてからということになります」と言う。

「今回のケースの場合、部品があるものでその交換によって修理可能となりましたときにかかる金額の目安というのは現時点でわかりますでしょうか」
「ただいま確認してまいりますので、少々お待ちいだだけますでしょうか。いったんお電話保留にいたします」
「たいへんおまたせいたしました。内蓋まるごと交換になった場合で二万三千円となります」
「二万三千円ですか、それはまた高額ですね。でも一応いったん点検に来ていただいてそこまでの金額をかけて交換するかどうか修理担当の方に直接見ていただいた状態で相談させてもらってもよろしいでしょうか」
「はい、それは、もちろんでございます」
「ではまるごと交換だと二万三千円でまるごとでなく一部交換などであればそれよりも安い金額で済むこともあると思って算段しておいていいでしょうか」
「はい、そのように思っていただけましたら」

 昨夜夫に「明日洗濯機の修理に来てもらうことになった」と伝え上記の話をする。夫は「合計三万円弱もかかるのかー。なんだかなー」と言う。そして洗濯機の外蓋を開けてそのまま戻ってくる。

「どうやらくん、洗濯機の外蓋を開けたままにしてるけど、それはなにか意味があるの?」
「こうしてたらなんか洗濯機が元気になって内蓋直らんかなーと思って」
「いや、今になって直ったらだめなんだよ。明日修理屋さんが来てくれたときにちゃんといつもどおりに壊れた状態でぱったんぱったん勝手に閉じてくれないとそれを再現してもらわないといけないんだから下手に元気にしたらいかん」
「でもそんなに修理代かけるんならおれはやっぱりマジックテープかマグネットかなにかで固定して使うのがいいと思うなあ」
「そんなことは私が修理依頼の電話をする前にすかさずやっておかないと。それをしてないから私の手が何度も危険な目に遭ってこうして修理依頼したんだから」
「うちの洗濯機、延長保証に入ってないんだっけ」
「うん、入ってない。うちはまえにききそうできかない延長保証でがっかりすることがあって以来延長保証には入らないでやってきてるから。うちの家電製品いろいろあるけど、自分たちで買ったもので延長保証つけてないものは6個位はあると思うのよ。一個あたり延長保証料金が五千円として6個で三万円、今回三万円弱かかったとしても支払っていなかった延長保証料金貯蓄で払うと思えばまあいいかなと思う。それに自分たちで買った家電製品で修理屋さんに来てもらうのって結婚して初めてじゃないかな。二十数年暮らしてればそういうことは一回くらいはあってもよしとしようよ」

 そして今朝9時半に修理屋さんが来てくれた。「うちの製品がご迷惑をおかけしておりまして申し訳ないことです」と言いながら玄関に入ってこられる。洗面脱衣室の洗濯機を見てすぐに「ああ、これは内蓋を固定してある部分が擦れて弱くなったときにこうなるんです、よくあることなんです」との説明がある。

「ええっ、よくあることなんですか」
「はい、この内蓋はプラスチックの突起が本体にぎゅっと入れてあるだけの作りですので、何度も開閉していますとそこがだんだんと擦り切れてきて自立できなくなるんです」
「ええええ、洗濯機の内蓋なのにですか」
「そうなんです、昔のものであればそんなことはなかったんですが、最近の、そうですね、ここ10年以内くらいの製品はコスト削減が激しくなって、デザイン性は高くなっているんですが、こういう部分の作りが数年で劣化するようなものになっているんです」
「それは、なんというか、ものづくりとして、残念な気持ちになりますねえ」
「昔の洗濯機でしたら、こういう内蓋であってもプラスチックの突起ではなくちゃんとバネを中に入れてありましてそのバネがピシっとピタッと固定する構造になっていましたから、バネがダメになることは少なく、またもしダメになったとしてもバネだけ交換すれば元に戻せるようにしてあったんです」
「では、この蓋は、使用頻度にもよるのでしょうが、今回のように数年で自立しなくなるのが前提と考えるものなんですか」
「そうなんです、だいたい数年で自立しなくなります。長くもっても5年ですね、それ以上もつ場合もありますが」
「販売店の5年保証に入っていてちょうどよく5年以内でその不具合が起きてくれれば販売店の延長保証で対応していただけるんでしょうけど」
「ええ、だいたいみなさん、メーカー保証にしても販売店の延長保証にしてもそれぞれの保証期間が切れたころに不具合が起きることが多いですね。メーカー保証期間の一年以内はまだまだ新品ですからそんなに早く壊れたらいかんというのもありますが、延長保証の5年となると運良く4年7ヶ月の時点で不具合が生じたらちょうどいいタイミングでしたねえ、とお話しますがそういうことは稀です」
「内蓋が自立しなくなった場合皆さんどうしていらっしゃるんですか」
「これまでに別の修理で伺って内蓋もたたなくなっていますね、というところでああこれはよく工夫していらっしゃるなと思ったのは百円ショップやホームセンターなどで売っているS字フックっていうんですかね、それでひっかけて留めて、フタをするときにはフックを外して、ってしておられるところがありました」
「S字フックでしたら、うちにもちょうどここにありますが、これをこんなかんじでこうでしょうか」
「あら、S字じゃなかったですかね、長めのCの形のフックだったかもしれません」
「なるほど、しかし家電製品として数年経つとそういう本来の製品以外のものを持ってきて留めてやらないといけなくなるというのは製品として残念なかんじですねえ」
「そうなんですよ、ほんとうに。あとはお客様によっては、乾燥機能のついた洗濯機買ってみたけどやっぱり乾燥機能は全然使わないから乾燥のためだけに必要な内蓋ならこんなぱたんぱたん落ちてきて勝手に閉じる内蓋ならもう外して取っつんて(取ってしまってちょうだい)と言われることもあります。洗濯だけであれば多少飛沫が飛びますが内蓋なしで外蓋だけでも作動しますから」
「はー、なるほどー。うちは乾燥機能も使うときには使いますから内蓋はほしいですね」
「この内蓋自体は部品代が4200円ですので、なんでしたらなにかそういうフックで固定する方法でいかれることになさってもどちらでも」
「そのお値段なのですが、昨日お電話で部品交換した場合の金額の概算をお伺いしましたところ23000円程度と聞いていたのですが、4200円に何がどう加わると23000円になるんでしょうか」
「ええええっ、23000円って、内蓋だけでそんな高くはなりません」
「それでは23000円はなんのお値段なんでしょう」
「ああ、今部品代一覧見てみましたが、洗濯槽と一緒に一式まるごと交換した場合のお値段が23000円ですね、まちがってそちらをご案内したんですね、すみません」
「ああ、そうですか、でしたら、交換の方向でお願いしたいですが、お値段の合計を確認させてください」
「はい、出張費用が2400円、内蓋部品代が4200円、点検診断料金が1000円で」
「あと工賃はいかほど」
「工賃ですねえ、これが工賃をいただくほどの技術ではなくてですね、ほんとただたんに蓋を引っ張って外して新しいふたを押して入れるだけなんで、工賃をいただくのも申し訳ないくらいでして、うーん、どうしようかなあ、うーん、今回は点検診断工賃合わせて技術料という形にさせてもらいます、そうしますと合計で税込みで8200円ほどになるかと」
「わかりました、では交換してください」

 内蓋がパカっと取り外され「ここの部分が開閉が重なることで劣化してかちっととまらなくなるせいで自立できなくなるんです」と見せてくださる。取り外すときにドライバーのようなものをわずかに補助として使いはしたがほぼ素手のみで引っ張るだけの作業であった。そして段ボール箱から取り出した新しい蓋の蝶番部分を本体に噛みあわせて押し込めて完成。

「むかしの洗濯機であればご購入後20年くらいは使っていただけるのものだったんですが、今はもう長くもって10年と思っていただいたほうがいいと思います。それほど作りがなんというか昔に比べますと壊れやすくなっていますので」
「そうなんですか。うちはこの洗濯機の前はやはり日立さんの静御前を20年近くつかってまして本当によく働いてくれたいい洗濯機だったんです。あと冷蔵庫も電子レンジもうち日立さんのものなんですがこれももう20年以上経ちますがまだまだ現役でよく働いてくれて助かってるんです」
「ありがとうございます。あの頃の製品は本当にそうなんです」
「しかし、そんなに簡単に壊れるというのは、なんというか、やはり、ものづくりとして、特に家電製品では、残念なことですね」
「はい、まったく、おっしゃるとおりです」
「参考までに教えていただきたいのですが、内蓋は数年で自立しなくなるとして、他にはどんな不具合がこの洗濯機の場合には想定できるでしょうか」
「それはもうありとあらゆる不具合が起こりうるんです」
「そんなにですか」
「むかしの製品はそんなにそんなことはなかったんですが今のはそうなんです。まずそうですね、たとえばここの給水排水の蛇腹のパイプがありますよね、ここに亀裂が入って漏水するということもよくあります、その場合はこのパイプを交換します。あとは、ここに外蓋を閉じたときに脱水時や乾燥時などにロックがかかるカチッと留まる部品が入っているんですが」
「はいはい、ロックがかかるときにカチっていってます」
「その部品がですね、むかしはそう簡単には壊れないものでできていたんですが、今はわりと簡単に壊れる素材になっていまして、ロックしたままで壊れて蓋が開けられなくなるという不具合もあります」
「そ、それは、洗濯物が洗濯機の中に入ったまま取り出せないということでしょうか」
「そうなんです」
「すぐに干せないと修理に来ていただくまでの間に洗濯物がくさくなると思うんですが」
「はい、たいへんな不具合です。あとはそうですね、モーターはダメになることはないんですがベアリングが壊れて洗濯槽が回転しなくなることもあります」
「そうですか、そんなにいろんな可能性があるんですね、わかりました、よく覚悟しておきます。ところでうちの洗濯機の場合、この外蓋をもう少し向こう側に倒すことができたら内蓋も手前に落ちて来にくいのではないかと思うんですが」
「こちらの洗濯パンのサイズが洗濯機自体は入るサイズではあるんですがあと手前にもう5センチ本体をずらすことができるサイズでしたら外蓋が水道蛇口とぶつかることなくもう少し後ろ側に倒れることができるんですね、そうしますと内蓋もそのぶんぐっと向こう側に倒れた状態になりますので手前に倒れて来にくくなります。かんじとしては(洗濯機本体を手前にぐいと引き寄せて)こんなかんじでほら蓋がだいぶんうしろよりになりますよね」
「でしたら、たとえば洗濯機の足のところをぐりぐりと高さ調整して少し前傾気味にしてやってはだめなんでしょうか」
「それはだめですね。そうしますと水平ではなくなりますので洗濯槽の回転が不安定になります。今の水平状態がベストな状態なのでそこは保ったままでお願いします」
「あと水道の蛇口のこの接続の部品のこの角ばったところがあるのが洗濯機の外蓋をあけたときに微妙に手前に押し出すことになっている気がして。角ばったところを別の位置に移動させることってできるんでしょうか」
「それは簡単にこう回すだけで。念のためいったん水道蛇口閉めますね。これくらいの位置だとどうでしょう」
「ああ、そんなに動きますか。私の手では全然動かなくてあきらめてたんですけど。これなら突起部分が蓋に当たらなくてよくなりました」
「あ、水道の蛇口のところ、わずかに水漏れしてますね。これはうちの仕事ではなく水道屋さんの仕事になりますので、そのうちにパッキンの交換をしてもらってください」
「パッキンの交換でしたら、うちに予備のパッキンありますので自分でできると思います」
「いやご自分では難しいでしょう、元の水栓も止めないといけませんし」
「元の水栓止めて家中の蛇口のパッキンの交換はこのまえしたばかりですので、でもそういえばここはしていませんでした。また元水栓止めてここを道具で回して開けて中のゴムのパッキンを入替えて、ですよね」
「そうです、パッキン交換されたことあるなら大丈夫ですね、その手順でしてください。今はできるだけ水漏れしにくいように蛇口を最大まで開けておきますね」
「ありがとうございます」
「では、車に一度戻りまして、伝票を作成してまいりますので、お代金と印鑑のご用意をお願いいたします」
「はい、わかりました」

 ほどなく修理屋さんの携帯から電話がかかり「申し訳ないのですが、洗濯機の横に書いてある型番と製造番号を読んで教えていただけますか」と連絡が入る。「BWD85V」「4013574」と読み上げる。しばらくすると玄関に戻ってこられ「ではこちらの金額で端数は切り捨てまして8200円お願いいたします」と伝票を提示され10200円出し2000円のおつりをもらう。指定された場所にシャチハタ印を押して修理は完了。

 新しい内蓋は開けた時にカチッとしっかりと自立し落ちてこない。そのままずっとじっと開いたままでいてくれる。すごく快適。そして閉じるときにはこれまでよりもきゅうっとぴっちりと閉じてくれる。修理屋さんに「なんとなくカチッと押して閉じるのにこれまでよりも少し力が要る気がします」と言うと「新品のときはそうなんです。それがだんだんパッキンとこのカチッとなるところのプラスチックが劣化してきますとふやーんとしたかんじになってきます」と教えてもらいそういえば洗濯機が新品のころの内蓋はこんなかんじだったかもと思い出す。今の洗濯機のこともとても気に入っているからできることならまた二十年前後お付き合いできたらいいなあと思っていたのだけれども、今回いろいろ話しを聞いてそんなに長くはもたないのかもしれないと少しずつ思うようにしたほうがいいのだろうなと考えるようになった。家電製品の不具合相談と修理依頼と実際の修理の完了と支払いまでそれなりにじょうずにこなせてめでたしめでたし。     押し葉

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プロフィール

どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

ときどき、思い出したように、いただいたメッセージへのお礼やお返事をリンク先の「みそ語り」に書いています。よろしければ、いつでも、どうぞ、どなたでも、ご覧ください。「みそ語り」では、メッセージをくださった方のお名前は書いておりませんので、内容から、これは自分宛かしら、と推理推察しながら読んでいただければうれしいです。手の形の拍手ボタンからメッセージをくださる場合は五百文字以内、文字の方の押し葉ボタンからメッセージをくださる場合は千文字以内となっております。文字数制限なくお便りくださる場合には、下のメールフォームをご利用ください。

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